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書籍名

知財とパブリック・ドメイン 第3巻 不正競争防止法・商標法篇

判型など

336ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年2月

ISBN コード

978-4-326-40416-2

出版社

勁草書房

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本書は、合計三巻本で構成される『知財とパブリック・ドメイン』の第3巻であり、商標法と不正競争防止法法を扱う。この一連の企画は、科学研究費助成事業・基盤研究S「パブリック・ドメインの醸成と確保という観点からみた各種知的財産法の横断的検討」(2018~2022年度) の成果である。
 
従来、「パブリック・ドメイン」は、知的財産権の及ばない領域のことを意味するものとして、ともすれば、意識的または無意識的に、知的財産権に対立するものと考えられることが多かった。しかし、知的財産権という制度を設ける目的が、知的財産の創作を促すことで産業や文化の発展を期するところにあるのだとすると、じつは、知的財産権は究極的には皆が利用できるパブリック・ドメインを醸成することを目的としていることになる。
 
ところが、従来の知的財産法学の世界では、知的創作物や創作者概念に関心が集中する反面、パブリック・ドメインは知的財産権の対象ではないものとして消極的に定義されるに止まり、スポットライトが当てられることは稀であったと指摘する文献に接したことが、本研究の端緒となった。たしかに、知的財産法の目的が産業や文化の発展にあるのだとすると、知的創作物の創作の奨励とその保護は、産業や文化の発展を実現するための手段だということになる。そして、産業や文化の発展は、パブリック・ドメインを豊かにしその利用を確保することで果たされるはずである。そうだとすると、パブリック・ドメインの醸成こそが、知的財産法の究極の目的であると理解しなければならない。
 
たとえば、商標法、不正競争防止法の分野では、財産的価値がある以上保護を認めるべきであるという議論がなされることが少なくない。最近では、2018年不正競争防止法における限定提供データの不正利用行為規制が新設される際に、立法論としてビッグ・データに価値が生じている以上、ビッグ・データ保護権を新設すべきであるという議論がなされることもあった。これに対して、本研究では、パブリック・ドメインの醸成というマインド・セッティングの下で、財産権をデフォルトとする議論はとらず、価値があることばかりでなく、それに加えて積極的な理由が示されない限り、保護の拡大には慎重な態度をとっている。そのため、ビック・データに関しては、客体の保護に焦点を当てる客体アプローチではなく、不正な行為のみを規制する方向に重心を置く行為規制アプローチを提唱している。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 田村 善之 / 2025)

本の目次

第1部 総論
 
第1章 プロ・イノヴェイションのための市場と法の役割分担:インセンティヴ支援型知的財産法の意義──限定提供データの不正利用行為規制を素材として[田村善之]
 I 問題の所在
 II 市場と法の役割分担
 III ビッグ・データ保護法制導入の際の立法論の紹介
 
第2部 不正競争防止法
 
第2章 産業上の創作に関するパブリック・ドメインと不正競争防止法上の商品等表示としての保護[宮脇正晴]
 I はじめに
 II 特許制度との調整の要否についてのわが国の議論状況
 III 米国最高裁が示した「模倣の権利」アプローチ
 IV 検討
 V おわりに
 
第3章 標識法における機能性法理[小嶋崇弘]
 I はじめに
 II 米国商標法における機能性法理
 III EU商標制度
 IV 検討
 
第4章 人工知能に特有の知的成果物の営業秘密・限定提供データ該当性[奥邨弘司]
 I はじめに
 II 営業秘密
 III 限定提供データ
 IV 具体的当てはめ
 V 営業秘密および限定提供データとして保護する利点
 
第5章 ビッグデータの法的保護をめぐる欧米の議論動向──データプロデューサーの権利の創設提案を中心に[山根崇邦]
 I 序
 II 欧州
 III 米国
 IV 結びに代えて
 
第6章 データの集積・加工の促進と知的財産法によるデータの保護[前田 健]
 I はじめに
 II データを法的に保護する必要があるのはなぜか
 III 知的財産法におけるデータの取り扱い
 IV おわりに
 
第7章 不正競争防止法における理由のない特許権侵害警告──特許権者による裁判外の差止請求と市場競争の自由とのバランスのとり方[駒田泰土]
 I 問題の所在
 II 権利行使説
 III 近年の裁判例
 IV ドイツ法の状況
 V むすび
 
第3部 商標法
 
第8章 商標権侵害訴訟における商標の類似性要件の実証的研究[平澤卓人]
 I 問題の所在
 II 裁判例の分析
 III 結論
 
第9章 商標的使用論の再構成[宮脇正晴]
 I はじめに
 II 裁判例における商標的使用論の再構成
 III 商標的使用論を再構成すべき理由
 IV 再構成の意義
 V おわりに
 
第10章 メタタグ・検索連動型広告における商標の使用[金子敏哉]
 I はじめに
 II メタタグ・検索連動型広告に関する裁判例の検討
 III 検討
 IV おわりに
 
あとがき(中山一郎)
 

関連情報

書籍紹介:
あとがきたちよみ 『知財とパブリック・ドメイン 第3巻:不正競争防止法・商標法篇』 (勁草書房編集部ウェブサイト『けいそうビブリオフィル』 2023年3月15日)
https://keisobiblio.com/2023/03/15/atogakitachiyomi_chizaitopd3/

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