東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に大きな黄色の数字

書籍名

知財とパブリック・ドメイン 第1巻 特許法篇

判型など

500ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年1月

ISBN コード

978-4-326-40414-8

出版社

勁草書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

知財とパブリック・ドメイン 第1巻 特許法篇

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、合計三巻本で構成される『知財とパブリック・ドメイン』の第一巻であり、特許法を扱う。この一連の企画は、科学研究費助成事業・基盤研究S「パブリック・ドメインの醸成と確保という観点からみた各種知的財産法の横断的検討」(2018~2022年度) の成果である。
 
従来、「パブリック・ドメイン」は、知的財産権の及ばない領域のことを意味するものとして、ともすれば、意識的または無意識的に、知的財産権に対立するものと考えられることが多かった。しかし、知的財産権という制度を設ける目的が、知的財産の創作を促すことで産業や文化の発展を期するところにあるのだとすると、じつは、知的財産権は究極的には皆が利用できるパブリック・ドメインを醸成することを目的としていることになる。
 
ところが、従来の知的財産法学の世界では、知的創作物や創作者概念に関心が集中する反面、パブリック・ドメインは知的財産権の対象ではないものとして消極的に定義されるに止まり、スポットライトが当てられることは稀であったと指摘する文献に接したことが、本研究の端緒となった。たしかに、知的財産法の目的が産業や文化の発展にあるのだとすると、知的創作物の創作の奨励とその保護は、産業や文化の発展を実現するための手段だということになる。そして、産業や文化の発展は、パブリック・ドメインを豊かにしその利用を確保することで果たされるはずである。そうだとすると、パブリック・ドメインの醸成こそが、知的財産法の究極の目的であると理解しなければならない。
 
たとえば、本巻が扱う特許の世界では、意識的ないし無意識的に、知的「創作物」を保護するというマインド・セッティングがとられていた結果、ビジネス・モデルや金融商品などの抽象的なアイディアであっても、そこに創作が働いている限り、特許を認められている。また、食品等について新たな用途が発見された場合、特許を認めるという結論がとられたり、既存の公知技術と構成は同じであっても顕著な効果を見出した場合に特許が認められる。そして、数値限定発明、用法用量発明等のパブリック・ドメインと境を接する特許が認められた場合、パブリック・ドメインに浸食するような場合でも創作者の保護を優先して差止請求を認めるアプローチがとられてきた。それに対して、本研究では、抽象的なアイディアに関してパブリック・ドメインに属すべきと判断した以上は、いかにそこに独創性が認められても特許すべきではないと説く。また、公衆がこれまで食していたパブリック・ドメインを保護するために、公知技術と区別できない以上は新規性がなく特許を否定するという結論を提唱する。そして、新しい効果が見出されたとしても、公知技術と構成を同じくするのであれば進歩性を否定する。くわえて、数値限定や用法容量発明について特許を認めるとしても、パブリック・ドメインと区別しうる場合に限り保護を認める施策を講じている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 田村 善之 / 2025)

本の目次

はしがき[田村善之]
第1部 総論
 
第1章 特許制度における創作物アプローチとパブリック・ドメイン・アプローチの相剋[田村善之]
 I 問題の所在:創作物アプローチvs.パブリック・ドメイン・アプローチ
 II 特許制度における課題
 III 権利の入口の場面における相剋
 IV 権利の出口の場面における相剋
 V 結びに代えて:権利の出口と入口のインタラクティヴな関係
 
第2部 特許要件
 
第2章 特許適格性要件の機能と意義に関する一考察[田村善之]
 I 関連規定
 II 自然法則の利用の要件の淵源
 III 事例研究
 IV 解釈論の構築
 V 新規性・進歩性要件との関係
 VI 結び
 
第3章 用途発明の意義──用途特許の効力と新規性の判断[前田 健]
 I はじめに
 II 用途発明の意義
 III 用途発明の特許権の効力
 IV 用途発明の新規性
 V おわりに
 
第4章 パブリック・ドメイン保護要件としての新規性/進歩性の再構成──内在的同一について特許を認めたロシュv.アムジェン事件を端緒として[吉田広志]
 I 特許要件は何のために存在するか?
 II 内在的同一におけるPDと特許権の調整
 III 従来の裁判例
 IV 検討
 V 終わりに代えて
 
第5章 AIと進歩性──若干の問題提起[中山一郎]
 I はじめに
 II 従来の議論
 III 問題の所在
 IV 米国の先行研究
 V 若干の検討
 VI おわりに
 
第3部 侵害の成否
 
第6章 「広すぎる」特許の規律とその法的構成──クレーム解釈・記載要件の役割分担と特殊法理の必要性[前田 健]
 I はじめに
 II 「広すぎる」特許はどのように処理されてきたか
 III 「広すぎる」特許はどのように処理すべきか
 IV 保護の限界としての「明細書に開示された技術的思想」
 V おわりに
 
第7章 クレイム制度の補完としての均等論と第5要件の検討──第4要件との関係から考えるコンプリート・バーとフレキシブル・バーの相克[吉田広志]
 I 方法論としてのクレイム制度とその功罪
 II マキサカルシトール最高裁判決
 III 補正・訂正と第5要件──コンプリート・バーかフレキシブル・バーか
 IV 第5要件と第4要件との関係
 V コンプリート・バー/フレキシブル・バーに関する裁判例──その1・否定例
 VI コンプリート・バー/フレキシブル・バーに関する裁判例──その2・肯定例
 VII 試論・あるべきフレキシブル・バーの高さを巡って
 VIII 結びに代えて
 
第8章 特許法の先使用権に関する一考察──制度趣旨に鑑みた要件論の展開[田村善之]
 I 問題の所在
 II 先使用権制度の趣旨
 III 発明の完成・事業の準備
 IV 発明の同一性
 V 実施形式の変更の可否
 VI 結びに代えて
 
第4部 救済
 
第9章 特許権侵害に対する差止請求権の制限に関する一考察[鈴木將文]
 I 本稿の目的
 II 特許制度における差止請求権の意義
 III 我が国の動向と課題
 IV 国際的動向
 V 検討
 
第10章 COVID-19パンデミックにおける公衆衛生と特許──TRIPS協定ウェイバー提案を踏まえて[中山一郎]
 I はじめに
 II 公衆衛生と特許権の関係
 III COVID-19パンデミック下での医薬品アクセスと特許をめぐる動向
 IV 今後の展望
 V おわりに
 
第11章 Kimble最高裁判決を通して見る米国における特許権のミスユースの展開──財産権・反トラスト・パブリックドメインという観点から[橘 雄介]
 I はじめに
 II Kimble事件
 III 特許権とミスユースの関係史
 IV 反トラスト法とミスユースの関係史
 V おわりに:Kimble判決の意義と特許権の外延論への示唆
 

関連情報

書籍紹介:
あとがきたちよみ 『知財とパブリック・ドメイン 第1巻:特許法篇』 (勁草書房編集部ウェブサイト『けいそうビブリオフィル』 2023年1月30日)
https://keisobiblio.com/2023/01/30/atogakitachiyomi_chizaitopd1/

このページを読んだ人は、こんなページも見ています