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白とベージュの表紙

書籍名

ちくま新書 1850 「東大卒」の研究 データからみる学歴エリート

著者名

本田 由紀 (編著)、 久保 京子、近藤 千洋、 中野 円佳、 九鬼 成美 (著)

判型など

272ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2025年4月8日

ISBN コード

978-4-480-07678-6

出版社

筑摩書房

出版社URL

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「東大卒」の研究

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何事であれ、できるだけ正体を見極めることが必要である。何かに対して過剰に肯定的な意味付与をすることも、過剰に否定的な意味付与をすることも、幻影にふりまわされているだけである。巨大で複雑で歴史が長い対象であれば、正体を見極めることはいっそう難しくなる。そうであればこそ、対象について様々な側面から切り分けつつ検討するための情報が必要である。
 
前置きが長くなったが、さて、本書の対象は東京大学である。日本最大で最も歴史の長い国立大学である東京大学には、毎年、大量の学生が入学生として流れ込み、卒業生として流れ出している。入学生というインプットが、教育・学生生活というスループットを経て、アウトプットとして社会に出てゆく。東京大学という組織の作動を検討するためには、もちろん研究成果や社会貢献などの切り口からデータを集めることも可能だが、インプット、スループット、アウトプットひいては社会に出た後のアウトカムという、学生のフローから検討することも一つの重要なアプローチである。
 
しかしなぜか東京大学はこれまで、組織の中にいる学生や教職員に対しては様々な調査を実施してきたが、卒業生に対する包括的な調査は実施してこなかった。卒業生に対して調査を行えば、インプットやスループットについても回顧的であっても情報を入手することができる。そう考えて実施した卒業生調査データを、地方出身女性、大学第一世代、職業キャリア、家族形成、社会意識という5つのテーマに沿って分析した結果を、筆者と筆者の指導生である4名の博士課程大学院生によってまとめたものが本書である。
 
初めての調査であるため多様な角度から分析が可能であるように調査票を設計したため回答負担が大きくなり、予想よりは回答者数が限られる結果になった。サンプルバイアスの可能性も否めない。しかし、分析可能な回答数には達したため、まずはこのデータから引き出される知見を紹介しようと考えて本書を編んだ。より精確な実態調査のためには、願わくば東京大学自身が実施主体となって、より代表性の高いサンプルを集めることが必要である。
 
分析の過程で、いくつもの発見があった。地方出身女性と首都圏出身女性との間では入学前の生育環境がかなり異なること、大学第一世代 (両親のいずれもが大卒ではない者) は勉学に関して不利は無いが課外活動や人的ネットワークについてはやや低調であること、今回のデータでは卒業生には管理職・経営層だけでなくかなりの割合で専門職が含まれていること、東大卒業生の内部で見れば女性や大学第一世代は収入面で不利になりがちであること、東大卒女性は高い割合で家庭をもっていること、一般的な意識調査と比較して再分配への意識がやや弱いことなどである。
 
東京大学は、流れ込み流れ出てゆく人々に対して、総じてポジティブな経験や知識を与え、社会に出た後に多くの人々は「学歴エリート」としての属性だけでなくプラスαの行動により各所に地歩を得ていた。しかし東京大学にも、入学前の経歴や属性の刻印を消して「生まれ変わらせる」ような威力はない。当然ながら卒業生は一枚岩ではなく、切り口に応じて落差や濃淡を含んでいる。
 
この巨大な大学が、もとより有利な出自の層の世代間継承や再生産のために簒奪されてしまうようでは、その存立根拠そのものが脅かされる。人のフローの観点からの自己点検・自己改善の努力を、東京大学は今後もいっそう必要としている。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 本田 由紀 / 2025)

本の目次

序章 「東大卒」は日本社会の何を映しているのか(本田由紀)
重なり合う象徴としての東京大学/知的優秀さの象徴としての東大/東大卒業生の社会的地位/東大の研究力は高いのか/東大に凝縮される「教育格差」/東大におけるジェンダーギャップ/闘争・運動・抵抗の宿る場としての東大/日本社会の現状と「学歴エリート」としての東大/東京大学を対象としたこれまでの調査など/東京大学卒業生に対する調査の概要/本書の構成
 
統計用語の解説
 
第一章 「地方出身東大女性」という困難――出身地格差とジェンダー格差(久保京子)
東大生の地域・性別の偏り/なぜ「地方女性」に着目するのか/東京大学の地方女性を調査することの困難/分析に用いる方法/親学歴における地方と東京圏の格差/フルタイム率が高い地方女性の母親と無就業率が高い東京圏女性の母親/文化的資源の豊かな東京圏女性とそれを追いかける地方女性/地方女性の親子関係/読書量の多い地方女性、海外経験がダントツに多い東京圏女性/友だちは多くないが交際経験のある地方女性/誰に東大進学を勧められたか/地方女性の特徴/地方女性の困難/女性が少ないことや地方学生が少ないことへの問題意識/まとめと提言
 
第二章 東大生の学生生活――「大学第一世代」であるとはどういうことか(近藤千洋)
大学進学は教育格差の終わりか?/見過ごされたマイノリティとしての大学第一世代/大学第一世代の東大生は「男性」「地方出身」「共学出身」に多い/「東大に入学した理由」に見る大学第一世代の不利/大学第一世代は「実利志向」が強い?/東大に馴染めたのは誰か/ハラスメントや差別を受けやすいのは誰か/学業にはどう取り組んでいるか/課外活動にはどう取り組んでいるか/誰が・どんな人脈を形成しているか/学生生活の「大きな分断」/“不器用”な大学第一世代は就職活動でも不利?/まとめと提言
 
第三章 東大卒のキャリア形成――学歴資本は職業的地位にどうつながるか(本田由紀)
「学歴エリート」の職業キャリアとは/就労状態と雇用形態――働き方の分布はどうなっているか/職種――どんな仕事をしているか/役職――どのくらい「偉く」なっているのか/勤務先の規模――大企業に就職しやすいのか/転職経験――内部労働市場にとどまっているのか/収入――高い報酬を得ているのか/仕事の性質――どのように感じながら働いているのか/仕事における自身の性別の有利・不利/学歴資本は有効か/まとめと提言
 
第四章 東大卒の家族形成――だれと結婚し、どんな家庭をつくるか(中野円佳)
3つの問い/東大卒の女性は結婚できないというのは本当か?/女性の東大卒業生の結婚相手は半数程度が東大卒/東大卒業生の出会い/東大卒業生が結婚相手選びで重視したこと/東大卒業生の子どもの数/仕事と子育てを両立してきた女性の卒業生たち/東大卒業生の子育て、階層は再生産されているか/東大卒業生を親にもつ子どもは受験をしているか/まとめと提言
 
第五章 東大卒は社会をどう見ているか――自己責任論、再分配支持、社会運動への関心からジェンダーギャップ認識まで(九鬼成美)
なぜ東大卒の社会意識を分析するのか/なぜ格差や不平等に関する社会意識の分析が必要か/東大卒業生を育む学び、学び方、課外活動/東大卒業生はどのような社会意識をもつか/「自己責任意識」はどのように育まれたか/「再分配支持」はどのように育まれたか/「社会運動への関心」はどのように育まれたか/「ジェンダーギャップ認識」はどのように育まれたか/東京大学の学びや生活以外の社会意識への影響/専攻と学び方で育まれる社会意識は異なるか/まとめと提言
 
おわりにかえて――座談会 「東大卒」を考える(著者全員)

関連情報

試し読み:
「東大卒」は日本社会の何を映しているのか ー 『「東大卒」の研究―データからみる学歴エリート』ためし読み/本田由紀【ちくま新書】 (webちくま (筑摩書房の読みものサイト 2025年3月29日)
https://www.webchikuma.com/n/n323a95cccec5
 
著者インタビュー:
PIVOT TALK CAREER 「東大」の課題と存在意義 (『PIVOT』 2025年11月29日)
https://pivotmedia.co.jp/movie/13643
 
PIVOT TALK CAREER 「東大卒」は幸せになれるのか (『PIVOT』 2025年11月29日)
https://pivotmedia.co.jp/movie/13642
 
東大の中にある、格差社会の芽 卒業生2437人調査「『東大卒』の研究」、著者たちに聞く (『朝日新聞』 2025年7月13日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16256473.html?msockid=0ce70ce6a10e678310c91d92a0e466ba
 
「東大卒」の研究 収入とキャリアの格差 (『毎日新聞』 2025年6月23日)
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20250620/pol/00m/010/004000c
 
「東大卒」は幸せなのか? 2437名に聞いてわかった地方出身、就職、結婚など待ち受ける困難「それだけで“勝ち組”でいる人は少ない」 (『集英社』ホームページ 2025年5月31日)
https://shueisha.online/articles/-/254109
 
Anatomy of Tokyo University Graduates: Meritocracy and Gender Gap  (Japan Policy Forum『Discuss Japan』No.77 2023年7月31日)
https://www.japanpolicyforum.jp/society/pt2023073112282413248.html
 
書評:
中北浩爾 評「解題新書」 (『読売新聞』夕刊 2025年7月5日)

竹内洋 評「[読書]教育 「東大卒」の研究 本田由紀編著 調査を基に少数派に着目」 (『沖縄タイムス』 2025年5月31日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1594370
 
書籍紹介:
東大卒人材の“収入格差”を生み出す「東大入学前の要因」とは? (DIAMOND online 2025年8月24日)
https://diamond.jp/articles/-/369358
 
東大OB2437人に聞いた「東大卒の学歴は役に立ってますか?」→4割が「NO」の理由とは (DIAMOND online 2025年8月23日)
https://diamond.jp/articles/-/369357
 
「東大は個性的な人が集まる場所」という幻想、アメリカより深刻な“隠れ格差”の正体 (DIAMOND online 2025年8月22日)
https://diamond.jp/articles/-/369339
 
東大卒でも報われない?学歴では超えられない「出身」と「ジェンダー」の壁 (『風傳媒』 2025年7月5日)
https://japan.storm.mg/articles/1050535
 
「東大を出ればバラ色の未来」ではない……“東大の満足度”に差をもたらすジェンダーと職業 (『みんかぶ』マガジン 2025年6月7日)
https://mag.minkabu.jp/life-others/33267/?membership=1
 
東大卒の親はやっぱり高学歴……東大卒業生調査が明らかにした「高学歴再生産」の実態 (『みんかぶ』マガジン 2025年6月6日)
https://mag.minkabu.jp/life-others/33263/?membership=1
 
「親と不仲&友達が少ない人が多い」地方女性、「専業主婦の母親&教育熱心な家庭が多い」東京女性――東大女性の中にも大きな差 (『みんかぶ』マガジン 2025年6月5日)
https://mag.minkabu.jp/life-others/33256/?membership=1
 
(新書・文庫)『「東大卒」の研究』本田由紀 編著 (『日本経済新聞』 2025年5月17日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO88714870W5A510C2MY6000/?msockid=0ce70ce6a10e678310c91d92a0e466ba
 
「女は短大でよい」「大学は地元国立のみ、上京不可」「化粧くらいしろ」…地方出身の“女子東大生”が明かす「生きづらさ」 (『文春』オンライン 2025年4月26日)
https://bunshun.jp/articles/-/78440
 
〈Youは何しに東大へ?〉「官僚」でも「商社」でもない…「東京大学」卒業生に人気の“仕事”とは (『文春』オンライン 2025年4月26日)
https://bunshun.jp/articles/-/78444
 
「氷河期世代」でもさすがの“高収入”…学歴エリート「東大」卒業生たちの“世代別月収” (『文春』オンライン 2025年4月26日)
https://bunshun.jp/articles/-/78445
 
メディア出演:
本田由紀氏生出演『東大卒・学歴エリートの生態と格差社会を深掘りする」 (深堀TV | YouTube 2025年4月17日)
https://www.youtube.com/live/1n2NdLqRGaU?si=k5Jc4QLgFXSkCALv
 

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