
書籍名
文系大学生は専門分野で何を学ぶのか 専門分野別習得度から考える
判型など
220ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2025年3月31日
ISBN コード
9784779518546
出版社
ナカニシヤ出版
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
白い表紙の本書『文系大学生は専門分野で何を学ぶのか』は、黒い表紙で2018年に刊行した『文系大学教育は仕事の役に立つのか』(ナカニシヤ出版) に後続する調査研究プロジェクトの成果である。
先進諸国や後発国で高等教育進学率が総じて上昇を遂げてきた結果、すでに高等教育は一枚岩では捉えられなくなっている。高等教育の内部に複数の教育機関類型が存在するだけでなく、一つ大学という類型だけをとっても、その中には垂直的 (威信、歴史、入学難度など) および水平的 (学問分野) な分化が進んでいる。このうち水平的な分化についても、大ぐくりな分野カテゴリーを用いて進路選択や教育効果、卒業後のキャリアなどの相違を把握する研究は進んでいるが、より細かい学問分野の単位で何が学ばれており、各専門分野の大学教育が卒業後にどう影響するかについての分析は乏しい。
こうした状況に対して、前回の黒い本に続いて今回の白い本でも、人文社会科学系 (いわゆる文系) 内部の具体的な諸学問分野 (法律学、歴史学、文学・言語学、社会学、心理学など) に焦点を当て、大学最終学年在学時から卒業後数年間にかけての追跡調査を実施した。前回と今回の大きな違いは、今回は各分野で身につけた内容を把握するための分野別「習得度」という独自の調査項目を開発し使用していることである。この「習得度」項目は、日本学術会議が多大な労力をかけて作成した「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」(https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigakuhosyo/daigakuhosyo.html) に準拠し、各分野の記載内容を質問項目に落とし込んだものである。これらを大学の最終学年在学者に質問することにより、個々の大学生が各分野で習得した内容を把握することができるとともに、前記の「参照基準」の妥当性をも検討することができるという調査設計のもとに収集したデータの分析結果を、白い本では可能な限り包括的に提示した。第I部の各章では習得度の回答分布、その規定要因、卒業後の職業スキルや大学への認識などへの影響を分析しており、第II部では習得度以外にも視野を広げて、入試方法の変化、大学政策の効果、資格取得行動、大学院進学など、現在の日本の大学教育に関わる事項について分析している。
具体的な個別の知見についてはぜひ本書を参照していただきたいが、一点のみ強調しておくならば、各専門分野の習得度、すなわち、真摯に学んで専門知識を身につけた成果は、卒業後にその専門と合致する仕事に必ずしも就いていなくとも、職業スキルや社会意識、大学観に対して、総じてポジティブな影響を及ぼしているという知見が得られたことである。当然と言えば当然かもしれないが、黒い本に続いて、「文系の大学教育など役に立たない」論への反駁には一定程度成功したと自負している。
なお、最終章の第11章で詳述されているように、今回の白い本で用いた習得度項目は、分野別の間接評価であるという点で特徴的であり、それに伴う独自性と制約を併せ持つ指標である。テストなどを使用する直接評価ではなく、また汎用的な行動特性、いわゆるコンピテンシーを捉えようとするものでもない。各学問分野のコンテンツに定位し、それを回答者の自己評価で把握することの得失については議論が続けられる必要がある。しかしあえてこのような指標を使用した本プロジェクトの意図は、非認知能力などコンピテンシー流行りの動向に対して、コンテンツの習得の重要性を再提起することにもあった。教育機関において教えることができるのはコンテンツであり、コンピテンシーはその過程や教育方法を通じて副次的な習得が期待されるものにすぎない。コンテンツをベースにした、大学教育の教育学的検討が、本書を契機としてさらに展開を遂げることを期待する。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 本田 由紀 / 2025)
本の目次
分野別参照基準に依拠した分野別の習得度項目を使用した調査の概要 (本田由紀・香川めい)
1 大学教育での「学び」をいかに把握するか
2 「習得度」項目の作成
2-1 分野別参照基準における「知識・スキル」の記述のされ方と位置づけ/2-2 質問項目の作成プロセス
3 調査の概要
4 本書の構成
第I部 専門分野別習得度を軸とした分析
第1章 「習得度」からみる専門教育の学習成果
10分野の習得度項目の回答結果 (本田由紀)
1 本章の目的:個々の専門分野で学生は何をどれほど学んでいるか
2 10分野の習得度項目の回答結果
2-1 言語・文学/2-2 哲 学/2-3 歴史学/2-4 法 学/2-5 政治学/2-6 経済学/2-7 経営学/2-8 社会学/2-9 社会福祉学/2-10 心理学
3 習得度項目の回答結果が示唆する専攻分野別の教育課題
第2章 専門分野別習得度と関連する大学教育とは何か
何を考え、どのように学んだかという学習経験の重要性 (小山 治)
1 問題設定
2 先行研究の検討
3 変数の設定
4 分 析
4-1 学部の偏差値・大学の成績と専門分野別習得度との相関関係/4-2 専門分野別習得度の規定要因
5 結 論
第3章 専門分野の習得度は卒業後にどう影響しているか
職業スキルおよび社会意識への影響を検討する (本田由紀)
1 問題関心と仮説
2 変数・データ・分析方法
3 分析結果
3-1 仮説Aに関する分析/3-2 仮説Bに関する分析
4 結論と考察
第4章 専門分野習得度と大学教育の有効性認識
パネルデータを用いた「学び習慣仮説」の再検討 (椿本弥生)
1 問題と目的
2 分析1:分野ごとの「習得度」と大学教育の有効性との相関[Wave1 ~4 の推移]
2-1 使用した変数、対象者、分析方法/2-2 分析1の結果と考察
3 分析2:専門分野習得度と大学での学びの仕事への活用度の順序ロジスティック回帰
3-1 使用した変数、対象者、分析方法/3-2 結果と考察
4 専門分野別の回帰モデルの検討
5 まとめと今後の課題
第5章 聞き取り調査の結果から見る人文社会系大学教育の職業的レリバンス
学問分野別の知識習得度項目に着目して (二宮 祐)
1 はじめに
1-1 本章の目的/1-2 大学から職業への移行に関する近年の先行研究/1-3 調査の概要/1-4 解釈の観点
2 仕事に関連すると認識される知識
2-1 「関連がある」とされる仕事/2-2 言語・文学/2-3 歴史学/2-4 政治学/2-5 経済学/2-6 社会学/2-7 心理学
3 考察と課題
第II部 大学教育の諸側面
第6章 入試方法は大学での学びや成果とどう関連しているのか
「年内入試」利用者と「一般入試」利用者の違いに注目して (香川めい)
1 拡大する「年内入試」:一般入試とどう異なるのか?
2 データと変数
3 分析結果:入試方法によるさまざまな違い
3-1 入試方法と大学受験経験/3-2 入試方法と大学での学び方/
3-3 入試方法と能力評価
4 まとめ
第7章 大学時代のレポート学習行動は職場における経験学習を促進し続けるのか
卒業後2年目までの追跡 (小山 治)
1 問題設定
2 先行研究の検討
3 変数の設定
4 分 析
4-1 全体像の確認/4-2 職場における経験学習の規定要因
5 結 論
第8章 大学の地域教育は出身大学所在地と居住地の一致の有無と関連するのか
COC+に着目した卒業後2年目までの追跡 (小山 治)
1 問題設定
2 先行研究の検討
3 分析方法
3-1 分析対象/3-2 分析手法と変数の設定
4 分 析
4-1 出身大学の比較/4-2 COC+関連大学内での比較/
4-3 考 察
5 結 論
第9章 職業資格の取得の規定要因は何か
大学入学偏差に着目して (河野志穂)
1 はじめに
2 先行研究の検討と課題設定
3 どのような資格が取得されているのか
4 誰が資格を取得するのか
4-1 使用する変数と基礎統計量/4-2 分析の結果と考察
5 おわりに
第10章 人文・社会系大学生の学習経験と進学行動
学部時代の経験に着目した大学院進学要因分析 (久保京子)
1 問題設定
2 先行研究の検討と課題の設定
3 学部時代の経験・獲得された能力が進学行動に与える影響
3-1 使用するデータ/3-2 使用する変数/3-3 分 析
4 人文社会系学生の進学決定時期と進学理由
4-1 使用するデータ/4-2 インタビュー結果
5 まとめ
第11章 大学教育の質の把握に関する理論的検討
学生の習得度から何が見えるか (松下佳代)
1 本章の問題と目的
1-1 大学教育の質とは何か/1-2 大学教育の質をどう把握するか/1-3 本章の目的
2 学生を通した大学教育の質の評価のタイプ
2-1 タイプ分け/2-2 タイプごとの事例
3 習得度による大学教育の質の把握
3-1 本研究の位置づけ/3-2 大学教育の質はどう把握されたか
4 おわりに
事項索引
人名索引

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