東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、書籍タイトルに赤字で消した跡

書籍名

組織の不都合な真実 経営学は科学なのか?

著者名

高橋 伸夫

判型など

348ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2026年3月30日

ISBN コード

9784296125142

出版社

日本経済新聞出版

出版社URL

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組織の不都合な真実

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本書は著者が30年間在籍した東京大学経済学部を定年退職する際の最終講義「大和言葉の経営学」がもとになっている。そのせいもあって自分史・研究史的なスタイルをとっているが、それは印象を柔らかくし、読者にできるだけ抵抗感なく面白く読んでもらうためにとった表現スタイルである。内容的には、副題が示唆するように、今の経営学は科学ではないのではないかという問題提起の書である。単なる批判ではない。筆者は「まえがき」「あとがき」にも書いたように、これまで「データによって否定されるスリルのないところには、科学は存在しない」と考えて研究してきた。その研究成果をふまえての問題提起なのである。
 
たとえば、組織での「ぬるま湯感」は、組織人としての「体温」と職場の「システム温」(いわゆるお湯の温度) を測定して、その温度差で説明できるとした体感温度仮説を、筆者は1989年に学会誌に発表した。以来30年以上にわたって、のべ数万人分の調査データを集めて検証してきた。これまでのところデータは体感温度仮説を支持し続けている。多くの人がよく考えもせずに頭ごなしに批判する「ぬるま湯」だが、実は必ずしも悪い現象ではなく、むしろ健全さの現れであることも科学的に解明されているのである。
 
他方、最近流行の自己決定も「自己決定の感覚が高いほど、職務満足感は高くなる」という自己決定仮説を立てて、早くも1990年には調べ始めていた。こちらも、当初は横断的調査のデータで支持されているように見えた。だが、X社の正社員全員、千数百人を対象に、2004~15年度に毎年度1回、計12回行った全数調査のデータによって否定されてしまった。X社では途中で大規模組織再編が行われ、そのことでデータにも大きな変動がみられたのだが、その結果、自己決定度と満足比率の間に一貫して見られていた相関関係が、実は疑似相関であったことが明らかになったのである。両者の間には因果関係はなかった。
 
また、調査データの裏付けのないコンピュータ・シミュレーションの乱用に関しても警鐘を鳴らしている。筆者がコンピュータ・シミュレーションに手を染めるようになったきっかけは「ゴミ箱モデル (garbage can model)」との出会いだった。シミュレーション・モデル上想定されている組織現象が、本当に起きているのかを調べたくなった。1982年にゴミ箱モデルの存在を知ってから、「やり過ごし」を思いつくまでに実に5年もかかった。現場の拒絶反応を乗り越えて質問項目「指示が出されても、やり過ごしているうちに、立ち消えになることがある」を入れた質問票で調査できたのは1991年。あれだけ拒絶反応があったにも関わらず、66%の人が「はい」と答え、学会誌に発表したのが1992年。まさに構想10年である。当時、「やり過ごす」は「(1) うしろから来たものを前へ行き過ぎさせる。(2) 限度を超えてする。」の意味しかなかったので、(1) の応用として理解してもらえるだろうと使い始めた。日本語の用語を使うメリットである。今は『広辞苑』にも「ある状態が経過するにまかせる。厄介な物事と関係を持たないですます。」が意味として追加されている。現象としても日本語としても市民権を得られてうれしい。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 名誉教授 高橋 伸夫 / 2026)

本の目次

 第1章 ぬるま湯感を科学する
1 はじめに
2 ぬるま湯感解明の糸口
3 体感温度仮説
4 研究成果の公開に踏み切る

 第2章  新たな発見と『虚妄の成果主義』
1 はじめに
2 体感温度測定尺度の改良
3 熱湯がもたらす結果
4 ぬるま湯再考
5 徹底的なヒアリングから生まれた『虚妄の成果主義』

 第3章 シミュレーションで「やり過ごす」
1 はじめに
2 経営分野でのシミュレーションの始まり
3 硬貨投げのシミュレーション
4 ゴミ箱モデル:非常識な現象の存在を示唆する

 第4章 進化と学習のモデルの真実
1 はじめに
2 協調行動の進化モデル:未来係数が大きい世界
3 学習モデル:パラメータの値が現実的かシミュレーションではわからない
4 マルチエージェント・シミュレーション:動画が想像力を搔き立てる
5 コンピュータは進歩したが

 第5章 商業化失敗の副産物 金は労働の対価にはあらず
1 はじめに
2 契約書一枚書けたらビジネスになる
3 期待理論から内発的動機づけへ
4 自己決定度と自己決定仮説
5 市場では金銭的報酬は労働の対価ではない

 第6章 異次元の説明力:調査12年が解き明かす因果関係
1 はじめに
2 X社調査12年のデータで初めてわかった因果関係
3 X社調査12年は社会実験
4 統計的に優位な相関関係は因果関係を意味しない
 

関連情報

まえがき:
まいにち「はじめに」 (日経BOOK PLUS 2026年3月27日)
https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/032900009/031901231/
 
著者インタビュー:
日本的経営の強さを再考する:組織論の第一人者が語る「やり過ごし」の効能と安易な制度変更への警鐘(前編) (『JOB SCOPE』マガジン 2026年7月15日)
https://marketing.jobscope.ai/interview/japanese-management-strategic-inaction-part1
 
日本的経営の強さを再考する:組織論の第一人者が語る「やり過ごし」の効能と安易な制度変更への警鐘(中編) (『JOB SCOPE』マガジン 2026年7月15日)
https://marketing.jobscope.ai/interview/japanese-management-strategic-inaction-part2
 
日本的経営の強さを再考する:組織論の第一人者が語る「やり過ごし」の効能と安易な制度変更への警鐘(後編) (『JOB SCOPE』マガジン 2026年7月15日)
https://marketing.jobscope.ai/interview/japanese-management-strategic-inaction-part3
 

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