朝、スマートフォンを開けば、「腸を整えて睡眠改善」「疲れにくい体へ」といった魅力的な言葉が目に飛び込んできます。現代は空前の「腸活」ブーム。しかし、ふと疑問に思うことはないでしょうか。「なぜ、お腹の状態が、脳の働きや心の安定にまで影響するのか」と。世間にあふれる健康情報の背後には、どのようなメカニズムが隠されているのでしょうか。その答えの鍵となるのが、近年、医学・生命科学の世界で急速に注目を集める概念、「脳腸相関」です。
かつて、腸は「食べ物を消化・吸収し、排泄するだけの管」だと思われていました。しかし、最新の研究はその常識を覆しました。腸は「第二の脳」とも呼ばれる高度な神経ネットワークを持ち、脳と密接に情報の情報のやり取りを行っているのです。緊張するとお腹が痛くなるように、脳のストレスは腸へ伝わります。逆に、腸の状態が悪化すれば、脳は不安を感じ、睡眠の質やメンタルヘルスさえも脅かされます。この「脳と腸の対話」こそが、私たちの心身の健康を根底で支えているのです。
特に注目すべきは、この対話の主役である「腸内マイクロバイオータ (腸内細菌叢)」の存在です。私たちの腸内に棲む約100兆個もの微生物たちは、単なる居候ではありません。彼らは脳内ホルモンの産生に関わり、食欲や代謝、さらには「幸せ」や「やる気」といった感情のコントロールにまで深く関与していることが、科学的に裏付けられつつあります。もし、このバランスが崩れればどうなるか。便秘や下痢といった不調にとどまらず、糖尿病や認知症のリスクを高める要因にもなり得ます。日本は長寿国ですが、健康上の問題がない「健康寿命」は平均寿命より約10年短いのが現状です。この「失われた10年」を埋め、人生を最後まで健やかに過ごすための鍵も、実は腸にあるのです。
脳腸相関の研究は、生理学、神経科学、微生物学などが交差する最先端の領域です。それゆえに、断片的なニュースだけでは全貌が見えにくいのも事実です。そこで本書では、専門的な予備知識がなくとも理解できるよう、平易な言葉でそのメカニズムを解き明かします。「なぜそうなるのか」という素朴な問いから出発し、分子レベルの情報のやり取りから、最新の予防医学の知見までを体系的に網羅しました。氾濫する健康情報に惑わされず、自分の体を守るための「本物の知恵」を身につけるために、ぜひ本書を手に取ってみてください。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 坪井 貴司 / 2025)
本の目次
第1章 「腸と脳」のつながり
第2章 腸と脳をつなぐマイクロバイオータの登場
第2部 ここまでわかった!「脳を支配する腸」の最新研究
第3章 腸と睡眠の関係
第4章 腸と記憶力の関係
第5章 腸と神経疾患の関係
第6章 腸と発達障害・精神疾患の関係
第7章 腸と食欲・肥満の関係
第3部 腸のブラックボックスを解き明かす
第8章 腸の中では何が起きているのか?
第9章 腸からさまざまな臓器へ
第10章 脳や体をうまく使うには腸を整えよ
関連情報
「プロアスリートと一般人「腸内物質」の決定的な違い」〔書籍本文一部より抜粋記事〕 (『ダイヤモンドオンライン』 2024年12月19日)
https://diamond.jp/articles/-/355533
「「肥満」「大腸がん」のリスクを高める意外な病気とは?」〔書籍本文一部より抜粋記事〕 (『ダイヤモンドオンライン』 2024年12月18日)
https://diamond.jp/articles/-/355532
「ストレスでお腹が痛くなるのはなぜ?「200年前の人体実験」があまりに衝撃的だった!」〔書籍本文一部より抜粋記事〕 (『ダイヤモンドオンライン』 2024年12月17日)
https://diamond.jp/articles/-/355531
「なぜ私たちは同じ甘味でも人工甘味料より砂糖を好んで摂取するのか?医学博士「実は<舌>で情報を区別しているのではなく<腸>が…」 (『婦人公論.jp』 2024年10月24日)
https://fujinkoron.jp/articles/-/14218
「「脳」の病気と考えられてきた<パーキンソン病>。最新研究で実は「腸」と関係があることが判明。医学博士「なので予防にはある食事を多く摂るべきで…」」 (『婦人公論.jp』 2024年10月23日)
https://fujinkoron.jp/articles/-/14217
「<時差ボケ>で腸内環境が激変?医学博士「睡眠障害と肥満や大腸がんの間には関連性があることが判明していて…」」 (『婦人公論.jp』 2024年10月22日)
https://fujinkoron.jp/articles/-/14216
「大腸に約40兆個「腸内マイクロバイオータ」とは?注目されたのはノーベル賞受賞学者が唱えたヨーグルト好きのあの地方の「不老長寿説」がきっかけで…」 (『婦人公論.jp』 2024年10月21日)
https://fujinkoron.jp/articles/-/14215
「腸内に潜む「隠れた臓器」…「腸」と「脳」をつなぐマイクロバイオータが「体」と「心」に及ぼす驚きの影響」〔書籍本文一部より抜粋記事〕 (『講談社現代ビジネス』 2024年9月19日)
https://gendai.media/articles/-/137097
「腸内環境を悪化」させる原因「第1位」が判明!「治療薬のリスク」と「あまりにも簡単」な改善方法を公開!」〔書籍本文一部より抜粋記事〕 (『講談社現代ビジネス』 2024年10月12日)
https://gendai.media/articles/-/137350
「なぜ「朝の駅」のトイレは混んでいるのか…「通勤途中」に決まって起こる「腹痛」の正体」〔書籍本文一部より抜粋記事〕 (『講談社現代ビジネス』 2024年9月19日)
https://gendai.media/articles/-/136942
書評:
竹田真木生 評 (兵庫の昆虫雑誌『きべりはむし』第48巻 第2号 2025年)
https://www.konchukan.net/kiberihamushi/#anchor_Vol48
https://www.konchukan.net/pdf/kiberihamushi/Vol48_2/kiberihamushi_48_2_74.pdf
吉本勝彦 (徳島大学名誉教授・前分子薬理学分野教授) 評「My Recommendations No.184」 (『徳島大学附属図書館蔵本分館日誌』 2024年11月14日)
https://tokudaibunkan.blogspot.com/2024/11/my-recommendations-no184.html
今日のおすすめ 岡本敦史 評「不眠、うつ、認知症、高血圧……すべての不調は腸内環境の乱れから。腸の知られざるはたらき」 (講談社ホームページ 2024年10月15日)
https://news.kodansha.co.jp/books/20151039
書籍紹介:
【注目書籍】「腸」と全身の臓器はおしゃべりをしている? (『ウェルネス』総研レポート 2025年3月14日)
https://wellnesslab-report.jp/3638/
「すべての腸活は『「腸と脳」の科学』から始まる」 (『テンミニッツ・アカデミー』 2024年11月20日)
https://10mtv.jp/pc/column/article.php?column_article_id=4187
メディア出演:
PLEASURE PICK UP 「「腸」に関するクイズを出題!(2)」(J-WAVE Tokyo Morning Radio|J-WAVE 2024年10月21日)
https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/pickup/21972.html
PLEASURE PICK UP 「「腸」に関するクイズを出題!(1)」(J-WAVE Tokyo Morning Radio|J-WAVE 2024年10月14日)
https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/pickup/21932.html
関連記事:
脳と腸の会話による代謝の調節 (『教養学部報』663号 2025年5月7日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/663/open/663-7-01.html

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