
書籍名
水声文庫 ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』を読む パンデミックからディープタイムまで
判型など
336ページ、四六判、上製
言語
日本語
発行年月日
2025年9月
ISBN コード
978-4-8010-0882-3
出版社
水声社
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英語版ページ指定
本書は、イギリスの作家ヴァージニア・ウルフの代表作『ダロウェイ夫人』の刊行百周年を記念して編まれた論文集です。ウルフは、近年では先駆的なフェミニズムや反戦平和主義の思想家・批評家として注目が集まっていますが、そのウルフの小説家としての代表作が1925年5月14日に刊行された本作です。
『ダロウェイ夫人』の物語は、1923年6月のある水曜日の朝から夜までのロンドンを舞台として、上流階級の夫人クラリッサ・ダロウェイと、心を病んだ第一次世界大戦の帰還兵セプティマス・ウォレン・スミスの生と死がかすかに交錯する謎めいた瞬間を核として展開します。しばしば「意識の流れ」と称される、登場人物の内面に焦点をあわせた語りの形式や、さまざまな登場人物たちの意識を介して、過去の記憶と現在の生とを自在に往還する複雑な構成ゆえに、本作は英語モダニズム文学の傑作として名高く、現在でも世界中で読み継がれている傑作です。
本書では、百年という時の試練を耐えた『ダロウェイ夫人』の価値をただ自明視して称揚するというよりも、多角的な見地からその「再読」が現代において持ちうる意義を考察するための論集として編まれています。まず「まえがき」(小川公代) と序 (秦 邦生) においては、2020年代初頭のパンデミックの経験と、世界各地における戦争状況を踏まえてこの小説を読む意義が説かれています。
その後、本書の前半には「読むこと」それ自体の意味 (中井亜佐子)、「存在の偶然性」についての思索 (田尻芳樹)、作中における衣服・ファッションの表象 (小川公代)、戦争の時代と自然破壊 (秦 邦生) などの多様なテーマから本作を精読する各章をまず置きました。さらに本書の後半では、本作と現代の映画やフランス文学との共鳴関係 (河野真太郎)、現代英語圏文学における都市表象 (星野真志)、日本におけるウルフの受容史 (松本 朗)、現代フェミニズムの課題 (松永典子) など、さらに現代的な観点からウルフ文学の継承・発展が検討されています。
これらの各論に加えて、本書では小川公代氏を聞き手としたインタヴューを二篇収録しました。韓国文学翻訳家の斎藤真理子氏は韓国語圏におけるウルフ作品の受容について、現代日本の作家である松田青子氏はウルフ文学から得た「勇気」や「共通の生命」への想いについて、それぞれ印象的な言葉を語っています。
こうした日本語オリジナルの論考に加えて、英語からの翻訳論考も併録しているのも本書の大きな特徴です。ジリアン・ビアとポール・サンタムールという英米を代表するモダニズム研究者の講演にもとづく論考 (それぞれ、栁澤彩華 訳、西脇智也・古城輝樹 訳) は、「儚さ」の感覚やディープ・タイムという現代的な観点から、本小説を深く読み込む醍醐味を教えてくれます。ヴァージニア・ウルフ自身の短篇小説「同胞を愛した男」(片山亜紀 訳) とエッセイ「現代の小説」(秦 邦生 訳) の新訳も掲載することで、ウルフ作品それ自体に親しむ機会をも提供しています。さらに巻末の「文献案内」では、より深く学びたい読者に向けて、日本語・英語で読めるさまざまな文献を紹介しました。
いわゆる「講読」形式の演習では、一冊の本を教科書として選んで、参加者たちが意見を交わしつつゆっくりと深く精読することが一般的ですが、本書はそのような演習形式の授業における深読みの醍醐味を「本」の形式で味わえるような構成を目指してみました。大学でより深く英語の小説を読んでみたい若い皆さん、ウルフや英語小説に関心のある一般読者の皆さんに手に取ってみてほしいと思います。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 秦 邦生 / 2026)
本の目次
序
百年後の『ダロウェイ夫人』
秦 邦生
現代の小説
ヴァージニア・ウルフ(秦 邦生 訳)
「そこに彼女がいたから」――『ダロウェイ夫人』における愛と現前
ジリアン・ビア(栁澤彩華 訳)
「六月のこの瞬間」――ダロウェイの日からの一世紀
ポール・サンタムール(西脇智也・古城輝樹 訳)
読書する時空間――『ダロウェイ夫人』の読者たちを読む
中井亜佐子
ダロウェイ夫人と存在の偶然性――「向かいの家の老婦人」の謎について
田尻芳樹
仮面としての衣服――ファッションから見た『ダロウェイ夫人』と『オーランドー』
小川公代
ヴァージニア・ウルフの「魔法の庭園」――『ダロウェイ夫人』における樹木たちの生死
秦 邦生
別の時間とこの人生――『ダロウェイ夫人』を『エブエブ』『歳月』とともに読む
河野真太郎
都市とモダニズム――英語圏現代文学における『ダロウェイ夫人』の残響
星野真志
トランスナショナルな書物史――エンプソン、宮本百合子、左川ちかによるウルフの受容
松本 朗
『ダロウェイ夫人』をこれからも日本の大学で読むために――フェミニズムの差異・交差性・人種
松永典子
[インタヴュー]
ヴァージニア・ウルフと韓国文学
斎藤真理子(聞き手・小川公代)
[インタヴュー]
ヴァージニア・ウルフと松田青子文学について
松田青子(聞き手・小川公代)
[作品]
同胞を愛した男
ヴァージニア・ウルフ(片山亜紀訳)
文献案内――〈あとがき〉に代えて
秦 邦生

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