私たちの日本史に関する知識・認識は、高校で学ぶ日本史の授業や教科書によるところが大きいだろう。教科書は歴史学の研究成果をふまえて、歴史の大きな流れがつかみやすいように書かれている。その一方で、教科書の記述内容は一定不変のものではなく、実は少しずつ書き改められている (百聞は一見に如かず、機会があれば、20年・30年ぐらい前の教科書と最近のものとを見比べてもらいたい)。これもまた、教科書が研究の進展を反映して書かれていることを意味している。ということは、教科書の叙述の背後をさぐっていけば、日本史研究の「現在」を描き出せるのではないか――。このような意図から企画されたのが、『日本史の現在』全6巻である。第3巻の本書は、教科書の記述を手がかりに日本中世史から20のテーマを選び、その「現在」を紹介するものである。
中世といえば、「武士の時代」とイメージされる方も少なくないであろう。本書でも武士は主要なテーマであるが、それぞれお読みいただければ朝廷や貴族社会と切り離して論じることができなくなっていることがおわかりいただけるはずである。もう一つ、中世社会を考える場合に避けて通ることができないのが、荘園・荘園制である。教育現場でも教えるのが難しいとされているテーマであるが、近年この分野での研究の進展はいちじるしく、教科書記述も大きく変わりつつある。本書では荘園研究の最前線をわかりやすく紹介している。中世の経済についても、これまでであれば、自給自足的な段階から次第に商品経済が発展していくと語られてきたが、そのイメージが一新しつつある。それには考古学の研究成果が積極的に活用されるようになったことが大きい。また貨幣経済の進展として説明されてきた銭の普及も、海外の情勢と密接な関係があることが明らかにされている。中世は諸外国との国交の乏しい時代とイメージされることが多いが、近年の研究では対外関係は今まで考えられてきた以上に日本中世に大きな影響を与えていたことが注目されている。
『日本史の現在』全6巻では、まだ教科書には反映されていなけれども、日本史研究の最前線で議論されていることにも目を配っている。中世についていえば、近年、人と自然との関係の歴史に注目が集まっており、理科系の研究者との共同研究により中世の気候変動 (気温や降水量の変化など) が精密に復元され、それにともなって中世社会のあり方を見直す研究が進められていることを紹介している。
研究の進展により明らかになったこと、明らかになりつつあることとともに、研究はどのように進められているのか、どのようなことが議論されているのかについても感じ取ってもらえることを期待している。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 高橋 典幸 / 2025)
本の目次
2 中世荘園の成立――寄進地系荘園論から立荘論へ 〔鎌倉佐保〕
3 鎌倉幕府と朝廷 〔高橋典幸〕
4 鎌倉幕府の裁判――中世国家の一部分として考えるために 〔佐藤雄基〕
5 中世の貴族社会 〔遠藤珠紀〕
6 武士と地域社会 〔田中大喜〕
7 新しい仏教者たち 〔菊地大樹〕
8 村に生きる人々 〔西谷正浩〕
9 自然環境からみる中世社会――気候変動・災害・生業 〔田村憲美〕
10 アジアの中のモンゴル襲来 〔榎本 渉〕
11 室町幕府の支配 〔吉田賢司〕
12 都市に集う人々 〔三枝暁子〕
13 徳政と徳政令 〔前川祐一郎〕
14 室町時代の文化 〔末柄 豊〕
15 銭からみる日本中世 〔川戸貴史〕
16 列島を移動する人・物――広義の交通が媒介する社会 〔綿貫友子〕
17 日明・日朝関係と倭寇 〔岡本 真〕
18 戦国時代の室町幕府 〔木下 聡〕
19 一向一揆と法華一揆――戦国時代の仏教と一揆 〔大塚紀弘〕
20 戦国大名と国衆 〔丸島和洋〕
関連情報
『日本史の現在』全六巻(山川出版社)刊行記念 (高橋典幸×山口輝臣)「教科書を鏡に歴史研究の現在を知る」 (『週刊読書人』 2024年9月20日)
https://dokushojin.net/news/712/

書籍検索







