東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に暖色系の線画

書籍名

手の言語学

著者名

松田 俊介

判型など

260ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2026年3月31日

ISBN コード

978-4-86528-511-6

出版社

左右社

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手の言語学

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2026年の3月、日本手話に関する一般書『手の言語学』を上梓しました。日本手話について自分が面白いと思っていることを、ただひたすら書き連ねた本です。そんな個人的趣味全開の本ですから、どのように受け取られるか少し心配していたのですが、ありがたいことに予想以上の反響をいただいています。その理由を自分なりに考えてみたところ、次の2点が関係しているような気がします。
 
(1) 日本手話の本であると同時に日本語の本でもある
この本では、日本手話ならでは特徴を、日本語と比較しながら紹介しています。この本を読むことで、日本手話について知ることができるだけでなく、読者の多くが母語とする日本語を見つめ直すきっかけにもなると思います。
 
たとえば、日本語の「開ける」という語。これはいろいろな「もの」に使い回せます。「引き出しを開ける」「カーテンを開ける」「窓を開ける」などなど。「引き出しを開けるときの動作」と「カーテンを開けるときの動作」はもちろん違いますが、日本語ではその違いを捨象して、同じ「開ける」という言葉で表せるのです。それに対して、日本手話には日本語の「開ける」のような幅広く使える表現が存在しません。どうやって開けるのか、つまり「開ける動作」に応じて表現を使い分けないといけないのです (具体的な表現は本書27ページに掲載)。
 
このように、日本手話を知ることで、逆に日本語の特徴にも気づけます。「日本語は開け方にこだわらない言語だったのか!」というふうに。自分の母語について新しい発見ができるということが、本書を楽しんでいただけた理由の1つだったのかもしれません。
 
(2) 身近な話題から言語学の世界へ入っていく
取り上げるテーマは、できるだけ日常生活から持ってくることを意識しました。たとえば、東大の近くにある中華屋さんに「唐揚げ長芋黒酢ソース」という料理があります。揚げた鶏肉を黒酢ソースで味付けした料理です。さて、それを誰かにお勧めしようと思い、「あの店の酢鶏、おいしいよ」と言ったとします。どうでしょう。おそらく伝わらないと思います。聞きなれない料理名だからです。ですが、「あの店には酢豚ならぬ酢鶏があるよ」と言えば、それを聞いた人は「あー、酢豚の豚肉が鶏肉になった料理のことかな」と想像できます。本書では、この例を取っかかりにして、日本手話の新語 (辞書には載っていない、その場で作られた表現) を分析しています。
 
言語学が扱う対象は「ことば」、つまり私たちの身の回りにある身近な存在です。ですから、言語学的な問題はすぐ目の前にいつでも転がっているのです。身近なところからことばについて考えていったからこそ、多くの方が本書の内容を他人事ならぬ「自分事」として受け入れてくれたのかなと思っています。
 
                        ***
 
本書の書評を古田徹也先生 (東京大学倫理学研究室) が朝日新聞に寄稿くださいました (下記のリンクから読めます)。特に印象に残っているのは、「日本手話を探究するのが楽しくて仕方ないという著者の思いが、まっすぐに伝わってくる」という一文です。実際、本当に楽しくて仕方ないんです。
 
日本手話と出会ってもうすぐ10年になりますが、やめたいと思ったことは一度もありません。おそらくこれからもずっと日本手話と生きていくのではないかと思っています。本書を通して、この「ことばを探究する楽しさ」を少しでも感じてもらえたら、とてもうれしいです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 助教 松田 俊介 / 2026)

本の目次

まえがき

1章 無音の日常をのぞく
   寄り道日本手話トーク1 日本手話のバリエーション
2章 「大雑把な日本語」と「几帳面な日本手話」
3章 「ないはずのものが見える」からこそ
   寄り道日本手話トーク2 「ちょっと」迷いました
4章 人さし指に愛を込めて
5章 ことば遊びで音から文字へ
   寄り道日本手話トーク3 聴覚を使って料理をする
6章 見える音、動くルビ
7章 コマ割りの言語学
   寄り道日本手話トーク4 語学で大切なこと
8章 日本手話のストーリーを描く

あとがき
参考文献・参考動画
 

関連情報

試し読み:
【試し読み】『手の言語学』より「まえがき」「4章 人さし指に愛を込めて」 (左右社 | note 2026年2月27日)
https://note.com/sayusha/n/ne7db34ab6c36
 
著者インタビュー:
「大ざっぱな日本語」、でも「きちょうめんな日本手話」 「手の言語学」出版 日本手話から言語の不思議に迫る 著者は松田俊介さん(高知県安芸市出身) (『高知新聞PLUS』 2026年9月23日)
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/1046435
 
〈文化〉 動きで表現する「日本手話」 言語の本質は「意味」の伝達 東京大学助教 松田俊介さん (『聖教新聞』 2026年7月27日)
https://www.seikyoonline.com/article/9550E592AAFAAAFC5956B727C8039FA2
 
【私の本のハナシ】「手の言語学」の松田俊介さん 具体的に表現する日本手話 (『信濃毎日新聞デジタル』 2026年6月17日)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/gfkn2026061201001347
 
書評:
「「几帳面な日本手話」深掘り」 (『日本経済新聞』 2026年6月20日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO97026030Z10C26A6MY6000/
 
篠原俊吾 評 (『英語教育』2026年7月号 2026年6月12日)
https://www.taishukan.co.jp/book/b10170373.html
 
古田徹也 評「手話を探究する楽しさに乗って」 (『朝日新聞』 2026年5月30日)
https://book.asahi.com/article/16603335
 
文春図書館 (『週刊文春』 2026年5月28日号)
https://bunshun.jp/denshiban/archives/2026%E5%B9%B45%E6%9C%8828%E6%97%A5%E5%8F%B7
 
今週の本棚:渡邊十絲子 評「日本語とは別物 クールな構造やルール」 (『毎日新聞』 2026年5月16日)
https://mainichi.jp/articles/20260516/ddm/015/070/027000c

書籍紹介:
【言語沼】水野太貴の言語愛に溢れるお買い物に密着!言語学棚を復権せよ!?【ゆる言語学ラジオ】 (出版区 | YouTube 2026年8月28日)
https://youtu.be/-HJ8aPBAfyc?si=u6FMILqtf7J3YbyC&t=735
 
【激ヤバ】ノンフィクション作家・高野秀行とクレイジーなお買い物!ハイになって選ぶ本は...!? (出版区 | YouTube 2026年7月31日)
https://youtu.be/n9rWBY-pZtI?si=VNkIe409TqRTEmr1&t=1103

イベント:
松田俊介×谷口ジョイ「言語学者の手のうち頭のうち」『手の言語学』(左右社)刊行記念 (本屋B&B 2026年6月18日)
https://bookandbeer.com/event/20260618_gta/
 

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