東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に黒と赤のタイポグラフィ

書籍名

言語研究に潜む英語のバイアス

著者名

大谷 直輝、中川 裕、野元 裕樹、 長屋 尚典 (編)

判型など

356ページ、A5判、上製カバー装

言語

日本語

発行年月日

2025年10月

ISBN コード

978-4-8234-1296-7

出版社

ひつじ書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

言語研究に潜む英語のバイアス

英語版ページ指定

英語ページを見る

英語が世界の言語のなかで特権的な地位を占めていることは誰しも認めるところであろう。英語およびそれを話すコミュニティは現代世界において政治や経済、科学技術、文化などの各分野で圧倒的な優位性を持ち、英語以外の言語を話すコミュニティにさまざまな影響を与えている。
 
我々のいる大学や学問の世界でも英語の影響力は明らかだ。大学生は外国語として英語を勉強し、英語で書かれた教科書や論文で勉強する。大学教員は英語で論文を執筆することを求められ、国際学会では英語で話し、時には、日本語話者にむけて英語で授業を行うことさえある。
 
大学や学問の「共通語」としての英語には功罪両面が存在する。研究成果の共有や研究者間の意思疎通が容易になるなど、いいこともある。一方で、英語で蓄積された研究成果ばかりが重要視されたり、英語を母語としない人々に英語を学習する負担を強いたりする。
 
本書のテーマである言語学も例外ではない。言語学とは人間の言語を科学的に分析する学問である。人間の言語を分析するということだから、人間の言語なら英語でも日本語でも同じように実践できるはずだ。しかし、実際にはそうでないことも多い。単に英語で発表された研究が多いだけでなく、分析対象としても英語が選ばれる場合も多い。英語という個別言語に関する分析が人間の言語についての一般化と混同されるときもある。実際、チョムスキーの生成文法やラボウヴの変異理論など、英語で発表された言語理論が世界で圧倒的な影響力を持っている。
 
『言語研究に潜む英語のバイアス』と題された本書はそのような現状に対する問題提起である。英語という言語がどのようなバイアスを生むのか、それが個別言語の分析でどのような影響を与えているのか。これらの問題に英語の専門家と英語以外の言語の専門家が取り組む。
 
全体で三部からなっており、第I部「英語を通して言語分析の物差しについて考える」には英語が言語研究に与える影響について英語の観点から分析した論文5本が、第II部「英語が個別言語の研究に与える影響」にはドイツ語やロシア語など個別言語の分析に英語が与える影響を考察した論文9本が、それぞれ収められている。第III部「力の強い言語が力の弱い言語の研究に与える影響」では中国語など英語以外の巨大な言語が他の言語に与える影響が検討されている。
 
英語のような特権的な言語の功罪を考察した論考は多くあるが、言語学という言語そのものを扱う学問分野においてこの問題を扱ったものは珍しい。本書の理解には言語学の基礎的知識が必要だが、学部生でも読めるものになっているので是非手に取ってみてほしい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 長屋 尚典 / 2026)

本の目次

前書き
大谷直輝
 
序 章
大谷直輝・中川 裕・野元裕樹・長屋尚典
 
第I部 英語を通して言語分析の物差しについて考える
 
第1章
類型論から見た西洋語の日本語研究への影響
峰岸真琴
 
第2章
言語研究の分析道具に含まれるバイアス
大谷直輝
 
第3章
英語の伝統文法の足跡
浦田和幸
 
第4章
IPAに潜む英語のバイアス?
斎藤弘子
 
第5章
形態理論と形態分析
生成文法と日英語の動詞屈折を中心に
西山國雄
 
第II部 英語が個別言語の研究に与える影響
 
第6章
SPEとクリック音韻分析の論争
中川 裕
 
第7章
ドイツ語のアスペクト
am進行形をめぐって
沼畑向穂・藤縄康弘
 
第8章
ロシア語においてDPを設定する(不)必要性
後藤雄介・宮内拓也
 
第9章
移動表現の類型論と言語バイアス
松本 曜
 
第10章
英語と他の言語の移動動詞の文法的特徴
ハンガリー語、クプサビーニィ語、ネワール語のデータを中心に
河内一博
 
第11章
ペルシア語前置詞azが共起する動詞の分類
永井 慧・吉枝聡子
 
第12章
英語と世界の言語の与格交替
長屋尚典
 
第13章
何を「受動文」と呼ぶか・呼ばないか
マレー語とその関連言語からの視点
野元裕樹
 
第14章
日本語のラレル文研究
対照言語学的観点の有効性と問題点から
川村 大
 
第III部 力の強い言語が力の弱い言語の研究に与える影響
 
第15章
西夏語研究にかかる漢語音韻学の二重のバイアス
「合」・「□」を例として
濱田武志
※□:西夏文字(U+1873C)
 
第16章
手話の公用語化をめざす「言語学バイアス」
高嶋由布子
 

関連情報

書籍紹介:
【書籍収録チャプター】手話の公用語化をめざす「言語学バイアス」―『言語研究に潜む英語のバイアス』 出版されました (rhetorico | note 2026年1月11日)
https://note.com/rhetorico/n/nff936bf1b228
 
刊行!『言語研究に潜む英語のバイアス』Motoki Nagano (ひつじスタッフ日誌 2025年11月25日)
https://www.hituzi.co.jp/staff/staff-nisshi202511.html
 
イベント:
【語学研究所 定例研究会】『言語研究に潜む英語のバイアス』について考える(第三回) (東京外国語大学語学研究所 2023年11月21日)
https://www.tufs.ac.jp/event/2023/231121_1.html
 
【語学研究所 定例研究会】 『言語研究に潜む英語のバイアス』について考える(第二回) (東京外国語大学語学研究所 2023年9月27日)
https://www.tufs.ac.jp/event/2023/230927_1.html
 
【語学研究所 定例研究会】 『言語研究に潜む英語のバイアス』について考える(第一回) (東京外国語大学語学研究所 2023年6月28日)
https://www.tufs.ac.jp/event/2023/230628_1.html
 
日本英語学会 第40回大会 公開特別シンポジウム
英語の常識・世界の言語の非常識
英語学の知見が個別言語の研究に与える正の影響と負の影響 (日本英語学会 2022年11月5日)
https://www.9640.jp/gakkai/7849/
https://elsj.jp/wp-content/uploads/d0c37e45b92dd70e46459fc9f4fce1b3.pdf
 
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています