室町時代や戦国時代の法といわれれば、あるいは高校で学んだ室町幕府の徳政令や戦国大名の分国法を思い出されるだろうか。本書には、その室町幕府の徳政令や戦国大名の分国法に関する論文も収めている。
しかし室町幕府の徳政令は、土一揆の要求に屈して発布 (乱発) された、幕府権力の衰退を物語る法であり、戦国大名の分国法は、例えば喧嘩両成敗の規定が象徴する、強力な政治権力の登場を示す法ではなかったか。一見正反対の性格にみえる法を一冊の本の中で論ずることにより何が分かるのか。まずはそのような疑問を持たれるのではないか。
当然のことながら、室町幕府の徳政令も戦国大名の分国法も、中世に特有の法と慣習、および事件や紛争の解決のあり方を前提に存在していた。中世の法と慣習は、「中央の法」と「田舎の法」とでは大きく異なり、例えば幕府の徳政令とはルールの異なる地域的あるいは私的な徳政が社会では行われていた。また、中世の紛争や事件の解決は、幕府や大名などの公権力の裁判ではなく、被害者の自力救済行為や当事者間の和解、第三者の調停によることが多かった。それに対し特に戦国大名の法は裁判による解決を強制する姿勢を示している。これまでに明らかにされてきた「前提」はおおよそこのようなことである。
本書では、こうした中世の法と慣習、紛争解決の独特のあり方を前提として、法令の発布形式、法文中の言葉などを手がかりに、当時の人々の考えに即して、室町幕府の徳政令・撰銭令や戦国大名の警察・刑事裁判関係の法などを捉え直すことを試みた。
例えば、室町幕府の徳政令は、裁判の法としては「上」の階層を主な対象としていたが、同時に、土一揆も含む当事者間の関係での担保物品取戻しのルールに干渉するようになる (第一部第一章・第二章)。また戦国大名や織田政権の法は、自力で犯人を捜査し特定・逮捕すれば、すでに売買された盗品でも被害者が無償で取り戻せるという慣習法にもとづいており、被害者の自力の犯人捜査・逮捕を否定する姿勢は全くみられない (第三部第四章)。
このように、本書で論じたいくつかの室町・戦国時代の法と慣習を通して浮かび上がるのは、被害者の自力救済行為や当事者間の交渉による紛争解決をある程度容認するにとどまらず、それらに治安・秩序の維持の一端を担わせようとする、この時代の公権力のとったもう一つの姿勢である。今後、この姿勢と裁判の強制という姿勢を合わせてさらに考察すれば、この時代の様々な集団の自治と自律性を、公権力が統合・編成する過程をより深く探求できるかもしれない。
(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 前川 祐一郎 / 2025)
本の目次
第一部 室町幕府法と社会
第一章 壁書・高札と室町幕府徳政令
第二章 室町幕府徳政令の受容と「分一徳政」の展開
第三章 撰銭令と徳政令にみる室町幕府と社会
第二部 検断と室町・戦国の社会
第一章 戦国時代における領主検断をめぐる論理
第二章 中世後期の集団間紛争の解決における「罪科の成敗」
第三部 検断と戦国法
第一章 三好氏「新加制式」の検断立法
第二章 「塵芥集」の「とが人」と私的成敗
第三章 「塵芥集」法文の立法論理の一事例
第四章 中世から近世初期における盗品法の展開
おわりに

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