
書籍名
戦後日本の貧困と社会保障 社会調査データの復元からみる家族
判型など
324ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2024年12月1日
ISBN コード
978-4-13-051149-0
出版社
東京大学出版会
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
戦後80年となった2025年の夏、第二次世界大戦や戦後の社会にかんする多くのテレビ番組や新聞・雑誌での特集が見られました。現代の若者にとって、戦争や戦後の日本社会のリアリティは、どのように受け取られているのでしょうか。終戦後、アメリカの占領下に入った日本人にとって最大の問題は食料不足でした。生きていくことさえ困難であった時代には、貧困は誰にとっても身近なものでした。
1950年の朝鮮戦争をきっかけにして経済がやや持ち直し、1951年にはサンフランシスコ条約が締結されて、日本は国家としての主権を回復します。このときの日本政府にとって、多くの国民が直面している貧困をどのように解決するのかは、きわめて重要な政策課題でした。ここからさまざまな社会保障政策が成立していきます。これらの社会保障政策が、どのような人々に利用され、どのような効果をもったのかを検証しようと、神奈川県ではさまざまな調査が実施されました。また、神奈川県以外でも、経済学や衛生学の研究者が貧困に着目した調査をおこなっていました。
1960年代には日本は高度経済成長期に入ります。7%程度の経済成長を約10年継続し、GNPは倍増しました。この時期に、どのような人々がどのようにして貧困から脱却し、どのようなライフスタイルを築いていったのか、それでもなお社会保障を必要とする人々はどこに残されているのか、といった課題に即した社会調査がおこなわれるようになりました。本書は、社会科学研究所に保存されていた1950~60年代の社会調査のデータ(「戦後労働調査資料」といいます) を、調査票原票からデータを復元して、現代の視点から分析した成果です。
社会学には、さまざまな下位領域があり、そのひとつに歴史社会学があります。本書は歴史社会学に属する研究といえます。近年まで、歴史社会学の研究のほとんどは文献資料をもちいておこなわれてきました。けれども、本書では社会調査データの分析を主に扱っています。そのため、計量歴史社会学ということができます。計量歴史社会学は1990年代半ば頃から始められた比較的新しい研究領域です。このような研究が可能になったのには、次のような理由があります。第一は、日本でもデータアーカイブが整備され、過去の調査データを利用することが可能になったことです。第二は、既存データを分析する二次分析による研究が適切に評価されるようになったことです。
また、本書では社会学を専門とする研究者に加え、社会福祉学の研究者なども執筆しています。データの復元から分析までの過程では、社会学、経済学、社会福祉学、歴史学、統計学などが使われています。古い調査データをもちいて、新しい研究環境が可能にした研究を学際的なスタイルでおこなったプロセスについても、付録に記述がありますので、研究スタイルに関心がある方にも手に取っていただきたいと思います。
(紹介文執筆者: 社会科学研究所 名誉教授 佐藤 香 / 2025)
本の目次
序章 戦後日本社会の世帯と福祉を復元二次分析から解読する(相澤真一)
第I部 戦後の貧困へのまなざし――1950年代・1960年代の貧困はいかなるものだったか
1章 社研所蔵社会調査の由来と特徴――復元二次分析の可能性(岩永理恵)
2章 「調査員」を中心に社会調査を描きなおす――神奈川調査シリーズにおける民生委員の役割に着目して(堀江和正)
3章 戦災母子世帯の戦後(渡邊 勉)
4章 「ボーダー・ライン層」調査の復元二次分析――データから見る1960年代前半の低所得層(相澤真一)
第II部 人びとはいかに厳しい状況からの脱却を図ったか――生業・教育・医療・住宅
5章 高度経済成長期の福祉貸付――昭和30年代の世帯更生資金貸付(生業資金)の位置と効果(角崎洋平)
6章 高度経済成長初期段階の進学支援とその意味(白川優治)
7章 福祉貸付と医療保障――療養資金の機能と「ボーダー・ライン層」の健康(坂井晃介)
8章 既存持家の改善からみる住宅資金の歴史的意義――住宅事情および政策の棲み分け(佐藤和宏)
9章 福祉資金の利用にともなう恥の規定要因――民生委員による伴走支援に注目して(石島健太郎)
第III部 マージナルな人びとのライフコース――主婦・子ども・高齢者
10章 耐久消費財の普及は妻の家事時間を減らしたのか(渡邉大輔・前田一歩)
11章 団地のなかの児童公園――高度経済成長期の外遊びをめぐる生活時間データの分析(前田一歩)
12章 1960年代における高齢者の生活の実相――「老人問題」の諸相(羅 佳)
13章 戦後日本型労働・雇用 - 保障体制の手前における高齢者の働き方と子からの自立生活意識(渡邉大輔)
付録(復元作業過程・調査票)
あとがき(佐藤 香)
関連情報
阿部彩 (東京都立大学) 評 (『社会福祉学』第66巻第4号p.112 2026年)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jssw/list/-char/ja
樋口明彦 (法政大学社会学部教授) 評 (『社会学評論』第76巻第2号p.257-259 2025年9月)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I034410195
本よみうり堂: 福間良明 (歴史社会学者・立命館大学教授) 評「調査票が示す家族の変遷」 (『読売新聞』 2025年3月7日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20250303-OYT8T50096/
書籍紹介:
Column社会調査のあれこれ
相澤真一「社会調査をリサーチヘリテージにするために - 復元の現場から」 (『社会と調査』第36号 2026年3月
https://jasr.or.jp/asr/new/
相澤真一「一九五〇年代・六〇年代の社会調査の復元二次分析を思いつくまで」 (東京大学出版会『UP』pp.1-5 2025年6月号)
https://www.utp.or.jp/book/b10136513.html
渡邉 大輔「特集 研究法の活用から考える新時代の家族研究 計量歴史社会学アプローチと家族研究――東京大学社会科学研究所「労働調査資料」のデジタル復元による二次分析――」 (『家族社会学研究』37巻1号p.50-63 2025年4月30日)
https://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.37.50
文学部 渡邉大輔教授の共編著『戦後日本の貧困と社会保障:社会調査データの復元からみる家族』が刊行 (成蹊大学ホームページ 2024年12月2日)
https://www.seikei.ac.jp/university/news_topics/2024/18357.html

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