
書籍名
現代経済解説シリーズ コロナ対策の政策評価 日本は合理的に対応したのか
判型など
280ページ、四六判、上製
言語
日本語
発行年月日
2025年6月25日
ISBN コード
978-4-7664-3038-7
出版社
慶応義塾大学出版会
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
日本はCOVID-19に合理的に対応したのか、これが本書の問いです。「合理的」を問う視点は、科学的根拠に基づく政策形成 (EBPM) の観点から適切な根拠に基づく対策が選ばれたのか、経済学の観点から効果と費用を考慮して選択されたのか、の2つです。とくに2020年春の緊急事態措置が検討の中心となります。
このときの接触8割削減は、数理モデル分析に基づく感染症専門家の助言に基づいています。疫学での数理モデル研究者の層が薄く、学界内での批判的検討は十分にされておらず、数理モデルを扱える他分野の研究者も一定の貢献を果たしうると考えられます。実際、この分析には多くの問題があり、それを修正すると助言そのものが成立しなくなることを本書は示しました。
第2の視点について、コロナ対策への経済学の主要な貢献は、筆者の考えるところ、人々の行動を理解する、健康と経済のトレードオフを明確にして費用対効果に優れた対策を実行すること、の2つです。
経済学的視点の中核となる第5・6章では、第1波の対策の費用と効果の可視化を試み、巨額の費用に比べて余命延伸効果は限定的で、当時の活動制限は費用対効果の面で割に合わなかったことを示しました。また、選択的活動制限の負担が特定の個人や事業者に集中し、特にオミクロン株以降に若年層へ負担が偏った構造がありました。補償制度が不十分なまま負担だけが特定層に偏る政策は正当化できません。
感染症対策で行動変容を目指すには行動に関する理解が必要です。疫学の数理モデルでは政策担当者や専門家の指示通り動く人間が想定されますが、経済学者のモデルは自由社会を暗黙に表現したものであり、自由人が自らの意思によって行動し、権利と自由が保障されているものと考えます。同じようなモデルが使われていても、人間行動の考え方には違いがあります。
日本のコロナ対策は強い法的強制力を欠き、国民の自発的協力を頼みとしました。経済学の視点から、利他的行動の費用が高くなるほど協力が得られにくくなること、罰則導入が逆に利他的動機を損なう可能性を論じ、なぜ緊急事態宣言の効果が弱まっていったのかを説明しています。
本書は、感染症対策の費用対効果や人間行動を重視する分析によって、政策研究の空白を埋める意義があります。単なる批判にとどまらず、巻末には著者自身の代案も示し、建設的な提言を行っています。強制力や罰則の導入が協力行動をどう損なうか、補償が必要となるのはどのような状況かなど、今後のパンデミック対応にも直結する実践的な示唆を与えています。政策形成のあり方や科学的根拠の使い方を考える上で、学術的にも社会的にも役立つ一冊であると自負しています。
(紹介文執筆者: 公共政策大学院 / 経済学研究科 教授 岩本 康志 / 2025)
本の目次
第I部 EBPM の視点
第1章 「接触8割削減」の科学的根拠
緊急事態宣言の発出/感染者と新規感染者の混同/科学的助言の影響の評価
第2章 「接触8割削減」の代替案の説明
接触削減割合の選択肢の説明/説明の問題点/科学的助言のあり方
第3章 「接触8割削減」の検証可能性
証の必要性/社会実装の課題/モデルの検証の課題/検証作業(期中評価、事後評価)
第4章 基本再生産数の変更
未知の感染症に対する科学的根拠/基本再生産数の設定の根拠/「作動中の科学的EBPM」の課題/父権主義と意思決定支援/基本再生産数5の設定
第II部 経済学の視点
第5章 健康と経済のトレードオフ
経済学の貢献/感染症対策の選択の考え方/費用の軽視/統計的生命価値
第6章 第1波対策の効果と費用
対策の効果/対策の費用/対策の費用対効果
第7章 対策の負荷の偏在
選択的活動制限/影響の職種別異質性/負担平準化のための経済支援策の課題/トレードオフの問題設定の終焉/オミクロン以降の対策を想定する日本的構造/経済政策の規範的判断
第8章 行動を理解する
SIRモデルへの経済学の導入/活動制限/罰則の問題点
終 章 より良い選択肢はあったのか
参考文献
数学付録
関連情報
正誤表、オンライン付録など
https://iwmtyss.com/Books/2025-1/index.html
受賞:
エコノミストが選ぶ 2025年の経済図書べスト10 (『日本経済新聞』 2025年12月27日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD221KQ0S5A221C2000000/
著者インタビュー:
医療経済学者が問う「『接触8割削減』の科学的根拠」-東京大学大学院経済学研究科教授・岩本康志氏◆Vol.1 (m3.com 2025年8月13日)
https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1289415
コロナ対策の問題の核心「日本の医療提供体制の脆弱性」-東京大学大学院経済学研究科教授・岩本康志氏◆Vol.2 (m3.com 2025年8月20日)
https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1289423
書評:
井伊雅子 評 (『経済セミナー』2026年2・3月号 通巻748号 2026年1月)
https://www.nippyo.co.jp/shop/magazines/latest/3.html
大竹文雄 (大阪大学特任教授・経済学)「2025年「この3冊」/上(その1)」 (『毎日新聞』 2025年12月13日)
https://mainichi.jp/articles/20251213/ddm/015/070/016000c
橘玲 評「科学的根拠なき感染症対策を検証する」 (『文藝春秋』2025年10月号 2025年9月9日)
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h10698
短評 (『日本経済新聞』 2025年8月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO90835460S5A820C2MY6000/
Book Review 話題の本: 河野龍太郎 (BNPパリバ証券経済調査本部長) 評「〈書評〉『コロナ対策の政策評価 日本は合理的に対応したのか』『世界標準の採用』『今さら聞けない 日本政治の超基本』」 (『週刊東洋経済』2025年8月9日-16日合併号 2025年8月2日)
https://toyokeizai.net/articles/-/894740
土居丈朗 (慶應義塾大学経済学部教授) 評「日本政府のコロナ対策に科学的根拠と第三者検証がなかった事実を明らかにした書」 (『週刊エコノミスト』2025年8月12日・19日合併号 2025年8月1日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20250819/se1/00m/020/010000c
ブックウォッチング (『毎日新聞』 2025年7月29日)
https://mainichi.jp/articles/20250729/ddm/010/070/013000c
酒井正 (法政大学教授・労働経済学) 評「「コロナ対策の政策評価」書評 科学的助言への事後検証と洞察」 (『朝日新聞』 2025年7月26日)
https://book.asahi.com/article/15928205
大竹文雄 (大阪大学特任教授・経済学) 評「混乱の時、真に役立つ科学的助言とは?」 (『毎日新聞』 2025年6月28日)
https://mainichi.jp/articles/20250628/ddm/015/070/018000c

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