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白い骨組みの天井の写真

書籍名

ASEANの政治

著者名

鈴木 早苗

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2024年7月23日

ISBN コード

978-4-13-030192-3

出版社

東京大学出版会

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ASEANの政治

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東南アジア諸国連合 (ASEAN) は1967年に設立された国際機構 (あるいは地域機構) である。東南アジア諸国の多くは第二次世界大戦後に独立した国々であり、独立間もない時期にASEANを設立することに合意した。当初は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの五カ国が加盟したが、その後、ブルネイが加盟し、冷戦後にはベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、2025年に東チモールが加盟して11カ国体制となっている。

本書は、地域機構としてのASEANの特徴を主権制約の観点からとらえ、その背景にある加盟諸国の対立と協調の政治を論じている。主権は、国際社会によって国家に認められた権利である。その意味するところは、全ての国家は平等であり、国内事項に対して排他的支配を有する。内政不干渉原則は、他国はその国の政治に干渉してはならないという国際社会で認められた原則である (しばしば違反例はあるが)。
 
主権の制約は、国際機構の組織化・制度化を論じる際に取り上げられるテーマの一つである。協力を深化させようとすると、しばしば主権の制約が求められるようになる。欧州連合 (EU) は超国家機関への権限の委譲、多数決の採用という形で主権制約を実現し、協力を深化させてきたが、ASEANはそれとは異なる方法で主権の制約を進めている、というのが本書の主張である。
 
ASEANは、設立から50年以上存続するだけでなく、協力分野を拡大してきた。経済統合はその典型である。モノやサービス、資本、人の自由な移動に向けて取り組みが進められている。また、域外国とも自由貿易協定を結ぶなど、東南アジアを超えた統合が進みつつある。他方、南シナ海の領有権の問題や、ミャンマーの民主化問題など、ASEANが組織として十分な解決をもたらしていない問題もある。こうした状況をふまえ、ASEANに関する論考にはASEANの役割を肯定的に評価するものも、力不足を指摘するものもあるが、共通するのは、ASEANはEUと異なり、主権を重視し、内政不干渉原則を堅持する地域機構である、という主張である。しかし、分野別に協力の実態をみていくと、程度の差はあれ、主権の制約を伴う形で協力が進んでいることがわかる。本書では他の地域機構を参照しながら、この点を論じている。比較の視点を取り入れることでASEANの特徴を浮き彫りにでき、かつ、ASEANの経験から学ぶものがあると考えたからである。ASEANにおける主権の制約は、主権制約の方法は多様であることを教えている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 鈴木 早苗 / 2025)

本の目次

序章 ASEANをどうとらえるか
1.地域機構としてのASEAN/2.比較のなかのASEAN/3.政府間主義と対立・協調の政治/4.本書の構成
 
第1章 脱植民地化・冷戦とASEAN
1.地域主義の波と植民地遺産/2.東南アジアの成立と米国主導の地域機構/3.ASEANの誕生:自前の地域機構形成へ/4.冷戦と国家建設の重要性/5.ASEANの発展:国際社会による認知へ
 
第2章 ASEANの政策決定
1.政府間組織としてのASEAN/2.外相主導の協力の限界/3.コンセンサス制とその例外:ASEANマイナスX方式の意義/4.常設機関の役割/5.域外国・地域との関係の制度化
 
第3章 政治安全保障
1.紛争解決手続き・規範/2.内政不干渉原則の相対化:ミャンマーへの関与を通して/3.ASEAN政府間人権委員会の役割と限界/4.域外国・地域との政治安全保障協力/5.国防大臣会議の役割/6.政治安全保障共同体と東南アジアの平和
 
第4章 経済統合
1.経済協力の挫折/2.ASEAN自由貿易地域とアジア通貨危機/3.貿易円滑化とサービス貿易自由化/4.連結性の強化/5.域外国・地域との経済協力/6.新しい経済統合モデル?:ASEAN経済共同体の目指すもの
 
第5章 非伝統的安全保障
1.国内問題の越境性/2.環境問題:越境煙害(ヘイズ)/3.移民労働者問題:送り出し国と受け入れ国の対立/4.ASEAN防災人道支援調整センターの活動/5.新型コロナウイルス対策/6.非伝統的安全保障と社会文化共同体
 
第6章 域外国・地域との関係
1.域外国・地域との付き合い方/2.中国の台頭と南シナ海問題/3.アメリカとインド太平洋協力/4.EUとの関係/5.日中協力と日ASEAN関係の独自性/6.国際問題への関わり
 
終章 ASEANはどこに向かうのか
1.政府間主義モデルの可能性/2.ASEAN共同体と協力の深化
 

関連情報

受賞:
第41回大平正芳記念賞 (公益財団法人大平正芳記念財団 2025年2月3日)
https://ohira.org/41-ohira-award/
 
書評:
<本の棚>
湯川拓 評 (『教養学部報』第658号 2024年11月1日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/658/open/658-2-02.html

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