
書籍名
日中戦争下の中国語雑誌『女声』 フェミニスト田村俊子を中心に
判型など
408ページ、A5判、上製
言語
日本語
発行年月日
2023年12月
ISBN コード
9784861109164
出版社
春風社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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日中戦争末期、日本占領下の上海で、田村俊子という日本人女性編集長のもと、中国の女性を主たる読者対象として、『女声』という中国語雑誌が出版された。この簡潔な説明を見ただけでも、戦時下のジャーナリズム、支配者日本と中国の文化的関係性、ジェンダーの問題など、多くの問題が絡み合っていることが想定されるであろう。さらに複雑なことに、実質的な編集業務を担当した中国人女性作家関露が、中国共産党の地下党員であり、いわば地下工作者として上海で活動していた。
こうした状況を反映して、『女声』は注目されてきたものの、雑誌そのものよりも、その背景に関心が集中してきた。中国では、その後悲劇の人生を送った関露についての研究が多い。関露は地下党員であったことが証明できず、対日協力者の汚名を着せられた。とくに議論の焦点になったのは、『女声』を肯定的に見るか、否定的に見るかであった。『女声』には、関露を実質的編集者として中国女性に向けて発行された女性雑誌という側面と、日本軍部から資金提供を受け日本の意志を反映した側面が共存していた。多くの議論は、その政治的な立場に対する価値判断を行ってきた。
そのような議論の立て方の問題は、雑誌そのものを見ないことにある。雑誌は一九四二年から四五年まで三年にわたって発行されており、すべてを読むことは容易ではない。しかし雑誌に何が書かれているかを丁寧に見ることなく、政治的性質を判定しても、正当な判断にならないであろう。もう一つの問題は、この時期だけを切り離して論じる傾向が強いことである。編集長をつとめた田村俊子は、明治末から日本文壇で女性特有の感覚を作品化して活躍した小説家であり、一九一八年から三六年までは労働運動にたずさわるパートナーとともにバンクーバーで生活をした。こうした体験を念頭におくならば、『女声』を田村俊子のフェミニストとしての活動と関係づけて読み解くことが必要になる。
本書は、田村俊子の歩みを踏まえた上で、雑誌『女声』の全体を読み込んだものである。誌面には、時事評論のほか、映画欄、創作欄、家庭欄、読者投稿欄などがあった。雑誌全体が一つの意志で貫かれることはなく、むしろ複数の力がせめぎ合っていた。田村俊子はおそらく女性の声を届けることに理想をもっていたが、つねに現実の中で調整を繰り返さざるをえなかった。本書の分析によって、理想と現実、中国と日本、男性と女性など、複数の関係性がせめぎ合うダイナミズムが浮かび上がった。
それが可能になったのは、本書が共同研究の成果だからである。一人では読み切れない雑誌をすべて読めたことも共同作業の成果であるが、それ以上に、日本文学、中国史、映画研究、演劇研究などの専門家が集まることで、複数の視点から雑誌に向き合うことができた。複数の専門家が共同で研究することによって、戦争中の複雑な問題を単純化することなく、その全体像を明らかにすること、それは今日の人文研究の達成点を示しているとも考えられる。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 鈴木 将久 / 2025)
本の目次
I 総論
第1章 田村俊子と『女声』 山﨑眞紀子
第2章 関露の『女声』への参加とその後 江上幸子
「東京寄語」「東京憶語(精神病状態の日々)」関露(須藤瑞代 訳)
第3章 アジア・太平洋戦争期の上海政治空間と国際関係―『女声』の性格を探る手がかりとして 石川照子
II 『女声』の戦略性
第4章 プロパガンダの「責任者」としての編集長・田村俊子―時事評論欄「国際新聞」「新聞網」「瞭望台」の検討から 渡辺千尋
第5章 『女声』の映画スペース―日本に対する同調・忌避・”好意“ 宜野座菜央見
第6章 『女声』における「先声」と「余声」の意義 藤井敦子
III 関露と『女声』
第7章 『女声』誌上のジェンダー論―関露を中心に 江上幸子
長編小説『黎明』第三章 関露(石井洋美 訳 江上幸子 解説)
第8章 『女声』劇評にみるジェンダー観―関露の見た海派話劇 中山 文
IV 田村俊子と『女声』
第9章 『女声』における「児童」ならびに豊島与志雄の童話 姚 毅
第10章 陶晶孫と田村俊子、そして『女声』 鈴木将久
「日本からアメリカ、そして中国へ―追悼・佐藤女史」陶晶孫(藤井敦子 訳)
第11章 『女声』における日本女性の存在と不在 須藤瑞代
第12章 田村俊子主宰「信箱」―戦時下における私的言語の空間 山﨑眞紀子
おわりに 山﨑眞紀子
参考文献一覧
主要執筆者のペンネームと執筆記事一覧
『女声』総目録
関連情報
山口早苗 (慶應義塾大学) 評 (『ジェンダー史学』第21号p.119 2025年)
https://ghaj.jp/journal/backnumber/vol21-2025/
渡邊 ルリ 評 (『昭和文学研究』90巻p.275-277 2025年3月1日)
https://doi.org/10.50863/showabungaku.90.0_275
趙 怡 評 (『中国女性史研究』第34号p.63-71 2025年2月20日)
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000080396-i32705993
羽田朝子 (秋田大学) 評 (『日本ジェンダー研究』第27号p.145 2024年12月13日)
https://jp-gender.jp/wp/?page_id=1357
濱田麻矢 評 (『中国研究月報』第922号 2024年12月)
https://www.institute-of-chinese-affairs.com/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%9C%88%E5%A0%B1
木田隆文 (奈良大学文学部教授) (『日本文学』第73巻 2024年10月)
http://nihonbungaku.server-shared.com/kikanshi/2024/2024_10.html
『図書新聞』2024年6月22日号
講座:
【令和5年度 日本大学スポーツ科学研究所 公開講座】
『田村俊子の生涯』 ー明治・大正・昭和を生きたコスモポリタン作家の生涯と作品 日中女性間交流を中心にお話ししますー』 (2024年2月9日 日本大学スポーツ科学研究所)
https://www.css.nihon-u.ac.jp/research/course/

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