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古い絵画

書籍名

アジア遊学 297 廃墟の文化史

著者名

木下 華子、 山本 聡美、渡邉 裕美子 (編)

判型など

288ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2024年10月

ISBN コード

978-4-585-32543-7

出版社

勉誠社

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廃墟の文化史

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現代日本において「廃墟」は一つのブームである。近代産業遺産である軍艦島や、衰退した観光地の遊園地やホテル、人口減少による廃村や廃校など、廃墟は私たちの心をひきつけ、そこには社会現象としてのブームが立ち上がり、語られる。この時、一般的に「廃墟」と見なされるのは、近代以降の建造物などであり、廃墟ブームは現代のものとして捉えられることが多い。
 
しかし、「廃墟」が有する射程はもっと広い。ヨーロッパに目を向ければ、16世紀半ば以降に古代の廃墟に対する関心が高まり、絵画の主題として確立、廃墟論の蓄積にも大きなものがある。日本でも、このような研究動向は受容されており、2000年代以降、西欧の廃墟論を紹介しつつ廃墟論の構築が模索されてきた。それでも、日本の廃墟論は、近代以降を対象とし、前近代の日本の文化表象が注目されることは極めて少なかったと言わざるを得ない。しかし、ひとたび文学史・文化史をたどってみれば、『万葉集』に大津宮の荒廃を嘆いた柿本人麻呂の近江荒都歌があり、『源氏物語』には夕顔の女君の最期の場となった「なにがしの院」がある。『方丈記』には平安末期に起きた5つの災害によって荒れゆく都が叙述され、『西行物語絵巻』『一遍上人縁起絵』などの多くの絵画にも荒廃の景は描かれる。「廃墟」というフレームは、前近代の日本文学史・文化史を考えるにおいて大きな有効性を持つと言えるだろう。
 
本書は、このような問題意識から、「廃墟」研究の拡大・深化を目指して、日本の上代・中古・中世・近世・近代文学、日本美術史、日本中世史、宗教学、西洋美術史等を専門とする国内外20名の研究者によって、学際的な〈廃墟論〉の確立と今後の〈廃墟論〉へのプラットフォームの創出を企図するものである。
 
第一部「廃墟論の射程」には、「廃墟」の機能に着目した論考を収載する。過去・現在・未来という時間軸を行き来し、場面・物語・趣向をつくりだす動力。本来性を回復させ、理想的な新しさや歴史的な価値を生む創造性。人類の未来への眼差しを宿す啓発性。言葉として、美術的な営為としての「廃墟」が、縦横無尽に機能する様相を実感いただけるだろう。
 
第二部「廃墟の時空」には、表象分析を中心とした論考を収める。河原院・遍照寺等、日本における象徴的な「廃墟」表象のあり方。「廃墟」が内包する復興や回復の物語を実現させる場としての、身体の可能性。「廃墟」の多様性とダイナミックな展開を味わうことができる。
 
第三部「廃墟を生きる」には、戦乱や災害による実際の荒廃の中での人々の営みを紡ぎ出す論考を集める。承久の乱後の京都や中世の大内裏の荒廃を「廃墟」として捉えた時、そこにきざす再生のあり方。中国文学の記憶を背負って五山文学の中に現出する「廃墟」。第二次世界大戦という「廃墟」の中に立ち上がる戦争画家たちの目論見と営為。戦乱や自然災害、多くの社会変動に見舞われた日本において、人々が常に「廃墟」と向き合い、社会の中に「廃墟」を包摂しながら歩んできたことが理解される。
 
文学・歴史・美術史・宗教学など多岐にわたる分野の研究者が「廃墟」を論じるため、関心を抱くところから読んでいただければと思う。災害列島とも言われる日本において、戦争が止まぬ世界において、「廃墟」からの復興・再生は常に現代的な課題である。本書から、「廃墟」が内包する再生・復興への祈り、困難に立ち向かい新しさを育む可能性を感じ取っていただければ、まことに幸いである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 木下 華子 / 2026)

本の目次

カラー口絵
巻頭言 わたしたちの廃墟論へ 渡邉裕美子

第1部 廃墟論の射程

「廃墟」の創造性─歌枕・紀行文・『方丈記』 木下華子
『うつほ物語』の廃墟的な場─三条京極の俊蔭邸と蔵の意義 陣野英則
廃墟に花を咲かせる―『忍夜恋曲者』の方法 矢内賢二
西洋美術史における廃墟表象―人はなぜ廃墟に惹きつけられるのか? 平泉千枝
【コラム】前近代中国における廃墟イメージ―読碑図・看碑図・訪碑図など 板倉聖哲
言葉としての「廃墟」―戦後文学の時空 藤田 佑

第2部 廃墟の時空

廃墟と霊場―闇から現れるものたち 佐藤弘夫
廃墟と詠歌―遍照寺をめぐって 渡邉裕美子
夢幻能と廃墟の表象―世阿弥作《融》における河原院描写に注目して 山中玲子
【コラム】生きた廃墟としての朽木—風景・記憶・木の精 ハルオ・シラネ
廃墟に棲まう女たち―朽ちてゆく建築と身体 山本聡美
廃墟になじめない旅人―永井荷風『祭の夜がたり』 多田蔵人
【コラム】韓国文学における廃墟 嚴 仁卿
【コラム】西洋美術史から見た日本における廃墟とやつれの美 佐藤直樹

第3部 廃墟を生きる

【コラム】荒れたる都 三浦佑之
承久の乱後の京都と『承久三、四年日次記』 長村祥知
廃墟の中の即位礼―中世の即位図からみえるもの 久水俊和
五山文学における廃墟の表象 堀川貴司
戦争画家たち―それぞれの「敗戦」 河田明久
廃墟としての金沢文庫─特別展『廃墟とイメージ』の記録 梅沢 恵

あとがき 木下華子

関連情報

書評:
前田雅之 評 (『国語と国文学』第103巻1号、2025年12月12日)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/K2601/
 
関連記事:
なぜ日本人は軍艦島に惹かれるのか?... ローマとは違う、30年以上続く「廃墟ブーム」の中で日本が目指すべき道 (WEBアステイオン 2025年3月19日)
https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/96
 
イベント:
国際シンポジウム「東西比較を通じた廃墟の文化史」 (サントリー文化財団研究助成(学問の未来を拓く)「前近代日本における廃墟の文化史」 2024年10月31日)
https://www.waseda.jp/flas/rilas/news/2024/10/11/13533/
 
特別展 廃墟とイメージ ─憧憬、復興、文化の生成の場としての廃墟─ (神奈川県立金沢文庫 2023年9月29日~11月26日)
https://www.pen-kanagawa.ed.jp/kanazawabunko/tenrankai/ichiran/r5/202310ruins.html
 
国際シンポジウム「古代・中世日本における廃墟の文化史」
Cultural History of the Ruins in Ancient and Medieval Japan (科学研究費基盤C(20K00337)「古代・中世日本における廃墟の文化史」 2023年3月18日)
https://www.waseda.jp/flas/gjs/news/3397
 

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