本書は、岩波書店の「古代史をひらく」というシリーズの一冊として、藤原道長の時代を中心とする「摂関政治」について、近年の研究の深化をふまえ、古代国家の発展の到達点と考えるか、中世的な政治の始まりと考えるか、両方の視点から分析することで、その実態に迫ろうとする試みである。
巻頭には、本書の責任編集者である吉川真司氏による「〈摂関政治〉を考える」が、摂関政治をめぐる明治以降1990年代にいたる研究史を整理した上で、これからの課題を挙げ、本書の構成を説明している。
大津透による「古代政治としての摂関政治」は、本書での議論の中心となる論考である。九世紀に幼帝清和天皇が誕生すると、藤原良房は摂政として幼主を輔佐し、清和譲位にあたって藤原基経を関白に任じる。ここに始まった摂政・関白は、一〇世紀半ばの藤原忠平の時代に摂関体制が成立し、一〇世紀末の藤原兼家、藤原道長の時代にいたる政治過程をたどる。その上で摂関政治の中心的で最も重要な政務である公卿合議制である陣定 (じんのさだめ) を分析し、国家の中枢に関わる議題で開催されたことを述べ、さらに受領からの様々な申請を審議する諸国申請雑事定、内裏造営にあたって諸国に殿舎を割り当てる造内裏定、任期終了後の受領の成績を公卿が審査する受領功過定を取りあげて、受領の統制が陣定の重要な議題であることを論じた。一〇世紀後半にこうした受領関係の陣定が始まることが、陣定の成立、つまり摂関政治の画期であると論じた。道長は一上 (筆頭左大臣) を譲らなかったが、それは同時に大中納言が上卿として様々な政務を分担して執行する体制であり、公卿が分担する公卿連合による太政官政治の上に摂関政治が成立していたのである。
告井幸男「中世政治としての摂関政治」は、これに対する反論である。人事制度のなかで年給などの貴族などの個人的権限が拡大し、貴族社会のネットワークが大きな意味を持つようになり、官僚組織のなかでも個人的権限が拡大し、公私混淆がすすみ、貴族の私的領域が拡大する。その結果陣定を貴族達の利害調整の場だと位置づけている。摂関政治を分権的な権門政治の始まりであると論じている。小原嘉記「受領の支配と奉仕」は、摂関政治を支えた受領について、制度的に位置づけ、財政構造の転換にふれるとともに、受領と受領の妻の具体的なあり方について、王朝文学を参照して明らかにした。ほかに山本淳子「「后」たちと女房文学」豊島悠果「高麗前期の統治体制の変容と対外関係」を収め、巻末には執筆者による「座談会 摂関期は古代か中世か」を収載している。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 大津 透 / 2026)
本の目次
「古代政治としての摂関政治」 大津 透
「中世政治としての摂関政治」 告井幸男
「「后」たちと女房文学」 山本淳子
「受領の支配と奉仕」 小原嘉記
「高麗前期の統治体制の変容と対外関係」 豊島悠果
「座談会 摂関期は古代か中世か」
関連情報
https://www.iwanami.co.jp/news/n54777.html
座談会:
〈座談会〉ひらかれた古代史へ──シリーズ『古代史をひらくII』発刊に際して【前編】 (web岩波『たねをまく』 2023年12月27日)
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/7660
〈座談会〉ひらかれた古代史へ──シリーズ『古代史をひらくII』発刊に際して【後編】 (web岩波『たねをまく』 2023年12月27日)
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/7662
書籍紹介:
女の本屋 (『women’s action network』 2023年12月21日)
https://wan.or.jp/article/show/10990

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