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書籍名

Kollektives Gedächtnis und Erinnerungskulturen : eine Einführung 集合的記憶と想起文化 メモリー・スタディーズ入門

著者名

アストリッド・エアル (著)、 山名 淳 (訳)

判型など

338ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年8月

ISBN コード

978-4-8010-0662-1

出版社

水声社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

集合的記憶と想起文化

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記憶とは本来、個人の経験に根ざして形成されるものだ――そう考えるのが一般的だろう。記憶は自分の〈内側〉にあるものだ、と。しかし少し立ち止まってみると、必ずしもそう単純には割り切れないことに気づく。たとえば、子どもの頃に祖父母の昔話に耳を傾け、まだ生まれていなかった時代の情景を思い描くうちに、その過去の意味がそっと自分の記憶のなかに入り込んでくるような経験はないだろうか。このような記憶は、〈内側〉と〈外側〉のどちらかに明確に分類できるものではない。メモリー・スタディーズでは、こうした「私」と「あなた」の〈あいだ〉に宿る過去の意味内容を「集合的記憶」と呼んでいる。
 
集合的記憶は、年配の人との会話だけで生まれるわけではない。古い映画を観ること、街を歩いて記念施設を訪れること、歴史的なモニュメントに触れること、あるいは毎年行われる追悼行事に参加すること。そうした体験を通して、私たちは自分の経験を超えた過去を記憶のなかに取り込んでいく。そこから生まれる集合的記憶は、人びとのあいだに共同性を育む一方で、〈われら/やつら〉という境界線を引き、異なる者を他者として切り分けてしまう契機にもなりうる。その意味で、集合的記憶は豊かでありながら、同時にやっかいな現象でもある。
 
本書は、この「集合的記憶」を鍵概念として世界を理解するために必要な理論を、明晰かつ体系的に提示してくれる。著者アストリッド・エアルは、社会学、心理学、歴史学、芸術論、文学研究、メディア論など、多様な学問領域を横断しながら、集合的記憶研究の基盤を丁寧に描き出している。集合的記憶論は特定のジャンルに収まらないため、論者によって「記憶」のイメージや定義が異なることも多く、この領域に初めて触れた人が戸惑いを覚えるのも無理はない。実際、エアル自身もその困難を本書のなかで率直に語っている。基礎を示す入門書が存在しないことに悩み、それなら自ら書こうと彼女は決意したという。その心意気に、同じように戸惑いを抱えていた私は胸を打たれた。そして、本書の邦訳を志すに至った。
 
本書から得られる最大の収穫は、「集合的記憶」という共通言語を手にすることで、異なる専門領域の研究者たちと対話できるようになる点にある。私自身の専門は教育哲学・思想史だが、この共通言語を通じて、文学論、演劇論、コミュニケーション論、メディア論など、多様な分野の専門家と議論を交わすことが可能になった。この経験を、より多くの読者にも味わっていただきたい。理解を助けるために図表も豊富に用意されている。取り上げられる事例の多くは欧米のものだが、邦訳書の読者としては、それらを自分の身近な例に置き換えて読み解く余地があり、それもまた一つの知的な楽しみとなるだろう。
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 / 情報学環・学際情報学府 教授 山名 淳 / 2026)

本の目次

第一章 なぜ「記憶」が問題なのか――導入
第一節 「記憶」に注目する理由
第二節 なぜ「記憶」がまさに今日取り上げられるのか
第三節 「集合的記憶」とは何を意味するのか
第四節 重要なのは記憶、想起、あるいは忘却か
第五節 本書の課題および構成

第二章 集合的記憶の発明――文化科学における記憶研究の概観
第一節 モーリス・アルヴァックス――集合的記憶
第二節 アビ・ヴァールブルク――ムネモシュネ、情念定型とヨーロッパの図像記憶
第三節 ピエール・ノラ――記憶の場
第四節 アライダ・アスマンとヤン・アスマン――「文化的記憶」
第五節 「想起文化」――ギーセン特別研究センター434の構想

第三章 記憶――各学問分野におけるアプローチおよび学際的なネットワークの可能性
第一節 記憶の歴史性と社会性――歴史学および社会科学
第二節 記憶の具象性――芸術および文学研究
第三節 記憶の精神性――心理学の記憶研究

第四章 集合的記憶と想起文化――文化記号論的モデル
第一節 メタファー――集合的次元における記憶、想起、そして忘却
第二節 想起文化の物的、社会的、心的次元
第三節 文化の自伝的、意味的、手続き的な記憶システム
第四節 隣接する概念――集合的アイデンティティ、経
第五節 〈想起の様式〉――コミュニケーション的記憶と文化的記
第六節 想起の向こう側――忘却と未来
第七節 流動する想起――超文化的な視点および超国家的な視点

第五章 メディアと記憶
第一節 メディアによる記憶生成
第二節 メディア史としての記憶の歴史
第三節 集合的記憶のメディア――想起文化論の圧縮概念
第四節 記憶メディアの機能
第五節 メディア文化科学における記憶研究

第六章 集合的記憶のメディアとしての文学
第一節 想起文化の象徴形式としての文学
第二節 文学テクストと想起文化のコンテクスト――ミメーシス
第三節 〈集合的記憶〉と〈集められた記憶〉のメディアとしての文学

第七章 物語論のカテゴリー――集合的記憶のレトリック
第一節 集合的記憶のレトリック――五つのモード
第二節 経験型モードとモニュメント型モード
第三節 歴史化モード――文学における歴史記述
第四節 闘争型モード――文学的な想起の抗争
第五節 省察型モード――想起文化についての文学の観察
第六節 想起の歴史に関するナラトロジーの視点

訳注
文献一覧
人名索引
事項索引
訳者あとがき
 

関連情報

書籍紹介:
【マイブック】『集合的記憶と想起文化 ー メモリー・スタディーズ入門』(山名淳 教授) (東京大学情報学環・学際情報学府ホームページ 2022年11月1日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/research/221101mybook
 
原著 (ドイツ語):
Astrid Erll『Kollektives Gedächtnis und Erinnerungskulturen』 (『Springer Nature』 2017年)
https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-476-05495-1
 
関連エッセイ:
【特集 想起と記憶】山名淳 (2023)「メモリー・スタディーズの現在」 (水声社『コメット通信』第41号11-12頁 2023年12月)
http://www.suiseisha.net/blog/?page_id=16501
https://www.suiseisha.net/_sys/wp/wp-content/uploads/2023/12/%E3%82%B3%E3%83%A1%E3%83%83%E3%83%88%E9%80%9A%E4%BF%A1%E7%AC%AC41%E5%8F%B7.pdf
 
書籍紹介:
寄贈『集団的記憶と想起文化』(山名淳) (九州大学独文学研究室ホームページ 2024年5月27日)
https://www2.lit.kyushu-u.ac.jp/~german/post-436/
 
丸山恭司 (『教育学研究』第90巻 第3号p.497-498 2023年)
https://doi.org/10.11555/kyoiku.90.3_497

関連記事:
Culture as Human, Culture as Network: On the Theory of Bildung based on Memory Studies - Jun Yamana (The University of Tokyo)  (『E-Journal of Philosophy of Education: International Yearbook of the Philosophy of Education Society of Japan』Vol. 8, p.37-48  2023年10月1日)
https://pesj.sakura.ne.jp/english/englishjournal.html
https://pesj.sakura.ne.jp/english/vol_08_Yamana_37-48.pdf
 

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