
書籍名
それでも、日本人は「戦争」を選んだ
判型など
416ページ、四六判、並製
言語
日本語
発行年月日
2009年7月29日
ISBN コード
9784255004853
出版社
朝日出版社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
大学の教師というのは、「わかったことを、わかりにくく教える」のを、恥ずかしながら本分としているので、かくいう私も、本や史料を一人で静かに繙くのは大好きなのですが、目の前の学生・生徒に教えるのは実のところ苦手でした。ところが、何を血迷ったものか、実際の中高生 (神奈川県の栄光学園の生徒さん) に向けて5日間にわたってお話しした講義風景を本にしてしまいました。それがこの本です。
ふだん私は、後期課程の学生に日本近代史を講じていますが、一度だけ、前期課程の学生に向け、日本近代史の講義を行なったことがありました。専門を決定する前の学生を相手にした講義は、思いのほか自分にとって面白く、講義ノートを元に『戦争の日本近現代史』(講談社現代新書、2002年) という本を出してしまったほどでした。日清戦争から太平洋戦争まで、10年ごとに大きな戦争をやってきた国である日本にとって、戦争を国民に説得するための正当化の論理には、いかなるものがあったのか、それを正確に取り出してみようとの目論見が、私にはありました。
本書は、扱う対象こそ『戦争の日本近現代史』と同じですが、少し視野を広くとり、たとえば、序章では、(1) 9・11テロ後のアメリカと、日中戦争期の日本に共通する対外認識とはなにか、(2) 膨大な戦死傷者を出した戦争の後に、国家が新たな社会契約を必要とするのはなぜか、(3) 戦争は敵対する国家の憲法、社会を成立させている基本原理に対する攻撃というかたちをとるとルソーは述べたが、それでは太平洋戦争の結果、書きかえられた日本の基本原理とはなにか、などの諸論点を、生徒さんのやりとりの中で考えています。戦争というものの根源的な特徴を、時間をかけて抽出してみたいと思ったのです。
つまるところ、日本がかかわった、その時々の戦争は、国際関係、地域秩序、当該国家や社会に対して、いかなる影響を及ぼしたのか、また、時々の戦争の前と後ではいかなる変化が起きたのか、本書のテーマはここにあります。自国民、他国民を共に絶望の淵に追いやる戦争の惨禍が繰り返されながらも、戦争はきまじめともいうべき相貌をたたえて、起こり続けます。皆さんには、自分が作戦計画の政策立案者であったなら、自分が満州移民として送り出される立場であったなら、などと本書を読みながら想定して欲しいと思っています。
本書は優しいタッチのカバーがついています。しかし、内容は決して簡単なことを述べてはいません。また、日本史の叙述が陥りがちな、日本を中心とした天動説ではなく、中国の視点、列強の視点も加え、最新の研究成果もたくさん盛り込んであります。日本と中国がお互いに東アジアのリーダーシップを競り合った結果としての日清戦争像や、陸海軍が見事な共同作戦 (旅順攻略作戦) を行なった点にこそ新しい戦争のかたちとして意義があったとロシア側が認めた日露戦争像など、見てきたように語っております。是非ご一読を。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 加藤 陽子 / 2018)
本の目次
序章 日本近代史を考える
1章 日清戦争――「侵略・被侵略」では見えてこないもの
2章 日露戦争――朝鮮か、満州か、それが問題
3章 第一次世界大戦――日本が抱いた主観的な挫折
4章 満州事変と日中戦争――日本切腹、中国介錯論
5章 太平洋戦争――戦死者の死に場所を教えられなかった国
関連情報
https://www.asahipress.com/soredemo/
受賞:
第9回 小林秀雄賞 受賞 (一般財団法人 新潮文芸振興会 2010年)
https://www.shinchosha.co.jp/prizes/kobayashisho/9/
「カリスマ書店員が選ぶ、2009年 最高に面白い本大賞」
歴史、ノンフィクションの2部門1位 (雑誌『一個人』2009年1月号)
「2009年最高のノンフィクション1位」 (『週刊現代』 2009年12月26日)
紀伊國屋書店スタッフが選んだ今年のベスト30 キノベス2009 6位 (紀伊國屋書店 2009年)
https://www.kinokuniya.co.jp/01f/kinobes/2009/index.htm#best30
著者インタビュー:
メディア出演 (BSフジ『LIVE PRIME NEWS』 2009年12月4日)
「戦争 自分ならどうする」 (『読売新聞』 2009年8月14日)
「昔の英知の苦しみ 知って」 (『毎日新聞』 2009年8月14日)
著者インタビュー (『朝日新聞』 2009年8月6日)
メディア出演 (朝日ニュースター『ニュースの真相』 2009年)
書評:
慶松勝太郎 評 (『LEC会計大学院紀要』17巻p.127-143 2020年1月30日)
https://doi.org/10.24660/lecgsa.17.0_127
諸富徹 評 (ひもとく) 中高生向け講義 学問のエッセンス広く伝える (朝日新聞 2019年1月19日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13855092.html
「解説」から読む本 解説 by 橋本治 (HONZ 2016年6月30日)
https://honz.jp/articles/-/42983
「歴史を見る目のつくりかた~教えてください、加藤先生!」 (『日経ビジネス』オンライン 2010年)
斎藤哲也「明治・大正・昭和史ってこんなに面白かったの!?」 (『R25』 2010年3月4日)
「2010年を読む3冊」 (『週刊ポスト』 2009年)
『最高の本! 2010』永江朗さんが選ぶ、2009年のノンフィクション本 (『マガジンハウス』 2009年)
読書委員が選ぶ「2009年の3冊」 (『読売新聞』 2009年)
「2009年この3冊」 (『毎日新聞』 2009年)
「2009年の3冊」 (『東京新聞』 2009年)
池内紀 評 (『ミセス』 2009年12月)
著者に聞きたい本のツボ (NHKラジオ『あさいちばん』 2009年10月31日放送)
鶴見俊輔 評「現代のことば」 (『京都新聞夕刊』 2009年10月26日)
仲俣暁生 評 (『婦人公論』 2009年10月22日)
内田樹 評 (『プレジデント』 2009年10月19日)
香山リカ 評 (『週間ポスト』 2009年10月2日号)
佐藤優 評 (『文藝春愁』 2009年10月号)
小柳学 評「売れてる本」 (『朝日新聞』 2009年9月20日)
佐藤和歌子、小玉清「週間ブックレビュー」 (『NHK BS2』 2009年9月12日放送)
森達也 評 (『本の花束』 2009年)
保阪正康 評 (『共同通信』 2009年)
成田龍一 評 (『中日・東京新聞』 2009年9月20日)
池谷祐二 評 リレー読書日記 (『週刊現代』 2009年9月19日26号)
書評 (『AERA』 2009年8月31日号)
書評 (『日本経済新聞』 2009年8月30日)
福田和也 評「福田和也の世間の値打ち」 (『週刊新潮』2009年8月27日号)
鹿島茂 評「私の読書日記」 (『週刊文春』2009年8月27日号)
読書 (『東洋経済』ONLINE 2009年8月19日)
沼野充義 評 (『毎日新聞』 2009年8月16日)
「最新の研究成果をもとにした切り口も刺激的」 (『産経新聞』 2009年8月16日)
関連記事:
それでも、日本人は「戦争」を選んだ あの授業を受けた生徒たちは今 (『朝日新聞』 2021年12月8日)
https://www.asahi.com/articles/ASPD7560VPCVULZU002.html