東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙にGoogleのコーポレートカラーの題字

書籍名

Google SEOのメディア論 検索エンジン・アルゴリズムの変容を追う

著者名

宇田川 敦史

判型など

368ページ、並製

言語

日本語

発行年月日

2025年3月19日

ISBN コード

978-4-7872-3554-1

出版社

青弓社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

Google SEOのメディア論

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新しいメディア技術の出現を、どう捉えるべきか?
 
本書の問題意識の根底にあるのは、変化が激しい (と表象されがちな) 現代のデジタル・メディア環境において、その「変化」そのものをどのように捉えることが可能か?という問いである。現代社会に生きる多くの人が関心を持ちながらも、ときには悩んだり、場合によっては諦めてしまったりしている根源的な問いのひとつといえるのではないだろうか。
 
本書は、検索エンジンとして一般に定着し、「インフラ」と呼べるまでにいたったプラットフォーム「Google」を対象に、そのアルゴリズムがどのように構築され、どのように「ブラックボックス化」したのかを分析することで、メディア技術が「新しい」とされる状態からどのように「日常化」していくのか、その歴史的・社会的な過程を検討したものである。
 
本書で分析対象となるのは、インターネット黎明期から、2020年までの約25年間にわたる、検索エンジンあるいはそのアルゴリズムに対する言説の変遷である。より具体的には、Googleが事実上の標準的な検索エンジンとしての地位を確立する2005年ごろまでは、複数のパソコン雑誌における検索エンジンの言説を、2006年以降2020年までは、「Web担当者Forum」という「送り手」側のWebコミュニティの言説を対象に、検索エンジンのアルゴリズムがどのように表象されてきたのかを分析する。
 
Googleをはじめとするプラットフォームのアルゴリズムは、しばしばそれが「ブラックボックス」であると批判される。しかしそのアルゴリズム構築の歴史を分析することで明らかになることは、「ブラックボックス化」が、プラットフォーム側の一方的で恣意的な秘密主義によって構築されたとはいえない、という事実である。歴史的にみれば、アルゴリズムがブラックボックスであることは、複雑性を回避するユーザーが望んだことでもあったのだ。
 
一方そのように構築されたアルゴリズムのブラックボックスは、Webの「送り手」であるWebマスターらの活動においては必ずしもブラックボックスとして扱われていたわけではない。SEO (検索エンジン最適化) という活動を分析することで、Googleのアルゴリズムが、プラットフォーム設計者の単一の意志に基づいて (管理=制御の権力のもとで) 決まるのではなく、SEOの担い手を含む複数のアクターによる複雑な相互作用の結果として構築されることが明らかとなる。その際に参照されるのは「ガイドライン」とよばれるある種の規律であり、アルゴリズムの正統性はそれを合意し支持するコミュニティによって維持されるのだ。
 
このような「権力」の機制は、「プラットフォーム悪者論」のような単純な図式化を解体し、プラットフォームの複雑な歴史的・社会的な構築過程に眼を向ける重要性を示すとともに、アルゴリズムやAIを社会的に再デザインする可能性を提示するものといえるだろう。
 

(紹介文執筆者: 宇田川 敦史 / 2025年9月8日)

本の目次

はじめに

第1章 検索エンジンの日常化を問う
 1 なぜプラットフォーム研究か
 2 なぜ検索エンジン研究か
 3 なぜSEO研究か
 4 本書の問いと構成

第2章 プラットフォームとは何か
 1 メディアとしてのプラットフォーム
 2 プラットフォームは「フィルタリング」する
 3 プラットフォームは「コントロール」する
 4 プラットフォームは「分配」する
 5 概念整理――プラットフォーム、アーキテクチャ、インフラ

第3章 検索エンジン・アルゴリズムの確立――SEO前史 (一九九三―二〇〇五年)
 1 ウェブ1.0時代とパソコン雑誌
 2 サーフィン=サーチの時代 (一九九三―九五年ごろ)
 3 サーフィンからサーチへ (一九九六―九七年ごろ)
 4 ポータルの出現とWWWのマスメディア化 (一九九八―九九年ごろ)
 5 ポータルからプラットフォームへ (一九九九―二〇〇一年ごろ)
 6 ランキングのブラックボックス化 (二〇〇二―〇五年ごろ)

第4章 SEOによるアルゴリズム変容の全体像――二〇〇六年から二〇年までの通時的分析
 1 ウェブマスターのパースペクティブ
 2 「Web担当者Forum」というメディアの成り立ち
 3 SEO記事の頻出語と特徴語
 4 年代によるトピックの変化
 5 時代区分とその特徴

第5章 並列するSEO――複数検索エンジンへの対応 (二〇〇六―一〇年)
 1 第一期 (二〇〇六―一〇年) の特徴コード
 2 一般名詞としての「検索エンジン最適化」
 3 計算論的な「選び手」への最適化
 4 ブラックハットとホワイトハット
 5 アメリカから始まった検索エンジンの再編
 6 グーグル「ガイドライン」の出現
 7 Yahoo! Japanのグーグル化

第6章 中心化するSEO――グーグルによる秩序化 (二〇一一―一四年)
 1 第二期 (二〇一一―一四年) の特徴コード
 2 「裁き手」としての検索エンジン
 3 「パンダ」の出現と「排除」の論理
 4 「ペンギン」の出現と「ガイドライン支配」の確立
 5 「ガイドライン」を徹底させるメディア

第7章 脱中心化するSEO――モバイルによる秩序の揺らぎ (二〇一五―二〇年)
 1 第三期 (二〇一五―二〇年) の特徴コード
 2 多重化する最適化
 3 ペナルティのほころび
 4 「標準化」の推進と限界
 5 「モバイルファースト」の困難
 6 「ガイドライン」とアルゴリズムの深い溝

第8章 検索エンジン・アルゴリズムの「権力」を問い直す
 1 アルゴリズムはどのようにブラックボックス化したのか
 2 プラットフォームへの「メディア論的想像力」
 3 プラットフォームのメディア・リテラシーとは
 4 「メディア・インフラ・リテラシー」の可能性と展望

あとがき
 

関連情報

受賞:
第5回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2024年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
著者インタビュー:
【マンガ】SEO研究で博士号を取得、大学准教授になったって本当ですか?/武蔵大学 宇田川敦史さんに聞いた (Web担当者Forum 2025年6月27日)
https://webtan.impress.co.jp/e/2025/06/27/49407
 
世の中の矛盾を問う生き方、それが研究だった 東京大学大学院学際情報学府 (Elephant Careers 2022年9月11日)
https://ele-careers.com/2022/09/11/udagawaatsushi/
 
著者コラム:
検索エンジンもSNSも…ネットに埋め込まれた「ランキング」の功罪
人気が人気を呼ぶ循環構造の不合理 (講談社 | 現代新書 2021年8月3日)
https://gendai.media/articles/-/85519

シェアは92.2%!Google検索が世界一になった理由とは??
日常化したメディアとしての「プラットフォーム」 (講談社 | 現代新書 2020年9月13日)
https://gendai.media/articles/-/75440
 
書評:
大谷卓史 評「アルゴリズムの「管理=支配」をサーチエンジンと人間との相互作用から分析――人間の意味論的な理解や判断などを重視する」 (『図書新聞』3701号 2025年8月30日)
https://toshoshimbun.com/news_detail?article=1755752747947x677017053277716500
 
書籍紹介:
<単行本>「脳はAIにできないことをする」など (『北海道新聞』 2025年6月1日)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1166167/

著者より一言 (武蔵大学ホームページ 2025年3月11日)
https://www.musashi.ac.jp/news/h64vgj000000194n.html
 
イベント:
宇田川敦史『Google SEOのメディア論: 検索エンジン・アルゴリズムの変容を追う』出版記念ブックトーク会 (独立研究者ネットワークTAGEN 2025年4月29日)
https://google-seo.peatix.com/