
書籍名
ルワンダのガチャチャ裁判 ジェノサイドの被害者と加害者の賠償をめぐる対話
判型など
436ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2025年3月31日
ISBN コード
9784894890466
出版社
風響社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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「1994年にアフリカのルワンダで起こったジェノサイド (集団殺害) を知っていますか?」
大学の授業で受講生に質問すると3分の1が「知っている」と答えますが、この出来事は高校の世界史で軽く触れられる程度で詳しくは教えられていません。ルワンダジェノサイドの後に生まれた世代にこの出来事を伝えるためにも、この本を書きました。
そもそもジェノサイドは、特定の民族や人種や宗教を信仰する人々を根絶やしにしようとする行為です。ルワンダでは、多数派民族フトゥが少数派民族トゥチをわずか100日間で50万人以上虐殺しました。これほど多くの犠牲者が出た理由は、政治家や軍人の命令に従った多くのフトゥ市民がトゥチを虐殺したからです。
ジェノサイドが終わり、ルワンダ政府は全国1万2,000箇所に臨時の裁判所をつくり、ジェノサイドに加担したフトゥ市民100万人を裁きました。これが「ガチャチャ裁判」 (Inkiko Gacaca) です。日本では小さいおもちゃのカプセルを出すガチャガチャと間違えられますが、ルワンダ語の「ガチャチャ」の意味や由来は本に書いています。
ガチャチャ裁判について強調したいことは、18歳以上の市民が参加するよう義務付けられたことです。市民は膨大な情報を集め、加害者を特定しました。高い倫理感をもつ者、正直者などの条件を満たす21歳以上の市民が判事を務め、殺人罪と傷害罪に懲役と公益労働 (家や道づくりなど) を科し、窃盗罪と器物損壊罪に賠償を命じました。
ガチャチャ裁判は2001年に始まり2012年に終わりましたが、加害者は今も被害者に賠償を払い続けています。賠償を払い続ける加害者は貧しくなり、賠償を未だに受け取ることができない被害者も貧しくなり、賠償は深刻な社会問題を引き起こしています。厳しい状況にもかかわらず被害者と加害者が対話して賠償に取り組み、関係が修復されることもあります。私はこのようなジェノサイド後の実態を明らかにする研究をしています。
被害者と加害者のなかには、ジェノサイド前と同じ村で共に暮らす者もいます。私は2009年からフィールドワークを始め、複数の村に住み込み、住民と生活を共にして関係をつくりながら、被害者と加害者を中心に97名に聞き取り調査を行ってきました。この本には、赦したくても赦せない被害者の複雑な感情や、加害者の罪の意識など、「和解」という言葉には収まりきらない当事者の語りを書いています。
また、ガチャチャ裁判の判事を務めた市民は裁判を克明に記録しました。裁判記録は首都キガリ市の警察署本部に保管され、特別な許可がなければ読むことができませんが、私は政府と交渉して許可をもらいました。これを読むことで、ジェノサイドやガチャチャ裁判がそれぞれの調査地でどのように行われたのかが明らかになりました。当事者の語りからだけでは知り得なかった裁判の情報も、この本に書き込みました。
この本のオリジナリティは、ガチャチャ裁判について知ってもらうための巻末付録です。早く判決を出すことができるよう開発された起訴状フォーマットを、政府の許可を得て公開しています。さらにルワンダ語と英語で書かれたガチャチャ裁判の法律全文を、日本語に対訳して掲載しています。
聞き取り調査をしたルワンダ人が「ジェノサイドは終わっていない」と言ったように、ジェノサイドは今の社会に影響を及ぼし続けています。いま、ウクライナやパレスチナやスーダンなど世界各地で戦争や紛争が起こっていますが、これらが終結したとしても市民が抱え続ける問題に目を向けながら、情勢を追っていくことが重要であると考えます。
(紹介文執筆者: 片山 夏紀 / 2025年9月22日)
本の目次
まえがき
凡例/地図
序章
はじめに
1 ルワンダという国
2 ジェノサイド後の和解と協応行為
3 本書の構成
第1章 ルワンダのジェノサイド
1 ルワンダの「民族」問題
2 独立後の状況
3 ジェノサイド後の復興と続く暴力
<< 被害者と加害者の賠償の語り I >>
第2章 聞き取り調査と裁判記録の照合
1 聞き取り調査
2 追悼と想起
3 ガチャチャ裁判の裁判記録の閲覧
4 バナナと人の共生関係
小括
<< 被害者と加害者の賠償の語り II >>
第3章 伝統的なガチャチャからガチャチャ裁判へ
1 伝統的なガチャチャ
2 独立からジェノサイドまで
3 ジェノサイド終結後
小括
<< 被害者と加害者の賠償の語り III >>
第4章 ガチャチャ裁判の法律と賠償をめぐる対話
1 法律を論点にする賠償をめぐる対話
2 ガチャチャ裁判に関連する法律
3 ガチャチャ裁判の運営
4 賠償をめぐる対話がいかに行われているか
小括
<< 被害者と加害者の賠償の語り IV >>
第5章 協応行為と境界線の考察
1 歴史のなかで引かれた境界線
2 賠償をめぐる対話の協応行為
小括
<< 加害者の賠償の語り V >>
終章
1 本書のまとめ
2 真の和解とは──修復的司法、そして人間の安全保障へ
<< 被害者と加害者の賠償の語り VI >>
別章 これまで蓄積されてきた研究とこれからの研究
1 ジェノサイドとは
2 ジェノサイドの犯罪をどのように裁くのか
3 これから必要とされる研究
あとがき
参考文献
略語表/略年表
索引
●付録 (巻末ヨコ組み)
法律文の構成目次
掲載にあたって
ガチャチャ裁判の法律文
前文
第1部 本基本法が適用される犯罪 (第1~2条)
第2部 ガチャチャ裁判の設立、組織、管轄及び他機関の関係 (第3~50条)
第3部 犯罪の起訴と訴訟手続き (第51~96条)
第4部 雑則、経過規定、最終規定 (第97~106条)
裁判のための文書フォーマット
1 ガチャチャ裁判の起訴状
2 ガチャチャ裁判の賠償の合意文書
3 ガチャチャ裁判の召喚状
関連情報
第5回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2024年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
著者インタビュー:
萩上チキ・Session~発信型ニュース・プロジェクトPodcast (1) 【特集】ルワンダ、ジェノサイドの発生から30年。現地調査から分かった和解のプロセス、今も残る課題(片山夏紀)2024年4月22日放送分 (公式TBS Podcast | YouTube 2024年4月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=C-J7P8-JxO0
#ふぇみ・ゼミU30#第2回#6/27「ルワンダジェノサイド後の農村社会の差別構造を考える」ゲスト:片山夏紀 (ふぇみ・ゼミU30 | YouTube 2025年4月20日)
https://www.youtube.com/shorts/zKA_h7B58O0
受講生による講座の感想
https://femizemi.org/2025/08/250627u30/
エッセイ:
片山夏紀 和解と暴力 (科学研究費国際共同研究加速基金 (国際先導研究) 国際和解学の探求 ニューズレター・エッセイ 2024年7月)
https://memory.w.waseda.jp/newsletter/494
書評:
新刊コーナー (『綴葉』6月号No.438 2025年6月10日)
https://www.s-coop.net/about_seikyo/public_relations/images/teiyo-438.pdf