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2026年 藤井総長年頭挨拶

掲載日:2026年1月6日

明けましておめでとうございます。

来年の4月には、東京大学は創立150年を迎え、本年はそれに向けたさまざまな準備が本格化します。1877年の創設からほぼ折り返し地点にあたる、戦後の社会変革期における帝国大学から国立大学への変化は、大きな転換点でした。それにつづく第二の転機が、2004年4月の法人化です。

いま思えば、自立のためのさまざまな準備が充分には整わない、課題を多く積み込んだままの船出だったようにも感じます。それから22年、私たちは学問の自由に根ざした「世界の公共性に奉仕する大学」たらんという理念を掲げて、さまざまな改革に取り組んできました。大学の持つ知の体系性を活かし、世界を視野に入れた形での社会との連携をより強固にしていく試みは、今日、ますます重要性を高めています。

この2年間、皆さんと集中的な議論を行って構築してきた、本学の国際卓越研究大学の構想も、そのひとつです。

ご存知の通り、この国際卓越研究大学制度の第2期公募において、東京大学については「審査を継続する」という判断が、昨年の12月19日に文科省およびアドバイザリーボード(有識者会議)から出されました。

率直に申しあげて、たいへん残念に思います。

とりわけ、日々の部局運営に忙しい部局長のみなさんと、この一年ともに進めてきた構想の充実に向けた議論や、さまざまな専門から関わって下さった教職員の努力、とりまとめにあたった方々のご苦労を想いますと、私たちが望んでいた結果に結びつけることができず、総長としての責任を痛感いたします。

しかしながら、不採択ではなく審査を続けるという通知でもありますので、今後文科省等から明確に示されていくであろう確認の内容に応えられるよう、私たちとしても備えていく必要があると思います。

新たな年のはじまりにあたって、国際卓越研究大学制度による取り組みの、そもそもの原点を振りかえっておきたいと思います。まず確認したいのは、今回の募集があったがゆえに、私たちは大学の変革を考え、主張し始めたわけではないという事実です。

東京大学は、つねに日本を代表する大学であることを自覚してきました。それゆえにこそ、多様な専門学術を幅広く包摂する「総合大学」としてどうあるべきかについて、これまでも絶えず自己点検してきています。

とりわけ法人化以降、この基本的な問題の中身や、問題への対処のあり方も、複雑になってきました。さまざまな地球規模の課題が浮かびあがり、それらへの対応が求められる現代社会のなかで、自律的で創造的で社会に開かれた研究教育活動ができるようにするためには、法人としてどんなビジョンやアクションが必要なのだろうか。私たち東京大学は、あるべき姿を持続的に問い、どうすべきかの改善・変革に取り組んできたわけです。

私が就任半年後の2021年9月に公表したUTokyo Compassも、そのひとつです。

UTokyo Compassを基本方針として本学が様々な取り組みを進めるなかで、2022年5月に「国際卓越研究大学の研究及び研究成果のための体制の強化に関する法律」が定められ、政府は現在の事業を打ちだしました。事業の前提となる「大学ファンド」の話が聞こえ始めてきた前後から、私たちは「大学ファンド及び関連制度調査検討タスクフォース」をつくって検討を始めました。そして、UTokyo Compassが理念として掲げる「自律的で創造的な大学モデルの構築」において、どのようにしたらこの枠組みを積極的に活用できるか、そうした立場で議論を積み上げてきたわけです。

実際のところ、今回アドバイザリーボードが付した意見のなかでも、本学の提案の基本的な骨格に対しては「極めて挑戦的な改革構想」であると、一定の評価がなされています。その一方で、実効性についての確認が必要だ、とされています。それは私たちにとってもまた、改革を実現するにあたって受け止めるべき課題でもあるため、ここで整理してみたいと思います。

今回の提案で中核となる、国際統合研究基盤(Global Research Integration、略称GRI)の創出は、自律成長を可能とする大学モデルとして構想されたアイデアでした。それは知の集積を生む全学共通インフラの整備・充実・共有を通じて、開かれ統合された研究の基盤をつくろうという挑戦です。自然科学系ならば、導入費用も維持コストも莫大な実験設備の効率的で自由な共用などが、まずイメージされるかもしれません。人文そして社会科学系の多様な分野の研究においても、たとえば図書館のアーカイブ機能の高度化や、拡張する資料・データを統合するインフラ整備や、学術の国際化への対応など、最新のテクノロジーを活用して取り組むべき領域は多面に拡がっています。もちろん、図書館等の高度な活用の可能性を具体的に描き、新たな技術の実装をどう実現するのかは、さまざまな分野の知恵を集めるべき課題です。

さらにハード面での充実だけでなく、その運用・活用を高度化する新たな専門職としてのリサーチ・エンジニアの導入も研究の革新にとって不可欠である、ということも、みなさんと議論するなかで浮かび上がってきています。

アドバイザリーボードは、「全学の共通理解を基盤に、これらを実際に運営できるか、計画の実現性を確認することが必要である」と指摘していますが、ここでも、原点をもういちど確認しながら対応することが大切でしょう。GRIの構想は、単なるハード面での財務上の課題の解決を図るための制度の導入ではありません。昨年の部局長との懇談会や研究科長からの提案でも、その重要性が触れられていたように、変化の激しい時代に大学の国際競争力を高めるためには「旧態依然の構造を打破する」必要があるという問題意識に根ざしたものだからです。

もちろん、新しい制度の導入や組織の整備それ自体が、目的なのではありません。知・技術・人のオープンな環境をつくることで多様な学問が交差する場を作り、どれだけ新しい学知を生み出すことができるかが問われているのです。

GRIの導入と整備において大切になる基本は、本学の構成員を単一の観点からまとめ上げることではなく、むしろ一人一人が新たな知や人との出会いを楽しんで積極的に取り組めるような仕組みとして発展させていくことです。旧来の講座制の常識や、部局・専攻の事務組織を含めたタテ割りによる障壁などは、進化の著しいAIを使えば簡単に乗り越えられる、という見方もあるかもしれませんが、これまで通りのやり方を続けていればよくなるというものではないと思います。

また、しばしば指摘されるAIの誤作動や偏った判断と、本当に望ましい改革の新しさを混同することは避けねばなりません。それを乗りこえて使いこなすためには、使い手である人間自身が、主体性と創造性を持つ必要がある、このことを忘れてはならないでしょう。だからこそAIの進歩や便利とは別な次元において、人間が学問的交流に邁進し、これまでにない形の知を生み出していくことができるかどうか、それが問われることになるはずです。

そのような知の生産を後押しするしくみこそが、GRIの核心部分です。

学術経営本部の設置と全学の新陳代謝を促す資源配分や、プロボスト(最高教学責任者)とCFO(最高財務責任者)を軸とした新体制の構築についても、やはり重要なのは、この改革をなんのために行うのか、そしてどのような問題が解決され、新しさがもたらされるのかについて、思いを共有して進めていくことだと思います。

とりわけ、最初に申しあげたように、東京大学はたいへん多様な専門領域や学理を包摂する総合大学です。それゆえ、ひとつの簡単なルールで経営できるものではないことは明白であり、分野の特性や伝統において評価すべき点についてはきちんと取り込んで、練り上げられたルールブックを共有していく必要があります。

大学という存在は社会から本当には理解されていない、そのことを前提に丁寧かつ迅速に対話していく重要性を、もういちど認識しておきたいと思います。不正確な、あるいは思い込まれた想像のなかで、大学が評価されてしまっている側面もあります。たとえば、大学人が学問の世界に閉じ籠り、現実社会の困難な問題解決に取り組もうとしないなどという古いイメージは、いまも払拭されていません。それが誤解ならばそれを取り除き、歪曲に対しては正しきを提示することで、世の中からの見え方を自覚的に変えていくことが大切だと思います。

昨年10月、国際的で学際的な研究を支援するHuman Frontier Science Program主宰の「SCIENCE SUMMIT JAPAN 2025」のハイレベルイベントが東京大学で開催され、10名のノーベル賞受賞者をはじめとする世界的な研究者が、安田講堂に集まりました。そこで印象的だったのは、科学の意義や必要性を広く一般の人びとに対して、自分たちはわかりやすい言葉で説明できていないのではないかという危惧を、多くの科学者が口にしていたことです。

大学が生みだす学術の「大切さ」と「面白さ」を、社会に十分に伝えることができていない。それが巡りめぐって、たとえばアメリカでの大学をめぐる最近の混乱状況や、アカデミアのコミュニティが地球規模の課題解決に必ずしも貢献しえていない現状につながっているのではないかと思っています。

もう一点、アドバイザリーボードのコメントにあった「コンプライアンス上の問題に対する法人組織としての対応」も、重要な論点です。

国際卓越研究大学制度においては、「自律と責任のあるガバナンス体制」が認定・認可の3つの要件の一つに挙げられています。今回の意見において、ガバナンス体制の確立が求められ、「法人としてのガバナンスに関わる新たな不祥事が生じたと判断された場合、審査を打ち切る」とまでの警告がなされていることを、私たちは重く受けとめなければならないでしょう。

これは昨年、本学において教員の不祥事が相次いだことと関係しています。教員の不適切行為の疑い等が報道されていながら、大学執行部が迅速な対応を取ることができなかったことにつき、総長としての責任を重く受けとめています。結果として、社会に大きな疑念を抱かせ、本学への信頼を揺るがしたことは、慙愧に堪えません。この場をお借りして、改めて心よりお詫び申し上げます。

そのうえで現在、全学として一切の油断が許されない状況でもあります。部局と執行部とが同じ危機感を共有し、社会からの理解が得られるよう一体として動いていくことが重要だと考えています。

大学の活動が多様化し、社会と様々な接点を持つことによって、従来では想像しなかった新たなリスクが生じることを忘れてはならないと思います。コンプライアンス違反の兆候を、組織として早期に捉え、事実を確かめ、適切か公正かを検証し、経緯を説明し、再発を防ぐという一連の対応が、十分に機能しているのかを厳しく問い直す局面になっています。こうした観点から、民間企業や国際機関等で一般に取り入れられている「三線防御」という三つのラインでのチェックと対応を構造化した、リスクガバナンス体制の構築に取り組んでいます。三つのラインとは、部局の教育・研究や事務の現場のレベル、本部組織の部や委員会のレベル、そして総長・理事その他の役員レベルがそれぞれ独立性をもちつつも、情報の流れをスムーズにして、リスクに対して迅速かつ柔軟に対応できる仕組みを意味します。

われわれが目指すガバナンス強化とは、統制を強めて創造性を削ぐことではありません。これは社会からの信頼に耐えうる説明責任を果たし、学術の挑戦を持続可能なものにするための基盤となるものです。このことはとりもなおさず、変化の激しい時代だからこそ「旧態依然の構造を打破する」必要があるという問題意識にも通じるものだと言えます。教職員一人ひとりが当事者としてこの課題を共有し、部局の自主性と専門性を尊重しながら、大学としての堅実さを高めていくことが大切だと考えます。

大海原でさまざまな困難に見舞われたとしても、沈むことなく世界の津々浦々を回り続ける、高性能で安全な船を作るような改革を、今年は理念にとどめることなく、具体的な行動として、加速させていきたいと思います。

みなさん、ここが正念場だととらえ、力をあわせてやっていきましょう。本年もよろしくお願いします。

東京大学総長 藤井輝夫
東京大学総長 藤井輝夫

令和8年(2026年)1月6日
東京大学総長
藤井輝夫

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