日中両国は、1972年に国交を正常化させた。両国の関係は、浮き沈みをともなったものの、2000年代までは比較的に安定していた。この頃、誰もが「日中間には対立の火種が燻ぶっているが、日中関係は今よりも好転していくだろう」と信じていた。しかし、現在に至る日中関係は、かつて想像できなかったほどに悪化している。
私たちは第二次世界大戦終結後という意味の「戦後」をいつまでも使い続けている場合ではないが、この日本的な意味での「戦後」において、日中関係はどん底にまで冷え切ってしまった。現状の日中関係は、中国に対して何かしらの愛着のある日本の中国研究者にとっては、悲しい限りである。少なくとも中国研究者は、「今以上に悪化することはない」と自分に言い聞かせて、学術交流の細い糸を踏ん張って繋ぎ、学術レベルのネットワークを次世代研究者に継承していかなければならない。
日中間の人的なネットワーク、いわゆる「人脈外交」を振り返ってみると、これは様々な領域において20世紀全体を通じて形成されてきたことが分かる。この「人脈外交」はどのように形成され、どのような効果を生み、どのような限界をもっていたのだろうか。私たちは、この歴史から、何かしらのヒントを得られるのではないか。
私たちは、少なくとも、次の二点については理解を深めておくべきだろう。
一点目は、日中の「人脈外交」は非対称性をともなっている、ということである。日本側は、政治家・外交官・軍人・文化人らが必ずしも一体化していなかったのに対して、中国側は往々にして一体化している、ということである。二点目は、このような非対称性が実際の日中関係に与えた影響は日中両国で異なっていたとはいえ、双方の相手に対する認識は意外と豊富にあり、それらのいずれかの認識が次の時代の新たな関係性を切り拓いていった、ということである。
今後、日中両国の日本研究者と中国研究者は、日中間の「人脈外交」が他国の二国間関係と比較した場合にどのような一般性と特殊性を帯びていたのかを解明していかなければならない。そして、日中両国にとって不可欠な日中関係史研究が世界の様々な関係性を考える上でも無視できないポイントであることを世界に向けて発信していかなければならない。本書がその学術的基盤の一部を提供できれば幸いである。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 中村 元哉 / 2026)
本の目次
第1章 日中非対称の時代
第1節 中国の統一のゆくえと日本の大陸政策――「支那通」外交官の形成
第2節 日本に圧迫される中国
第2章 協調と対立の時代
第1節 外交官が主導した日本の対中政策の転換
第2節 厳しい日中関係と日本観の深化
第3章 戦争の時代
第1節 和平を求めて
第2節 敵対的日本観と内在的日本理解
第4章 関係再建の時代
第1節 「二つの中国」の狭間で
第2節 日本観の政治化と脱政治化の兆し
第5章 経済協力の時代
第1節 信頼に潜む対立の火種
第2節 困難を乗り越えるための信頼関係の模索
おわりに
関連情報
https://dragon-china99.org/index.html
著者インタビュー:
日中は「敵か友か」 スローガンから考えるアジア版五輪の価値 (『毎日新聞』 2026年9月30日)
https://mainichi.jp/articles/20260901/k00/00m/050/072000c
著者に聞く[18]――劉傑さん・中村元哉さん (『中国学.com』 2026年8月7日)
https://sinology-initiative.com/serialization/45565/
書評:
近藤伸二 評「戦前から続いた日中の「人脈外交」 困難を乗り越えた知恵や努力」 (『週刊エコノミスト』 2026年6月23・30日合併号)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20260630/se1/00m/020/011000c
村上太輝夫 評「協調か対立か 100年前にもあった日中関係の分かれ道」 (『朝日新聞』 2026年5月8日)
https://www.asahi.com/articles/ASV5710Z1V57USPT003M.html

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