都市や建築物を扱う「建築学」は、大学では専門分野として工学部の中に位置づけられることが多いが、一般の人にとっても非常に身近な存在である。旅行に行けば、地域の古い建物を訪れ空間を楽しんだり、その建物の由来から歴史を学んだりすることも多いだろう。そういう意味では、工学あるいは理系という分野を超えて多くの専門分野とも関連する分野と捉えることができる。
また、日本の木造建築は、世界に誇るべき遺産でもある。現存する世界最古の木造建築群として知られる法隆寺をはじめ社寺建築、農家型民家、町家型民家などさまざまな木造建築が建設されてきた。その中で大工らにより木造建築の技術が研ぎ澄まされるとともに技術に裏付けされた魅力的な空間が生み出されてきた。明治期に入ると近代化の波の中で、海外からの建築技術と融合しながら木造技術はさらに改良が加えられ、昭和期には日本独自の木造による近代建築を生み出すことになった。日本の木造建築は、まさに、千年の時を超えて受け継がれてきた知恵である。
本書では、木造建築を3人の異なる分野の専門家の視点から32の木造建築を解説している。
まず、近代建築史家の藤森照信氏が深い洞察力をもって、建設当時の社会的背景とともに建築にかかわった人々の思い、完成した空間など文化的な視点を含めて、すべての読者に日本の木造建築への関心の扉を開く。
次に、建築写真家の藤塚光政氏が足かけ5年の歳月をかけ粘りに粘って撮り下ろした美しく迫力に満ちた写真と被写体と向き合った時の高揚感が伝わる臨場感たっぷりの「撮影記」が語る。
最後に、木構造の専門家である私が解説する「構造学コラム」は、構造工学の視点から経験学に基づいて変化してきた伝統木造建築の価値を再評価することを試みている。伝統木造建築の発展は、大工の試行錯誤、経験学によって発展してきた。経験の蓄積と継承によって、機能性や安全性、利便性などを高めてきた経験学の技術も、工学の手法のひとつとして取り込んでいく必要がある。しかし、過去から使われてきた技術のすべてが必ずしも正しいというわけではないことを知ることも重要である。工学的視点から経験学の技術を再評価していくことが重要である。一方、経験学から生まれた技術の中には、工学的知識の方が未熟で現代の技術ではまだ評価できないものもある。これが、新たな研究テーマとなるはずであり、過去の技術を妄信することなく自分の価値観で再評価して自分の知識に取り込んでいくことが重要である。「構造学者の眼から見た木造遺産」は、そのようなことを期待している。
(紹介文執筆者: 生産技術研究所 教授 腰原 幹雄 / 2025)
本の目次
01 妙喜庵 茶室「待庵」 京都府乙訓郡大山崎町
02 嚴島神社末社「豊国神社」千畳閣 広島県廿日市市
03 成田山新勝寺 三重塔 千葉県成田市
04 吉備津神社 岡山県岡山市
05 臨江閣 本館 群馬県前橋市
06 東大寺 南大門 奈良県奈良市
07 東大寺 鐘楼 奈良県奈良市
08 江川家住宅 静岡県伊豆の国市
09 瑞鹿山円覚寺 舎利殿 神奈川県鎌倉市
10 新宮熊野神社 長床 福島県喜多方市
11 善光寺 本堂 長野県長野市
12 三渓園 聴秋閣 神奈川県横浜市
13 与倉屋大土蔵 千葉県香取市
14 瑞巌円福禅寺 本堂 宮城県宮城郡松島町
15 瑞巌円福禅寺 庫裡及び廊下 宮城県宮城郡松島町
16 春日大社 御本殿 奈良県奈良市
17 東山慈照寺 東求堂 京都府京都市
18 北方文化博物館 三楽亭 新潟県新潟市
19 閑谷学校 講堂 岡山県備前市
20 安楽寺 八角三重塔 長野県上田市
21 諏訪大社 上社 本宮 長野県諏訪市
22 小野家住宅 埼玉県所沢市
23 虎渓山永保寺 無際橋と観音堂 岐阜県多治見市
24 虎渓山永保寺 開山堂と坐禅石 岐阜県多治見市
25 栗林公園 掬月亭 香川県高松市
26 龍岩寺 岩屋堂 大分県宇佐市
27 箱木千年家 兵庫県神戸市
28 大沢家住宅 埼玉県川越市
29 高山寺 石水院 京都府京都市
30 総本山 三井寺 光浄院客殿 滋賀県大津市
31 法隆寺 西院伽藍と廻廊 奈良県生駒郡斑鳩町
32 聴竹居 本屋と茶室 京都府乙訓郡大山崎町
Column 構造学者の眼から見た木造遺産32 腰原幹雄
撮影記 藤塚光政
あとがき 藤塚光政
関連情報
藤森照信、藤塚光政『日本木造遺産 千年の建築を旅する』 (世界文化社 2014年)
https://books.sekaibunka.com/book/b10101873.html
『Japan's Wooden Heritage: A Journey Through a Thousand Years of Architecture (JAPAN LIBRARY)』 (出版文化産業振興財団 2017年)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4916055829/
著者インタビュー:
くまの輪コラム: 都市木造の実現に向けて(前編) - 隈館長友人の皆さまによる寄稿コラム (『MOCTION』 2022年6月16日)
https://moction.jp/moction_magazine/koshihara01/
くまの輪コラム: 都市木造の実現に向けて(後編) - 隈館長友人の皆さまによる寄稿コラム (『MOCTION』 2022年6月16日)
https://moction.jp/moction_magazine/koshihara02/
トリ・アングル INTERVIEW
vol.34持続可能な社会へ!建物の木造化がもたらすもの
前編: 注目が集まる木造建築の高層化 (国土交通省『Grasp』 2022年3月8日)
https://www.magazine.mlit.go.jp/interview/vol34-c-1/
トリ・アングル INTERVIEW
vol.34持続可能な社会へ!建物の木造化がもたらすもの
後編: 伝統と現代が融合する日本型都市木造 (国土交通省『Grasp』 2022年3月11日)
https://www.magazine.mlit.go.jp/interview/vol34-c-2/
写真家・藤塚光政インタビュー。巨匠を唸らせた日本の木造建築5選。 (『Casa BRUTUS』 2024年7月18日)
https://casabrutus.com/categories/architecture/412637
書籍紹介:
木造遺産、京都「聴竹居」を訪ねる【前編】日本の気候風土に寄り添う昭和モダニズム住宅の心地よさ (家庭画報.com 2024年6月24日)
https://www.kateigaho.com/home/sumai/176935
木造遺産、京都「聴竹居」を訪ねる【後編】伝統的木造建築の中に息づくモダニズム (家庭画報.com 2024年6月25日)
https://www.kateigaho.com/home/sumai/176941
建築探偵・藤森照信と写真家・藤塚光政。巨匠たちが再びタッグを組み、日本全国の木造遺産を旅する『日本木造遺産 千年の時を超える知恵』6月8日発売 (『PR TIMES』 2024年6月5日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001779.000009728.html
関連イベント:
NEW! 五重塔の歴史を学ぶ第2回「伝統と革新・歴史と未来」 (谷中五重塔再建を目指す会 2026年7月8日)
https://www.enjoytokyo.jp/article/204961/
藤塚光政写真展「日本木造遺産――千年の建築を旅する」 (jdzb - ベルリン日独センター 2022年3月21日 – 4月29日)
https://jdzb.de/ja/events/71064

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