
書籍名
人間の安全保障 東大駒場15講
判型など
292ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2024年10月2日
ISBN コード
978-4-13-003354-1
出版社
東京大学出版会
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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国際関係の文脈で「安全保障 (security)」というと、「国家」の安全の保障を意味することが多い。これに対して本書が扱うのは、国家ではなく個々人の安全保障、すなわち「人間の安全保障 (human security)」である。他国からの軍事的脅威というよりは、暴力・貧困・感染症・差別といった人々の生存・生活・尊厳を日常的に脅かす広範な問題に焦点を当てる点に特徴がある。東京大学の駒場キャンパスにはこの言葉を冠した大学院プログラム、「『人間の安全保障』プログラム (通称HSP)」が置かれていて、かれこれ20年以上にわたって研究・教育活動を行ってきた。本書はその直近の成果である。執筆者はいずれもHSPの関係者 (新旧の教員や卒業生) であり、その専門は人文学 (思想・文学・歴史等) から社会科学 (国際政治・国際法・開発経済) まで幅広い分野にまたがっている。
人間の安全保障の概念が国際社会に最初に提起されたのは、世界を東西に二分した米ソ冷戦が終わった直後の1990年代半ばのことである。民主主義や市場経済を志向する改革が各地で推進され、国連を中心に多国間主義に基づく国際協調が謳われた時期であった。それから30年を経て、国際社会の様相は大きく様変わりした。大国間の競合が再び顕在化し、民主主義を標榜する国でも排外的なポピュリズムが頭をもたげ、さまざまな場所で他者への寛容が失われつつあるように思える。そして、ガザ、ウクライナ、ミャンマー、スーダン、ハイチ、世界のどこを見渡しても、目を背けたくなるような「人間の不安全」の現実から逃れることができない。30年を経て我々の生きる世界は、人間の安全保障を十分に実現できていないどころか、逆風のなかその実現はますます遠のいていくかのようである。
本書では、人間の安全保障を取り巻くこうした厳しい現実を直視した上で、これを乗り越えていくための糧となりうる様々な論考が、15の「講義」として収められている。人間の安全保障に関する現代世界の法規範や政策実践に焦点を当てた第一部「今日の世界と日本の実践」、この概念を思想・歴史・文学を含むさまざまな知の潮流と交錯させて相対化することを試みた第二部「多彩な知との対話」、そして人間の安全保障の実践の現場で向き合う「人間」に対する理解と共感を涵養することを目指した第三部「豊かな人間像への接合」の三部構成でこれらの講義を配列したが、目次を見れば、こうした整理では整理しきれない多種多様な論考が並んでいることは一目瞭然であろう。要するに、どこから読み始めてもらっても構わない。巻末には、人間の安全保障に関する主要な政策文書や学術文献を網羅した「研究案内」もついているので、初学者の手引きとしても活用できるであろう。
現下の厳しい情勢の中で、より人間的な世界を構想し追求していくための「知のカタログ」として、本書をぜひ手に取ってもらいたい。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 阪本 拓人 / 2025)
本の目次
I 今日の世界と日本の実践
第1講 脆弱な人々を保護する枠組み――国際法と政治的概念(キハラハント愛:東京大学教授)
第2講 アフリカの平和活動と人間の安全保障(遠藤 貢:東京大学教授)
第3講 「農業開発」を再考する(中西 徹:東京大学名誉教授)
第4講 インドネシア警察改革への「お手伝い」――日本の警察分野の国際協力(谷垣真理子:東京大学教授)
第5講 人の国際的移動と教育――移民の子どもをめぐる教育問題と「日本人であること」の特権性(髙橋史子:東京大学准教授)
II 多彩な知との対話
第6講 平和論と人間の安全保障(小川浩之:東京大学教授)
第7講 海賊とは誰か――「人類の敵」というレトリック(星野 太:東京大学准教授)
第8講 歴史の中の人間の安全保障――バルカンの事例から(黛 秋津:東京大学教授)
第9講 中・東欧諸国における多様な歴史記憶――現在から過去に向けられるまなざし(重松 尚:明治学院大学研究員)
第10講 語り手のいない物語――東日本大震災における「心霊体験」と人間を連帯させるもの(吉国浩哉:東京大学教授)
III 豊かな人間像への接合
第11講 自然災害と被災者の尊厳(内尾太一:静岡文化芸術大学准教授)
第12講 牧畜民から見る人間の安全保障――自然と社会の変化のなかで(阪本拓人)
第13講 異なる社会をつなぐ――先住民と人間の安全保障(受田宏之:東京大学教授)
第14講 生き抜くためのつながりを可視化する(関谷雄一:東京大学教授)
第15講 記憶、記録、文学――『苦海浄土――わが水俣病』から(星埜守之:東京大学名誉教授)
結論 危機の時代における人間の安全保障(キハラハント愛)
付録 「人間の安全保障」研究案内(阪本拓人/和田吾雄彦アンジェロ:東京大学大学院博士課程)
関連情報
<本の棚> 永田淳嗣 評 (『教養学部報』660号 2025年1月7日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/660/open/660-2-02.html
講義:
「人間の安全保障」連続講義(「人間の安全保障」プログラム20周年記念) (東京大学 大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム(HSP) 2025年9月19日~12月12日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/events/z0109_00170.html

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