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江戸時代の園芸風景の絵

書籍名

江戸の園芸

判型など

250ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2025年1月30日

ISBN コード

9784642043717

出版社

吉川弘文館

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江戸の園芸

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編者の江戸遺跡研究会は、1986年に江戸遺跡に関する研究・情報交換を行う目的で設立した、考古学研究者を中心に歴史学、建築学、民俗学、自然科学などの研究者が会員になっている研究会である。本書は、2023年度に同会が行った第35回大会「江戸の園芸」を基に成果発信したものである。
 
本書は、近世都市江戸の園芸について、近世都市江戸の考古学的成果をも踏まえて多角的に再検証した点で新たな地平として評価できる。
 
江戸時代後期に江戸で植物の栽培・観賞・行楽などの一大産業として流行する園芸研究は、多面的な方向性を有していた。平野報告、田中報告では、園芸と本草との関わりや植物図研究の可能性などが示される。
 
社会・文化的関わりで二つに分けて考えると、ひとつは地植えを基本とする装置としての存在であろう。これまでも主たる園芸研究として取り上げられてきたテーマであり、近世以前から続く庭園からの系譜ととらえることができ、近世中期以降、飛鳥山、御殿山、百花園、花屋敷と言った経済的効果を生じる近世の都市型リゾート地として行楽文化が展開する。
 
もうひとつは、鉢植えに代表される賞翫アイテムとしての存在である。文献史料や南宋官窯の植木鉢の存在などを踏まえると、中世以前の上級階層に端を発する文化的行為である。近世期における成立や普及の過程、受容の様態など未解明な部分が多かったが、年代、地域、階層等の分布状況の分析から考古学的に可視化が可能である。江戸遺跡では、18世紀後半以降、底部穿孔した定型的な植木鉢が各地で出土するようになり、こうした行為が階層を超えて普及した状況がうかがえる。一方、菊、万年青、朝顔、菖蒲といったいわゆる奇品として趣味性の強いグループによる関わりも園芸を評価する上で重要であろう。中野報告や堀内報告からは、その範囲が植物を超えて極めて装飾的な植木鉢や稀少な道具類などの所有から看取される状況は、教養、趣味などを共有する精神的志向性の中で普及が促されたと考えられる。
 
また、上記の園芸文化に関わる経済的視点 (市川報告) は重要で、文化的資源から生じる経済への影響など近代へ連続する要因が内包されている。一方、考古学的成果を中心に生産者である植木屋の状況 (田中報告、中野報告)、生産や普及に関わった武家階層の状況 (山本報告、追川報告、船場報告)、消費様態の状況 (堀内報告) などその具体例が多く示され、近世都市江戸の社会・文化の動態へのアプローチが行われている点が、本書の学術的な特徴である。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 堀内 秀樹 / 2025)

本の目次

はじめに 小川 望
園芸文化研究の可能性 平野 恵
江戸後期に制作された植物図―園芸的観点からの一試論― 田中純子
尾張藩江戸屋敷と園芸 山本英二
商品植木鉢の成立と江戸園芸市場 市川寛明
「江戸の花―さくらそう―」展示図録 抄 鳥居恒夫
江戸遺跡における「植栽痕」認識の変遷と現在 宮川和也
大名屋敷跡遺跡の植物栽培遺構 追川吉生
植木商森田六三郎の諸相―文京区団子坂上遺跡の調査成果から― 中野高久
近世薩摩焼の植木鉢 渡辺芳郎
出土植木鉢からみた陸奥八戸藩の園芸 船場昌子
大村藩下屋敷出土の植木鉢―大名藩邸の植木鉢受容の一例― 堀内秀樹
あとがき 梶原 勝
 

関連情報

イベント:
第35回 江戸遺跡研究会大会『江戸の園芸』 (江戸遺跡研究会大会 2023年1月28日)
https://edo.jpn.org/taikai/taikai35.htm

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