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薄い桃色の表紙

書籍名

角川ソフィア文庫 源氏愛憎 源氏物語論アンソロジー

判型など

208ページ、文庫判

言語

日本語

発行年月日

2024年11月24日

ISBN コード

9784044007645

出版社

KADOKAWA

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学内図書館貸出状況(OPAC)

源氏愛憎

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本書の眼目は『源氏愛憎』という書名に尽きる。昨年はNHKの大河ドラマ「光る君へ」が放送されたこともあって、紫式部や『源氏物語』の話題が多かった。『源氏物語』は多くの人によって読まれ、写され、出版され、研究されてきた。「光る君へ」のような新たな作品もそうした『源氏物語』受容の延長線上にある。書物や関連の作品・言説をバトンとして千年の間この物語が読み継がれてきた営為は、「千年のリレー」と言えるだろう。
 
『源氏物語』の魅力はさまざまに語り得るだろうが、多くの場合、それは『源氏物語』の愛読者としての見方であろう。『源氏物語』の授業や講演で物語の具体的な場面を取り上げて解説する際も、聞き手も『源氏物語』に関心を持っていることをつい想定してしまいがちではないか。また、高等学校の古文の教科書には『源氏物語』が載っていて、特に冒頭の桐壺巻や若紫巻の垣間見の場面は定番教材である。『源氏物語』は「読むべき作品」としての顔も持っている。
 
ただし、それが令和の『源氏物語』観の全てではないように、この物語が読み継がれた千年の時を振り返ると、必ずしも肯定的評価ばかりではなかった。『源氏物語』は早くから愛読される一方で、特に激しい非難にさらされる作品でもあった。本書はその愛憎の両面を紹介すべく編まれた、「源氏物語論アンソロジー」(副題) である。
 
本書の構成は二部に分れる。Iは古典篇とし、『源氏物語』の同時代から江戸時代までの文章を収めた。IIは近現代篇とし、明治時代以降の文章を収めた。対象は批評や論説に限らず、『源氏物語』に言及したものを広く収録した。作品や箇所を選ぶにあたっては、『源氏物語』への言及として著名なものをまずは候補としたが、『源氏物語』をまだ読んだことのない読者にとっても、それぞれの著者が『源氏物語』の何に着目しどのように考えているかを読み取りやすい作品や箇所を心がけた。作品の主要な一部をごく短く取り上げ、簡単なリード文を付した。今日『源氏物語』が好きな人も嫌いな人も、その理由はさまざまだろうが、本書所収の文章は時に思いも寄らぬ角度から物語の魅力や欠点を論じていて、自身の賛否にかかわらず『源氏物語』の新たな一面をその都度知る思いがする。それぞれの言説を切り口として『源氏物語』に接することで、本書が『源氏物語』を読む手引きとなれば嬉しい。愛憎のいずれもが「千年のリレー」を成していると思うし、「古典」とはそういうものではなかろうか。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 田村 隆 / 2025)

本の目次

はじめに
 
1 古典篇

紫式部日記 (紫式部)
更級日記 (菅原孝標女)
無名草子 (藤原俊成女)
宝物集 (平康頼 編)
六百番歌合 (藤原良経 主催)
源氏物語表白 (安居院聖覚)
今物語 (藤原信実)
河海抄 (四辻善成)
本阿弥行状記 (本阿弥光甫)
鳩巣小説 (室鳩巣)
本朝烈女伝 (黒沢弘忠)
紫家七論 (安藤為章)
源氏物語玉の小櫛 (本居宣長)
 
2 近現代篇

後世への最大遺物 (内村鑑三)
新訳源氏物語の後に (与謝野晶子)
長編小説の研究 (田山花袋)
文芸的な、余りに文芸的な (芥川龍之介)
『源氏物語』について (和辻哲郎)
小学国語読本「源氏物語」 (文部省)
小学国語読本巻十一「源氏物語」について文部省の自省を懇請する (橘純一)
伝統・小説・愛情 (折口信夫)
にくまれ口 (谷崎潤一郎)
源氏物語と私 (湯川秀樹)
源氏物語の構造 (円地文子)
本居宣長 (小林秀雄)
古典龍頭蛇尾 (太宰治)
物語の中の歌の有効性 (馬場あき子)
 
あとがき
出典一覧
 

関連情報

書籍紹介:
國學院大學博物館 春の特別列品「恋とさすらいの系譜―源氏物語と平安文学」―國學院大學図書館の名品―をもっと楽しめる!おすすめ本5選 (cumagus | note 2024年5月1日)
https://note.com/cumagus/n/nd39fa15d1635
 
渡辺祐真 評「大河ドラマ「光る君へ」で注目!紫式部・源氏物語・平安時代を知りたい人のための厳選ブックガイド」 (『現代ビジネス』 2024年4月6日)
https://gendai.media/articles/-/126747?page=3
 
関連記事:
【総合図書館展示】げんじのてんじ -みんな源氏物語展- (東京大学総合図書館 2024年3月27日~8月12日)
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/general/event/20240326
 
東京大学総合図書館所蔵『源氏物語』について(東京大学大学院総合文化研究科准教授 田村隆) (東京大学総合図書館 2019年6月3日)
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/general/genji-handbook
 
関連講義:
第138回 (2024年春季) 東京大学公開講座『制約と創造』
「『源氏物語』の叙法と時代背景」  田村隆 総合文化研究科 准教授 (東京大学 2024年6月22日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/publiclectures/138.html
 
関連プロジェクト:
デジタル源氏物語 - Ver.YUMENOUKIHASHI (裏源氏勉強会)
https://genji.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/
 
デジタルアーカイブジャパン・アワード2025受賞
https://jpsearch.go.jp/daj-award-2025
 
第6回デジタルアーカイブ学会学会賞 [実践賞]
https://awards.digitalarchivejapan.org/awards/6thawards/6thawards/
 
第59回 第71回総会 令和6 (2024) 年度 国立大学図書館協会賞受賞
https://www.janul.jp/ja/award
 

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