東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ムクウェゲ医師の写真

書籍名

岩波ジュニア新書 986 ムクウェゲ医師、平和への闘い 「女性にとって世界最悪の場所」と私たち

著者名

立山 芽以子、 華井 和代、 八木 亜紀子

判型など

174ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2024年6月20日

ISBN コード

9784005009862

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

ムクウェゲ医師、平和への闘い

英語版ページ指定

英語ページを見る

「私たちが使っているパソコンやスマートフォン、ゲーム機の原料鉱物が、遠くアフリカでの人権侵害につながっている」と言われたら、あなたはどう思うだろうか…。
 
豊かな自然資源に恵まれたコンゴ民主共和国 (以下、コンゴ) の東部では、1990年代から紛争が継続している。同地域で産出される鉱物は紛争の資金源となり、住民の暮らしが武装勢力や軍の暴力によって破壊されている。さらに、「紛争の武器」として使われる性暴力によって多くの女性たちが心身ともに深く傷つけられ、コンゴ東部は「女性にとって世界最悪の場所」と表現されることもある。
 
デニ・ムクウェゲ医師は、そのようなコンゴ東部において、性暴力に傷ついた女性たちを救い、平和の実現を世界に訴えるコンゴ人婦人科医である。医師は1999年にパンジ病院を設立し、これまでに8万人以上の性暴力被害者を治療した。同時に、コンゴの紛争がグローバル経済と深く結びついていることを知らしめるために国連本部をはじめとする世界各地で演説を行ってきた。ムクウェゲ医師の功績は高い評価を受けて数々の賞を受賞し、2018年にはノーベル平和賞を受賞した。
 
しかし残念ながら、ムクウェゲ医師のノーベル賞受賞によって紛争が解決に向かったわけではない。
 
コンゴ東部には今も120を超える武装勢力が存在し、主に、スズ、タングステン、タンタル、金という4鉱物の密輸によって資金を得続けている。アメリカとEUを中心として国際社会では2010年代から紛争鉱物取引規制が実施され、企業のサプライチェーンから紛争鉱物を排除するための認証プログラムがグローバルレベルで整備された。それでもなお、紛争鉱物のロンダリングが行われ、武装勢力に資金が流れ続けている。ルワンダをはじめとする周辺国が武装勢力を秘かに支援し、紛争を長期化させていると国連の専門家グループやNGOは指摘し続けている。
 
先進国企業のサプライチェーンに紛れ込んだ紛争鉱物が、電子機器を中心とする製品になって日本での私たちの便利な暮らしにも結び付いているのだとしたら、私たち日本に暮らす市民にも本問題を知り、解決への取り組みを支える責任があるのではないだろうか。

本書は、コンゴ東部での人権侵害に心を痛め、ムクウェゲ医師の活動に心を動かされた3人の日本人女性が共同で執筆した書籍である。東京大学の華井は、紛争鉱物問題を研究すると同時にNPOを立ち上げて日本での社会啓発活動に尽力し、ムクウェゲ医師を東京大学に招聘して特別講演会を開催した。テレビ会社の社員である立山はパンジ病院を訪問して性暴力被害女性のみならず元加害兵士にも取材をして映画『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』(2022年公開) を制作した。NGO (開発教育協会) の職員であった八木は、日本各地の学校や社会教育の場でコンゴの紛争問題に関する学びを広めてきた。
 
中学高校生を主対象とするジュニア新書ではあるものの、研究と実践の両方に取り組む執筆者3人が、紛争下の性暴力と紛争鉱物問題のつながりをわかりやすく解説し、ムクウェゲ医師の活動を描くとともに、暴力の連鎖を終わらせるために私たちにできることを一緒に考えるきっかけを提案した書である。アフリカの資源産出地域での人権問題と日本の私たちとのつながりについて学ぶ導入の書としてぜひ読んでいただきたい。
 

(紹介文執筆者: 未来ビジョン研究センター 特任講師 華井 和代 / 2025)

本の目次

はじめに
 
 コンゴ民主共和国の地図
 コンゴ民主共和国の基本情報
 
第1章 パンジ病院で出会った女性たち
 夢は洋裁店を開くこと:エステールさん(一六歳)
 ほしいものは平和:マリさん(二五歳)とマソカさん(五五歳)
 看護師になって先生を助けたい:アルフォンシーヌさん(二一歳)
 人生を歩みなおす手助けを:ムアヴィータさん(五二歳)
 終わらないレイプの連鎖:八歳の女の子
 「女性にとって世界最悪の場所」で起きていること
 
 コラム1 パンジ病院があるブカブ市の様子
 
第2章 「女性にとって世界最悪の場所」にある病院
 ムクウェゲさんが建てたパンジ病院
 パンジ病院での女性たちのケア
 ムクウェゲさんが医師になったわけ
 ムクウェゲさんのある一日
 命をねらわれるムクウェゲさん
 
 コラム2 女性たちの工場プロジェクト
 
第3章 最も豊かなのに最も貧しい国 コンゴ民主共和国
 最も自然豊かな国なのに……
 コンゴの歴史とヨーロッパとの交易、植民地化
 ベルギーに支配されるコンゴ
 植民地支配からの独立と資源に依存する経済の成立
 隣国のルワンダから持ち込まれた紛争
 コンゴに飛び火する紛争
 紛争鉱物問題の始まり
 紛争の武器としての性暴力
 
 コラム3 コンゴと広島
 
第4章 レイプを絶つ方法はあるの?
 「私は武装勢力の一員でした」元兵士たちの告白
 機能しない国家
 失われた倫理観――国が機能しないと何が起きるの?
 犯罪者を警察が捕まえない国
 女性たちの社会復帰支援
 女性たちが自信を取り戻すために
 
 コラム4 ノーベル平和賞の授賞式
 
第5章 コンゴ・日本・世界
 紛争鉱物とはどんなもの?
 鉱物の旅:鉱石が製品となって私たちの手元に届くまで
 タンタル・ブームは日本のゲーム機が引き起こした?!
 豊かな資源が豊かな生活に結びつかない現実
 紛争鉱物調達調査の始まり
 紛争にかかわらない鉱物を認証するしくみづくり
 規制の実態 本当は抜け穴だらけ……?
 問題解決への取り組みをどう支えるか
 
 コラム5 コバルトの需要増加――電気自動車も問題あり?!
 
第6章 私たちにできること
 「映画を観に来て!」と誘われて
 ムクウェゲさんの講演会へ
 教材『スマホから考える世界・わたし・SDGs』をつくる
 教材を通して「知る」人を増やす
 私たちにできることを一緒に考える
 言葉にしてみる・伝える
 自分から知ること・調べること・足を運ぶこと
 消費者として・生産者として
 この社会を構成する市民のひとりとして
 たくさんのできること
 
 コラム6 ムクウェゲさんの大統領選挙への挑戦
 
 コンゴ民主共和国の歴史年表
 ブックガイド
 おわりに
 

関連情報

映画:
ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師 (Amazon Prime Video 上映1時間13分)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8LMS4QK

関連記事:
研究者が学術の観点から薦める映画作品集
研究者が薦める映画.1 『ムクウェゲ』/紛争鉱物研究者・華井和代 (『淡青』vol.44、2022年3月)
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400184064.pdf
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00166.html
 
日本からコンゴの紛争解決に取り組む、高校教師出身の研究者。| UTOKYO VOICES 086 (東京大学ホームページ 2020年5月28日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/voices086.html
 
未来を拓く一歩を支援 助成プロジェクト 成果レポート
【vol.2】見えない“つながり”から、平和に貢献できることを自分事として考える! (Mitsubishi.com 2020年4月20日)
https://www.mitsubishi.com/ja/interview/interview02/
 
書籍紹介:
【書籍情報】『ムクウェゲ医師、平和への闘い』(岩波ジュニア新書)を出版しました (特定非営利活動法人RITA-Congo 2024年)
https://www.rita-congo.org/single-post/book_mukwege_struggle_for_peace
 
BOOKSニュース; 金井真紀の本でフムフム…世界旅 (『日刊ゲンダイDIGITAL』 2024年8月8日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/358812
 
イベント:
『ムクウェゲ医師、平和への闘い-「女性にとって世界最悪の場所」と私たち』 出版記念ブックトークイベント (東京大学未来ビジョン研究センターSDGs協創研究ユニット・NPO法人RITA-Congo 2024年8月2日)
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/event/18406/

このページを読んだ人は、こんなページも見ています