ポジショナリティとは、集団に起因する不平等や差別、それが個人同士の間で現れる諸相を捉える視点である。すなわち、集団に属することで個人に存在している政治的な位置性、また、集団に属することで個人に存在している利害などを分析する概念である。本書は、ポジショナリティの視点から、沖縄と日本との関係、性差やジェンダー、多文化社会化など、定量的調査を含む現代日本の具体的な事例から動態を読み解き、状況変革への共通了解と協働条件を提示する初の書籍である。
ポジショナリティという用語が日本社会で使用されるようになってから20年以上たつが、学術的概念としては発展途上にある。他方、近年ポジショナリティは注目されるようになり、ポジショナリティの視点から諸現象を捉えようとする動きもみられる。ジェンダー領域や沖縄と日本の関係をめぐる領域ではこれまでポジショナリティについて活発に議論されてきた領域である。本書で提示するように、ポジショナリティは、問題発見型概念という側面があるが、それは知られていなかった問題を発見するというよりは、すでに知られている問題を新たに定義づけ、再解釈する枠組みとしてより有効に作用するといえる。そのような作業をさまざまな領域の研究として行い、同時に多くの人々の経験から再構成することによって、社会を変革する条件を明らかにすることが可能と考えられる。また、異なるポジショナリティにある人々がその違いを越えて、状況の変革や権力の解消に向けて、共通の了解を形成し、協働する基盤を準備することが可能となる。日本と沖縄の関係、性差やジェンダー、多文化社会化など、現代日本社会をとりまく様々な問題を考える際に、ポジショナリティを使用することで異なる状況が見えてくることを意図している。
本書は、序章を除き5部構成となっている。第1部と第5部ではポジショナリティの総論的な議論を行い、第2部から第4部では、個別の領域に即した議論を行っている。これは日本では、ポジショナリティの議論が日本と沖縄の関係 (第2部)、ジェンダー領域 (第4部) を中心に展開されてきたことにも関係している。第3部は、今後ポジショナリティに関する諸問題が噴出されると予想される領域である。また第5章、第6章、第9章の3つの付論では、2019年の量的調査結果の一部を紹介している。
筆者は第4部ジェンダー領域の第8章「DVとポジショナリティ―支援者と被支援者の関係性に着目して」を執筆した。DV被害者支援に携わる被支援者 (被害者) と支援者という関係性に着目し、被支援者が離脱困難な位置に置かれるのに対し、支援者は離脱が可能な位置にあるという、離脱可能性における非対称性について論じた。ポジショナリティは双方が集団と結びついているときに立ち現れるが、支援者が離脱可能が容易な場合においてもポジションにかかわる問題は存在しうる。そのような関係性は社会においても多くみられる。ポジショナリティを通して、被支援者と支援者の関係性における権力作用を分析することは問題をより一般化する論点を提示する。
不平等を解消しようとしている人との間でもしばしば断絶や齟齬が起こる。ポジショナリティを理解し、考慮に入れることで、深刻な齟齬を引き起こさないようにすることも可能である。加えて、相互のポジショナリティの相違を共通認識として共有したうえで、それを変えるという意志も共有することが肝要である。本書を通して、ポジショナリティの問題を考える契機となれば幸いである。
(紹介文執筆者: 多様性包摂共創センター 特任准教授 小川 真理子 / 2025)
本の目次
第1部 ポジショナリティという“問題”
第1章 ポジショナリティの構造と現れ[池田 緑]
第2部 沖縄と日本をめぐるポジショナリティ
第2章 「日本人」と「沖縄人」――ポジショナリティ・アイデンティティ・政治的主体をめぐる一考察[高橋哲哉]
第3章 ポジショナリティ分析で何が分かるのか――「沖縄の基地問題」をめぐる「受益圏/受苦圏」概念を手がかりとして[桃原一彦]
第4章 「県外移設」の「留保なき拒否」で浮かび上がるもの――鹿野政直さんへ、カマドゥーからの手紙[知念ウシ]
第5章 当事者性の薄い問題に対するマジョリティとマイノリティの意識――在沖米軍基地問題とジェンダー問題を中心に[玉城福子]
付論 「沖縄の米軍基地問題」をめぐる沖縄社会と日本社会との齟齬――2019年定量調査の結果と分析から[桃原一彦]
第3部 日本社会の複数性とポジショナリティ
第6章 ポジショナリティを認識すること――多文化共生教育の観点から[山根俊彦]
付論 交流経験と外国人への差別意識[定松 文]
第4部 性差の諸問題をめぐるポジショナリティ
第7章 ジェンダー・イシューをめぐる相互行為をポジショナリティ論から読み解く[江原由美子]
第8章 DVとポジショナリティ――支援者と被支援者の関係性に着目して[小川真理子]
第9章 育児をめぐる世代間の対立はなぜ起こるのか――ポジショナリティの視点からの考察[仁科 薫]
付論 ジェンダー・バイアスの源泉を探る[定松 文]
第5部 ポジショナリティの可能性
第10章 権力関係を露現させる用語とポジショナリティ――「人材」の使用をめぐって[定松 文]
第11章 ポジショナリティ研究の視点と方法――経験的概念という枠組みから[池田 緑]
あとがき
関連情報
ポジショナリティの相違を超えた共通の了解や協働はいかに可能なのか? (『じんぶん堂』 2024年6月12日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/15294664
新刊 (『毎日新聞』 2024年6月5日)
https://mainichi.jp/articles/20240605/ddm/010/070/026000c
シンポジウム:
シンポジウム「ポジショナリティと日本社会~日沖関係・ジェンダーを中心に~」 (ポジショナリティ研究会シンポジウム実行委員会 2022年3月6日)
https://wan.or.jp/calendar/detail/6590

書籍検索


