―排除の論理を超えて、共生の学校へ
現在、日本の学校教育は、かつてないほどの深刻な岐路に立たされています。不登校の児童生徒数は過去最多を更新し続け、子どもの自殺も高止まりしています。かつて日本社会の発展を支える「画一的な人材育成システム」として機能してきた学校は、いまや多くの子どもたちにとって、安心できる「居場所」ではなくなりつつあるのです。なぜ、これほどまでに学校は息苦しい場所になってしまったのでしょうか。本書『戦後教育史』は、1945年の敗戦から現在に至る約80年の歴史を、「排除された側」の視点から紐解くことで、現代の教育が抱える病理の根源を明らかにしようとしました。
特に力を注いだのは、戦後教育を貫く「排除のメカニズム」を可視化することです。その第一の視点は、権利の主体としての「子ども」の不在です。日本国憲法第26条で「教育を受ける権利」が保障されたとはいえ、それは長らく、大人が決めた教育内容を子どもが受動的に受け取る権利に過ぎませんでした。1994年に日本が「子どもの権利条約」を批准した際、子どもは保護の対象であるだけでなく、自らの意見を表明し、決定に参加する「権利の主体」として認められるはずでした。しかし、それから30年近くが経過した今もなお、学校現場では校則や行事、日々の学習において子どもの「声」は封印され続けています。「あなたたちを守るため」という「保護」の名の下で、子どもの自律性や参画権が奪われ続けている現状――この歪な構造こそが、子どもたちから学ぶ喜びと主体性を奪っている要因だと考えています。
第二の視点は、「障害児教育」という名の分離教育の歴史です。誰を「障害児」と見なし、誰を通常の教室から排除するのか。その線引きは、医学的な基準というよりも、その時代の産業界が求める労働力像によって書き換えられてきました。戦前の富国強兵下では身体の強壮さが求められ、高度経済成長期には工場労働に適応できる規律と処理能力が求められました。そして、第三次産業が中心となった現代においては、高度なコミュニケーション能力や空気を読む力が過剰に重視されています。この社会的な要請の変化こそが、現代において「発達障害」とされる子どもが急増している真の背景です。つまり、子どもが変わったのではなく、社会が求める「標準」の枠が狭まり、そこからはみ出す子どもを異質なものとして排除する圧力が強まっているのです。
改めて、排除の論理に抗い、学校を「能力の選別機関」から「共生の技法を学ぶ場」へと再生させること。それこそが、子どもたちの幸福を取り戻す唯一の道です。本書が、そのための有効な視座となることを願ってやみません。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 小国 喜弘 / 2025)
本の目次
第2章 混乱の子どもたち―学校と人権
第3意 教育の五五年体制―文部省対日教組
第4章 財界の要求を反映する学校教育
第5章 高度経済成長下、悲鳴を上げる子どもたち
第6章 一九七〇年前後の抵抗運動-教育の可能性
第7章 ウンコまで管理する時代
第8章 政治主導の教育-新自由主義改革への道
第9章 教師たちの苦悩-新自由主義改革の本格化
第10章 改革は子どもたちに何をもたらしたか
第11章 特別支援教育の理念と現実
終 章 学校再生の分かれ道
関連情報
読書メモ:斉藤仁一朗 (東海大学) 評 (斉藤仁一朗研究室ホームページ 2025年1月23日)
https://jinichiro15.com/2025/01/23/%E5%B0%8F%E5%9B%BD%E5%96%9C%E5%BC%982023%E3%80%8E%E6%88%A6%E5%BE%8C%E6%95%99%E8%82%B2%E5%8F%B2%EF%BC%9A%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E3%83%BB%E6%A0%A1%E5%86%85%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E3%83%BB%E3%81%84%E3%81%98/
ポケットブック (『図書新聞』3641号 2024年6月1日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1716353945243x316077635659104260
稲井智義 (北海道教育大学) 評 (『インターカルチュラル』22巻 2024年5月27日)
https://doi.org/10.57496/jsics.22.0_119
週刊 本の発見 (第312回) 学校はなぜここまで行き詰まったのか (『レイバーネット』 2023年8月24日)
http://www.labornetjp.org/news/2023/hon312
新書・文庫 (『日本経済新聞』 2023年5月20日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71148030Z10C23A5MY6000/

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