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書籍名

教育工学選書II 3 ゲームと教育・学習

著者名

日本教育工学会 (監修)、 藤本 徹、 森田 裕介 (編著)

判型など

178ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年2月10日

ISBN コード

9784623078745

出版社

ミネルヴァ書房

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ゲームと教育・学習

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本書では、エンタテインメント向けに発達したゲームのデザイン手法や技術を教育に取り入れる「ゲーム学習 (Game-based Learning)」の理論や開発・導入について、教育工学分野の研究事例や近年の応用例を交えて議論しています。
 
この分野は、「エデュテインメント」、「シリアスゲーム」、「ゲーミフィケーション」などの呼び方で進展を続けており、この十年余りで学術研究の知見も蓄積され、情報学、認知科学、教育工学、デザイン学などの学際的な研究分野として定着する動きを見せています。特に米国では近年のSTEM教育振興政策に後押しされて、学校教育のためのデジタルゲーム開発に多くの投資が集まるなど、産学官連携による研究開発の重要課題として認識されています。また、社会問題をテーマとしたソーシャルビジネスの分野もゲーム要素を取り入れて社会的インパクトの高い製品の開発に取り組む例も増えています。
 
国内でも以前からさまざまな研究開発が行われており、近年のSociety5.0に向けたEdtechを活用した教育改革推進の文脈や、アクティブラーニング導入の議論の中でも関心が高まる分野です。21世紀型スキルやPISA型学力などで重視されるような、習得した知識の使い方や創造的な学習、協調的な学習を通して身につく能力の向上のために、ゲームを用いて統合的に学ぶことができます。ゲームへの参加は、本質的に能動性が前提となる活動なので、アクティブラーニングを促進する手法としても有効です。
 
ゲームを教育に取り入れる長所として、学習意欲の向上がよく着目されますが、この他にも「安全な環境で試行や失敗を繰り返して学べる」、「行動に対するフィードバックを即時に返して効率よく学習できる」など、ゲームデザインの中に織り込まれた手法やメカニズムが教育の中で活用できる場面も多いです。
 
学校教育においては、教師の講義を黙って受身で聴くことが普通であっても、ゲームデザインの観点からは講義を聴くだけではゲームとして成立しません。ゲームの枠組で学習活動を再検討することで、知識伝達だけで終わっていた教育活動に工夫の余地を模索することが必然的に求められます。そのため、学習者だけでなく、授業をデザインする教育者側の認識の変化を促すことにもつながります。本書でも取り上げているように、ゲームデザイナーと教育専門家が協力して、学校カリキュラム全体をゲームとしてデザインし直した公立学校が設立されるなど、教材としてだけでなく、学習活動のデザイン全般にゲームを取り入れる動きが拡がっています。
 
このような教育へのゲームの活用やゲームが学びにもたらす効果について関心のある方にとって、本書がこの分野を俯瞰してさらなる探求を続ける助けとなれば幸いです。
 

(紹介文執筆者: 大学総合教育研究センター 特任講師 藤本 徹 / 2018)

本の目次

はじめに

第1章 教育工学分野におけるゲーム研究
 1.1 研究分野の歴史的経緯と用語・概念の整理
 1.2 研究活動の広がり
 1.3 ゲームの概念と要素
 1.4 ゲームの教育における役割と長所・短所
 1.5 ゲーム学習導入の障壁
 1.6 おわりに

第2章 教育・学習ゲームのデザインと開発
 2.1 これまでのゲーム開発研究の動向
 2.2 学習ゲームのデザイン

第3章 ゲーム学習と評価
 3.1 評価研究の枠組みと近年の国内の関連研究の動向
 3.2 評価研究の概要と近年の動向

第4章 国内における各教育分野の研究動向
 4.1 算数・数学教育
 4.2 教科横断型教育・インフォーマル学習

第5章 教育工学分野におけるゲーム研究の課題
 5.1 教育・学習ゲームへの研究アプローチ
 5.2 測定法を用いた研究
 5.3 実験研究法を用いた研究
 5.4 デザイン研究法を用いた研究
 5.5 教育工学分野におけるゲーム研究の展望

第6章 ゲームと教育・学習の将来像
 6.1 研究拠点の展開
 6.2 ゲーム開発を通した学習
 6.3 ゲーム教育カリキュラムの開発
 6.4 将来像に関する考察

人名索引/事項索引

関連情報

受賞:
日本デジタルゲーム学会 2021年度 学会賞 (一般社団法人 日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN) 2022年3月4日)
https://digrajapan.org/?page_id=9086

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