令和8年度文化功労者顕彰

令和8年度文化功労者顕彰

中山 信弘 名誉教授、西澤 直子 名誉教授、藤森 照信 名誉教授が、令和8年度文化功労者に選出されました。

中山 信弘 大学院法学政治学研究科・法学部 名誉教授

中山 信弘 名誉教授

このたび、本学名誉教授の中山信弘先生が、知的財産法学における多大の功績により2026年度の文化功労者に選出されました。

中山先生は、1969年に東京大学法学部を卒業、本学法学部助手、助教授を経て、1984年に教授に就任されました。中山先生は、フリー・ライドで世の中は豊かになるのであって、ただそれによりイノベーションのインセンティブが過度に失われかねない場合に限って、例外的に、産業や文化の発展のために知的財産権が設けられるのだとするアプローチを提唱するとともに、「知的所有権」という言葉が流行りかけていた1980年代後半に、情報に対する権利は、有体物に対する権利である所有権と異なり、差止めを認めず金銭的請求権に止めるなど、自由に制度設計でき、またすべきであるという考えを用語に反映させた「知的財産権」との呼称を世に広めることに成功しました。体系書『特許法』(弘文堂、1993年初版(当時の書名は『工業所有権法(上)』。第5版が2023年刊行)、『著作権法』(有斐閣、2007年初版。第4版が2023年刊行)に代表される先生の研究業績は、長きにわたって学界を導いてきました。ご多忙であるにも関わらず、研究者の養成にも熱心で、お弟子さんを中心に先生の薫陶を受けた一群の研究者は、基本的に先生と考え方を一にする「中山シューレ」と呼ばれる一大学派を形成しています。くわえて、中山先生は、工業所有権審議会(後の産業構造審議会知的財産分科会)、関税・外国為替等審議会、国会図書館納本審議会の委員・会長、著作権審議会(後の文化審議会著作権分科会)、知的財産戦略本部の委員を務めるなど、知的財産に関わる数々の立法や行政の運用に大きな影響を与えました。こうした功績により、2012年には紫綬褒章を受章されています。

先生の文化功労者としてのご顕彰を心よりお慶び申し上げますとともに、益々のご健勝とご活躍を祈念致します。

(大学院法学政治学研究科・法学部 田村 善之)

西澤 直子 大学院農学生命科学研究科・農学部 名誉教授

西澤 直子 名誉教授

このたび本学名誉教授の西澤直子先生が、植物栄養学に関する顕著な業績により、令和8年度の文化功労者に選出されました。西澤先生は昭和43年に本学農学部農芸化学科をご卒業後、博士課程を修了され、農学部助手、米国ロックフェラー大学研究員などを経て、平成9年に本研究科農学国際専攻教授に就任されました。本学を定年退職後、平成21年に石川県立大学生物資源工学研究所教授、同研究所長となられ、平成31年から令和7年まで同大学学長を務められました。

この間、先生は一貫してイネ科植物の鉄栄養に関する研究・教育に取り組まれ、基礎と応用の両面から数々の業績を挙げられました。イネ科植物は、土壌中の溶けにくい鉄を溶かして吸収するため、根から天然の鉄キレート物質であるムギネ酸類を分泌します。先生は恩師である森敏本学名誉教授とともに、その全生合成経路を各段階の酵素遺伝子の単離によって証明されました。さらに、ムギネ酸類の分泌、鉄-ムギネ酸類の吸収を担う膜輸送体や、鉄欠乏に応答して多数の遺伝子の発現を制御する転写因子を次々に見出し、イネ科植物の鉄獲得の分子機構の全貌を明らかにされました。これらの知見をもとに、世界の陸地の約3割を占める石灰質土壌でもよく育つ「鉄欠乏耐性イネ」や、貧血の予防に役立つ「高鉄含有イネ」を創出されました。

さらに有害元素カドミウムについても、イネがカドミウムを吸収・蓄積する仕組みの解明に取り組まれました。農業環境技術研究所(現 農研機構)との共同研究では、カドミウムをほとんど吸収しない「低カドミウムコシヒカリ」を開発し、その原因遺伝子も突き止められました。この成果は現在の「あきたこまちR」にもつながるなど、安全なコメづくりに大きく貢献されました。

基礎研究から農業の現場への応用までを一貫して切り拓いたこれらの研究は、植物の栄養を分子レベルで解き明かす研究を先導するものとして、国際的に高く評価されています。先生はこれまで、日本土壌肥料学会賞(平成4年)、日本農学賞・読売農学賞(平成22年)、米国科学振興協会(AAAS)フェロー(平成23年)、紫綬褒章(平成23年)、日本学士院賞(平成26年)、瑞宝中綬章(平成30年)など数多くの栄誉を受けられ、令和2年からは日本学士院会員となられています。

また、日本学術会議会員、日本農学会会長、国際植物栄養学会理事などの要職を歴任され、学術の発展と多くの研究者の育成にも大きく貢献されています。このたびさらに文化功労者として顕彰されたことは、まことに先生のご業績にふさわしく、心よりお祝い申し上げるとともに、先生の益々のご健勝とご活躍をお祈り申し上げます。

(大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 新機能植物開発学研究室 中西 啓仁)

藤森 照信 生産技術研究所 名誉教授

藤森 照信 名誉教授

このたび、本学、名誉教授の藤森照信先生が、令和8年(2026年度)の文化功労者に選出されました。心よりお祝い申し上げます。

藤森先生は、東京大学大学院で建築史を学ばれ、1979年に博士号を取得、1982年に東京大学生産技術研究所の講師に着任されました。1985年に助教授、1998年に教授となられ、2010年の退職後は東京大学名誉教授の称号を付与されています。工学院大学で教鞭をとられたのち、2016年から東京都江戸東京博物館の館長の任に就いておられます。

建築史家と建築家、その双方で卓越した業績を残された方は実はほとんどおりません。1943年に文化勲章を授与された本学の伊東忠太先生が思い付く限りで、藤森先生は、建築界のその難題を半世紀以上ぶりに軽やかに突破されました。

建築史家としては、日本の近代の建築と都市の歴史を総合的に解明されました。博士研究を基にした『明治の東京計画』では、膨大な一次史料を読み解き、近代東京の都市計画史を実証的かつ生き生きと描き出されました。それと並行して、1974年には堀勇良氏と「建築探偵団」を結成し、街に埋もれた近代建築を発見し、魅力ある文体でその歴史を伝えてこられました。その文章は建築界のみならず一般の人びとにまで届き、西洋館への関心を高めるきっかけとなりました。1993年には、それまでの研究の集大成となる『日本の近代建築(上・下)』を出版され、これら一連の研究により1998年に日本建築学会賞(論文)を受賞されておられます。

一方、1991年に《神長官守矢史料館》で建築家としてデビューを果たされると、「科学技術を自然素材で包む」という独自の発想のもと、木、土、石、植物を自在に用いたユニークな建築を次々と発表されました。どこにもないのに、どこか懐かしさを感じさせる藤森建築は多くの人びとを魅了し、2019年には《ラ コリーナ近江八幡 草屋根》で日本芸術院賞を受賞されておられます。

先生の薫陶を受け、研究と設計の双方に対する独自のまなざしに間近で触れてきた者として、今年の日本建築学会大賞に続く、このたびの文化功労者としてのご顕彰をひときわうれしく思います。心よりお慶び申し上げるとともに、先生のご健康と今後ますますのご活躍をお祈りいたします。

(生産技術研究所 人間・社会系部門 林 憲吾)

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