令和8年秋の紫綬褒章受章

令和8年秋の紫綬褒章受章

佐藤 仁 教授、染谷 隆夫 教授、胡桃坂 仁志 教授が令和8年秋の紫綬褒章を受章いたしました。

佐藤 仁 東洋文化研究所 教授

佐藤 仁 教授

このたび、東京大学東洋文化研究所所長の佐藤仁教授が紫綬褒章を受章されました。佐藤先生は、プリンストン大学やコロンビア大学などでも客員教授として研究・教育に携わり、地域研究と国際開発研究を架橋しながら、東南アジアを中心に資源・環境・開発の諸問題を探究してこられました。

佐藤先生の研究の大きな特長は、「資源」「環境」「開発」「持続可能性」といった概念を根底から問い直し、政策の背後に潜む権力関係や人々の暮らしの実態を、丹念なフィールドワークを通じて明らかにしてきた点にあります。初の単著『稀少資源のポリティクス』(2002年)では、タイの森林保全政策が地域住民の資源利用技術や生業をかえって制約するという逆説を、実証研究に基づいて解明しました。その後も、『「持たざる国」の資源論』(2011年)、『反転する環境国家』(2019年)、『開発協力のつくられ方』(2021年)などの著作を通じて、環境政策や開発援助をめぐる国家と社会、そして人々の暮らしの関係を問い続けてこられました。近著『争わない社会』(2023年)では、「依存」を積極的に捉え直し、人々の依存関係を媒介する中間集団の役割に着目することで、世界的に後退しつつある民主主義の新たな可能性を提示されています。さらに2026年には、英文単著 Sustainability Inverted: How Environmental Policies Control People をMIT Pressから刊行されました。アジアの現場に深く根ざしながら、そこから普遍的な理論を構想する姿勢が、これら一連の著作に通底しています。

佐藤先生は、日本学術振興会賞(2014年)、日本学士院学術奨励賞(2014年)、国際開発研究大来賞(2017年)などを受賞し、2017年にはPrinceton University Global Scholarにも選ばれました。また、国際開発学会会長や国際学術誌 International Journal of Asian Studies の編集長を歴任するなど、学術界の発展にも大きく貢献し、日本の地域研究・国際開発研究を牽引してこられました。

さらに、次世代研究者の育成と、国境を越えた研究者ネットワークの構築にも力を注いでこられました。JICA(国際協力機構)チェアやトヨタ財団の助成プログラムなどを通じて東南アジアの研究者との協働を推進し、2023年に開催されたJapan-ASEAN Scholar Summitでは基調講演者として招かれるなど、日本と東南アジアを結ぶ知的交流にも重要な役割を果たしてこられました。個々の研究成果の発信にとどまらず、国や世代を越えて研究者が学び合い、協働する場を築いてこられたことも、佐藤先生の特筆すべきご功績です。

このたびのご受章を心よりお慶び申し上げるとともに、今後ますますのご健勝とご活躍を祈念いたします。

(東洋文化研究所新世代アジア研究部門 パッタジット・タンシンマンコン、上田 遥)

染谷 隆夫 大学院工学系研究科・工学部 教授

染谷 隆夫 教授

本学大学院工学系研究科の染谷隆夫教授が、令和8年秋の紫綬褒章を受章されました。染谷教授は、電子機器は硬いという従来の前提を問い直し、人体や環境になじむ「電子皮膚」と「伸縮性エレクトロニクス」の分野を切り拓いてこられました。

染谷教授は、平成9年に本学大学院工学系研究科博士課程を修了され、平成21年に同研究科教授に就任されました。

研究の出発点は、人間の皮膚のように薄く柔らかく、広い範囲の情報を捉える電子回路をつくることでした。従来、多数のセンサーを並べると配線が増え、柔軟性が損なわれる課題がありました。染谷教授は、ディスプレイの駆動方式を有機トランジスタの回路に応用して配線数を抑え、千点を超えるセンサーを柔軟なシート上に集積し、圧力や温度を面で捉える電子皮膚を実現されました。

さらに、曲げられるだけでは追従できない関節などの動きに対応するため、「切り紙」に着想を得た網目状の回路構造や、伸ばしても電気を通す材料を開発されました。構造と材料の両面から伸縮性をもたせる設計指針は、後続の研究にも広く取り入れられ、柔軟・伸縮性エレクトロニクスの発展に大きく寄与しています。

身体への長時間装着では、蒸れや皮膚への負担も課題となります。染谷教授は、極薄化によって皮膚に密着する電子回路や、微細な繊維を網目状に重ねて水蒸気を通すナノメッシュ電極を開発し、日常生活で生体情報を継続的に計測する技術を拓かれました。また、伸縮性エレクトロニクスの技術を衣服に応用した心電計は、医療機器の認証を受けて保険適用となり、医療の現場で活用されています。

こうした業績により、日本学術振興会賞、江崎玲於奈賞、藤原賞などを受賞されています。また、本学の工学系研究科長・工学部長、執行役・副学長として、大学運営と産学協創にも尽力されてきました。

このたびのご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後ますますのご活躍を祈念いたします。

(大学院工学系研究科 竹中 充)

胡桃坂 仁志 定量生命科学研究所 教授

胡桃坂 仁志 教授

胡桃坂仁志教授は、染色体を構成するDNAとタンパク質の複合体「クロマチン」の構造と機能の解明に取り組み、生命科学の発展に大きく貢献してこられました。このたびの紫綬褒章ご受章を心よりお祝い申し上げます。

私たちの細胞では、長いDNAがヒストンというタンパク質に巻き付き、ヌクレオソームを基本単位とするクロマチンを形成しています。この構造はDNAを収納するだけでなく、遺伝子の働きや遺伝情報の継承に必須のものです。先生は、精製したDNAとタンパク質からクロマチンを試験管内で組み立てる手法を基盤に、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡解析を駆使して、その仕組みを分子の立体構造から明らかにしてきました。

代表的な成果の一つが、染色体分配の基点となるセントロメアに存在する、特殊なヒストンCENP-Aを含むヌクレオソームの構造解明です。また、遺伝子の働きを抑えるヘテロクロマチンの形成機構についても、構造に基づく理解を進めました。

さらに共同研究を通じて、遺伝情報を読み取るRNAポリメラーゼIIがヌクレオソームを通過する際の構造変化や、転写に伴ってほどかれたヌクレオソームを再形成する仕組みを解明しました。これは、DNAの情報を読み出すことと、その収納構造を保つことがどのように両立するのかという、生命の根源的な問いに答える成果といえます。研究はDNA損傷の修復にも広がり、クロマチン上で修復が始まる仕組みの理解にも貢献しています。

これらの研究業績により、上原賞(2022年度)、東レ科学技術賞(2024年度)、武田医学賞(2026年度)等を受賞されました。

これらの成果の一部は、国際的な教科書『Molecular Biology of the Cell』にも取り上げられています。分子の姿を精緻に捉え、その働きを実験で確かめる研究を積み上げられ、生命の基本原理への理解を深めてこられた先生のご功績に敬意を表します。今回のご受章は本研究所にとっても大きな喜びであり、今後のさらなるご活躍を心より祈念いたします。

(定量生命科学研究所長 白髭 克彦)

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