令和8年春の紫綬褒章受章
令和8年春の紫綬褒章受章
荒木 尚志 名誉教授、東山 哲也 教授、今橋 映子 教授、相澤 清晴 名誉教授、高薮 縁 名誉教授が令和8年春の紫綬褒章を受章いたしました。
荒木 尚志 大学院法学政治学研究科・法学部 名誉教授

荒木尚志名誉教授が令和8年春の紫綬褒章を受章されました。荒木名誉教授は、本学大学院法学政治学研究科を令和7年に退職され、現在は中央労働委員会会長を務めていらっしゃいます。
荒木名誉教授は、現代日本の雇用システムにおける法的課題に対して、比較法的視点と理論的整合性の両面から深く切り込み、労働法学理論の水準引上げに貢献されました。著書『労働時間の法的構造』(有斐閣、1991年)では、労働時間概念の多義性を理論的に整理したうえで、日本の労働時間規制を比較法的視点から検討し、労働時間性の判断枠組みの再構築に取り組まれました。また、就業規則の不利益変更法理を含む労働条件変更法理について、解雇規制と関連付けながら比較法的分析を行い、精緻な解釈論を展開した『雇用システムと労働条件変更法理』(有斐閣、2001年)は、労働契約法制定にも大きな影響を与えました。さらに、多数の英語論文により、日本労働法の特徴を正確かつ明快に発信するのみならず、比較法的視点に基づき国際的にも遍く妥当する機能的分析枠組みを提示されました。これらの研究に裏打ちされた2009年刊行の『労働法』(有斐閣、第5版は2022年刊行)は、学界及び実務界で広く参照されています。
これらの業績により、平成元年度第4回冲永賞、平成3年度第14回労働関係図書優秀賞、平成13年度第16回冲永賞を受賞されました。
そして、日本労働法学会理事・代表理事として日本の学界を牽引するのみならず、国際労働法社会保障法学会理事・副会長・日本支部長として、国際的な学術活動の発展にも寄与されています。さらに、労働政策審議会の委員や分科会長として、労働立法や政策形成に重要な貢献をされたほか、長年にわたり労働委員会における集団的労使紛争の処理にも力を尽くしてこられました。
荒木名誉教授のご受章を心よりお慶び申し上げますとともに、益々のご健勝とご活躍を祈念いたします。
(大学院法学政治学研究科・法学部 神吉知郁子 土岐将仁)
東山 哲也 大学院理学系研究科・理学部 教授

生物科学専攻の東山哲也教授が、長年にわたる植物科学分野の研究・教育・発展への功績により、紫綬褒章を受章されました。心よりお慶び申し上げます。
東山教授は、長年にわたり植物生殖研究の世界的先導者として当該分野を牽引してこられ、受精の全過程可視化および受精の鍵分子群の同定など、植物学における優れた業績を挙げてこられました。
被子植物の有性生殖の特徴として、重複受精が挙げられます。東山教授の研究の出発点は、トレニアという植物材料の利点を基に、花粉管の伸長から重複受精に至る全過程を生きた状態で観察できる体外重複受精系を開発したことにあります。東山教授は、この体外重複受精系とレーザー操作技術・細胞分子生物学的解析を組み合わせ、ルアー(LURE)と名づけたペプチド分子が花粉管誘引物質であることを突き止められました。さらにこのルアーを糸口に、花粉管受容を制御する重要シグナリング因子群を同定されています。また、シロイヌナズナを材料としたライブイメージング基盤を整備され、多数の未知の生殖プロセスを発見・映像化するとともに、植物生殖ライブイメージング研究という新たな研究領域確立に貢献されました。加えて、花粉管誘導の種選択性が種間障壁を規定し、その打破が新種誕生に繋がる可能性を示すなど、植物の種の成り立ちに迫る研究も展開されています。
これらの優れた業績に対し、日本植物学会賞特別賞(技術)、日本植物形態学会平瀬賞、日本学術振興会賞、ゴールド・メダル賞、木原記念財団学術賞、井上学術賞、中日文化賞、日本植物学会学術賞、朝日賞、日本植物形態学会賞、みどりの学術賞が授与されています。
近年は、重複受精をしないネジバナや精子で受精するソテツなどを材料に、多様な植物生殖の在り方とその進化に関する研究にも取り組まれています。この度のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後の益々のご活躍を祈念いたします。
(大学院理学系研究科・理学部 大谷 美沙都)
今橋 映子 大学院総合文化研究科・教養学部 教授

本学大学院総合文化研究科の今橋映子教授が、学術・スポーツ・芸術文化分野において著しい業績を挙げた方に授与される紫綬褒章を受章されました。
今橋教授は比較文学比較文化の教育と研究に尽力され、数々の著書を刊行されました。今橋教授の功績は大きく四つに分けることができます。
第一に、日本近代文学におけるパリと日仏文化交渉史について、文化行政を視野に入れつつ研究を進め、『異都憧憬 日本人のパリ』と『パリ・貧困と街路の詩学』では、「芸術の都パリ」や「花の都パリ」という〈パリ神話〉の形成過程と、パリ在住の外国人芸術家による「異文化理解」の実態を実証的に解明されました。
第二に、写真文化研究を通して比較芸術論を開拓されました。『〈パリ写真〉の世紀』と『ブラッサイ――パリの越境者』では、フォト・ジャーナリズムやドキュメンタリー文学に光を当て、メディアと言語を縦横に論じる新しい方法論を確立されました。
第三に、近代日本における美術思想の研究を新しい視点から展開されました。『近代日本の美術思想――美術批評家・岩村透とその時代』は、これまで正当な評価を受けてこなかった美術批評家岩村透の活動の全貌を明らかにし、欧米を中心とする研究のあり方を見直すとともに、日本発信の国際的な美術史再構築を促す研究成果になりました。
第四に、比較文学比較文化研究を理論的に総括し、一般知へ還元するための研究プロジェクトを主導して、『比較文学比較文化ハンドブック』を刊行されました。これは入門書と中事典という性質をあわせ持ち、学習と研究の指針となる体系的な基本書を目指しています。
これらの研究業績により、渋沢・クローデル賞(1994)、サントリー学芸賞(1994)、重森弘淹写真評論賞(2003)、島田謹二記念学藝賞(2004)、日本写真協会賞学芸賞(2004)、日本学賞(2024)を受賞されました。
このたびの御受章を心よりお慶び申し上げます。これからも領域を横断する壮大な御研究で、瞠目するような新しい地平が開かれることを祈念いたします。
(大学院総合文化研究科・教養学部 佐藤 光)
相澤 清晴 大学院情報理工学系研究科 名誉教授

相澤清晴名誉教授が、令和8年春の紫綬褒章を受章されました。相澤清晴名誉教授は、本学大学院情報理工学系研究科を令和6年に退職され、現在は本学情報基盤センター特任教授、東京理科大学教授、京都橘大学教授、foo.log株式会社取締役としてご活躍されています。
相澤清晴名誉教授は、マルチメディア情報処理分野において、画像符号化、スマートセンシング、ライフログ・フードログ、漫画画像処理、360度映像処理などの広範な領域にわたり、先駆的かつ独創的な研究を展開されてきました。
人物顔の三次元モデルを用いた分析合成によるモデルベース符号化を世界に先駆けて提案し、従来の波形符号化とは異なる新たな画像符号化の枠組みを切り拓かれたことは、当該分野の発展に大きく貢献するものでした。さらに、圧縮・処理機能をセンサ回路内で実現した圧縮イメージセンサを提案・試作され、センシングと情報処理の融合による高機能イメージング研究を推進されました。また、映像とコンテキストを統合したライフログ研究および食事画像解析に基づくFoodLogの開発を通じて、健康支援や医療応用にもつながる新たな研究領域を切り拓かれました。加えて、漫画に特化した画像処理技術の開発と大規模データセットManga109の構築により、国際的に広く利用される研究基盤を整備されました。さらに、360度映像を活用した実写型バーチャル空間の構築や都市モデルとの融合を通じて、防災・都市計画に資する新たな映像情報活用の可能性を示されました。
これらの業績は、マルチメディア情報処理分野の学術的発展に顕著な貢献を果たすとともに、社会実装・産業応用の面でも大きな波及効果をもたらしたものです。
さらには、文部科学省科学官(2016年~2020年)、日本学術会議会員(2017年~2023年)および情報学委員長(2020年~2023年)として、日本の科学技術政策の推進にも大きく寄与されてきました。
このような研究業績により、電子情報通信学会論文賞(1990年)、日本IBM科学賞(2002年)、映像情報メディア学会丹羽高柳賞功績賞(2021年)、科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)(2025年)など、多数の賞を受賞されています。
相澤清晴名誉教授のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後のご健勝とますますのご活躍を祈念いたします。
(大学院情報理工学系研究科 山崎 俊彦)
高薮 縁 大気海洋研究所 名誉教授

高薮縁名誉教授が、令和8年春の紫綬褒章を受章されました。
高薮名誉教授は、地球衛星観測を駆使した先駆的研究により、熱帯気象学および気候学の発展に顕著な貢献を果たしてこられました。
長期間にわたる気象衛星データの統計解析から、熱帯対流雲群の組織的な動きが赤道波に対応することを明らかにし、後に「対流結合赤道波」と呼ばれる概念の確立に大きく寄与されました。この成果は、熱帯大気の力学的理解を飛躍的に前進させ、IPCCの温暖化予測に用いられる気候モデルの再現性検証にも活用されています。
マッデン・ジュリアン振動(MJO)とエルニーニョ南方振動(ENSO)の相互作用に関する研究では、MJOが強いエルニーニョの終息過程に影響を与えることを観測的に示し、大気海洋結合過程の理解を深化させました。
衛星搭載降水レーダデータを用いて、降水に伴う大気中の三次元的な潜熱加熱分布を世界で初めて定量化する手法を確立し、JAXAおよびNASAの標準プロダクトとして国際的に提供されました。この成果は、気象現象の理解や気候モデルの高度化に不可欠な基盤となっています。
衛星観測に基づき、対流圏中層付近で発達が抑制される広域の「雄大積雲領域」の存在を世界で初めて示されました。これは積雲対流における中層空気の取り込みの重要性を明らかにし、気候モデルにおける降水バイアスの理解と改善に寄与しています。さらに、全球規模の降水システム解析により、暖候域の豪雨が多湿環境下で組織化した降水域から生じることを示し、豪雨の将来変化に関する新たな視点を提示されました。
これらの業績により、日本気象学会賞(1998年)、猿橋賞(2007年)、米国気象学会フェロー(2021年)、文部科学大臣表彰(2023年)、日本気象学会藤原賞(2023年)、海洋立国推進功労者内閣総理大臣表彰(2024年)、米国気象学会The Joanna Simpson Tropical Meteorology Research Award(2024年)など、数々の栄誉に輝いておられます。
高薮名誉教授のご受章を心よりお祝い申し上げますとともに、今後のご健勝と益々のご活躍を祈念いたします。
(大気海洋研究所 宮川 知己)


