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カーボンニュートラル時代の日本の化学産業 資源制約とコスト増の「ニワトリと卵」の克服が脱炭素化と産業競争力を左右する 研究成果

掲載日:2026年3月17日

[発表のポイント]
  • 日本の化学産業の脱炭素化、すなわちカーボンニュートラルの実現のボトルネックは技術不足ではなく、資源制約と「高コスト⇒低需要⇒低生産量⇒高コスト」という悪循環(ニワトリと卵)にあることを示しました。
  •  この資源制約と市場の悪循環は、化学産業のみならず、化学製品を使う自動車や電機などのサプライチェーン川下の産業の脱炭素化と将来の産業競争力をも左右する問題です。
  • 本レポートは化学技術の解説ではなく、コスト増を伴う重工業の脱炭素化に対し、産業界と政府が連携してどう対応すべきかという産業政策・戦略の枠組みを提示しています。
[概要]
東京大学 未来ビジョン研究センターの石井菜穂子特任教授らによる研究グループは、日本の化学産業の脱炭素化(注1)(カーボンニュートラルの実現)に関する研究成果をまとめたレポート「カーボンニュートラル時代の日本の化学産業」を公表しました。本レポートは、化学技術論ではなく、資源制約、産業政策、産業戦略、国家競争力の観点から課題を整理した点に特徴があります。化学産業の脱炭素化は、化学産業にとどまらず、化学製品を利用する幅広い産業の競争力と脱炭素化に直結します。本レポートでは、リーダー企業と政府の連携のあり方を提示し、化学の専門家のみならず政策担当者、産業界、メディアなど化学の専門外の読者にも開かれた形で議論の土台を示します。あわせて、コスト増を伴う脱炭素化に対して社会としてどのように向き合うべきかという論点も提起しています。

[発表内容]
化学産業は、農業・日用品・建材・医療・エネルギー・モビリティ・デジタル機器など、私たちの生活を支える幅広い製品を供給しています。一方で、日本では鉄鋼に次ぐ二酸化炭素排出産業です。また、化学製品の多くは炭素を含むため、製造段階だけでなく廃棄段階でも排出が生じます。そのため、電力の再生可能エネルギー化だけでは脱炭素化できず、原料転換など化学産業独自の対応が不可欠です。本レポートは、このように複雑な化学産業の脱炭素化を技術の問題ではなく、資源制約と市場構造の問題として整理しました。

カーボンニュートラルの下で長期的に製造販売可能な化学製品の量は、1)バイオマス由来炭素、2)リサイクル材由来炭素、3)CCS(注2)によって固定される炭素の合計に制約されます(等式1 参照)。この構造は電気自動車産業におけるリチウムやコバルト資源の確保と同じで、これら3つの資源の確保量が将来の化学製品供給能力の上限を決めるため、化学産業でも「椅子取りゲーム」が始まっています。出遅れれば、化学産業のみならずサプライチェーン川下産業の脱炭素化や国際競争力にも影響が及びます。



さらに、化学産業の脱炭素化はコスト増を伴います。将来、コスト低減が実現したとしても、脱炭素化された基礎化学品の製造コストは現行の2~3倍に上昇すると推算しています。しかし、化学製品はサプライチェーンが長いため、最終製品コストへの影響としては1~2%程度にとどまります。一方で、もし将来のコスト低減が実現しないと、この影響は拡大します。このコスト低減の障害となっているのが「ニワトリと卵」の悪循環です。本レポートでは、これを打破するために、企業の長期的リスク投資と政府の政策支援を組み合わせた戦略的連携(リーダー企業と政府の「二人三脚」)を新たに提言しています。加えて、社会として脱炭素化に伴うコスト負担から目を背けずに正面から取り組むことこそが、「ニワトリと卵」から脱却してコスト低減を実現し、産業競争力を高めることにつながることを新たに示しています。また、脱炭素化に関するルール形成は重要であるものの、コスト低減や産業競争力強化による脱炭素化の主役はあくまで企業・政府の「二人三脚」にあることを示しています。化学産業の脱炭素化は他産業にも幅広い影響を与えることから、環境政策にとどまらず産業競争力をも同時に左右する国家戦略上の課題です。

[関連情報]
本レポートは、プレスリリース「日本の化学産業の温室効果ガス排出ネットゼロへの道筋と戦略を発表」で報告した内容を発展・拡大したものです(2024/10/7)。
 
[発表者・研究者等情報]
東京大学
未来ビジョン研究センター
石井 菜穂子 特任教授/グローバル・コモンズ・センター ダイレクター/グローバル・コモンズ担当総長特使 

未来ビジョン研究センター グローバル・コモンズ・センター
金澤 大輔 共同研究員(研究当時)

[掲載情報]
レポート名: カーボンニュートラル時代の日本の化学産業(専門外の読者にもわかる化学産業の地球温暖化対策)
URL: https://cgc.ifi.u-tokyo.ac.jp/research/chemistry-industry/

[研究助成]
本研究は三菱ケミカル株式会社との共同研究の下で資金提供を受けました。

[用語解説]
(注1)脱炭素化: カーボンニュートラルと同じ意味として、温室効果ガスのネットゼロに向けた排出削減の意味で用いています。炭素を使わずにプラスチック等の化学製品を製造することは意味しません。

(注2)CCS: 二酸化炭素を回収し、地中などに貯留することで大気中への排出を防ぐ技術です(Carbon Capture and Storage)。

お問い合わせ先

[研究内容について]
東京大学 未来ビジョン研究センター グローバル・コモンズ・センター 
E-mail: info.cgc[at]ifi.u-tokyo.ac.jp 
*[at]を@に変更して送信してください。 

[機関窓口]
東京大学 未来ビジョン研究センター 事務局 広報・国際チーム
Tel: 03-5841-8377
E-mail: ifi_pr[at]ifi.u-tokyo.ac.jp
*[at]を@に変更して送信してください。
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