新しい不活化エボラワクチン「iEvac-Z」の第I相臨床試験で安全性と免疫原性を確認 世界初、遺伝子欠損エボラウイルスを用いたヒト臨床試験 研究成果
- 世界で初めて、遺伝子欠損エボラウイルスを用いた不活化ワクチン「iEvac-Z」の第I相臨床試験を実施した。
- ワクチン関連の重篤な有害事象は認められず、全被験者でエボラウイルス糖タンパク質(GP)に対する抗体応答が確認された。
- VP30遺伝子を欠損させたエボラウイルスを基盤とする新しいワクチンプラットフォームであり、安全性を重視した次世代エボラワクチンとして期待される。

不活化エボラワクチン「iEvac-Z」の第I相臨床試験
発表内容
大阪大学 微生物病研究所 渡辺登喜子教授、東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター 河岡義裕機構長らの研究グループは、エボラ出血熱に対する新規不活化ワクチン「iEvac-Z」の第I相臨床試験を実施し、その安全性と免疫原性(注1)をヒトで初めて確認しました。エボラ出血熱(注2)は、致死率が最大90%に達する重篤な感染症であり、アフリカを中心に繰り返し流行しています。現在承認されているエボラワクチンは、ウイルスベクター(注3)や生ウイルスを用いており、高い有効性を示す一方で、より安全性の高いワクチンの開発も求められています。
こうした課題を克服するため、研究グループは、エボラウイルスの増殖に必須なVP30遺伝子を欠損させた変異ウイルス(エボラΔVP30ウイルス、注4)を基盤とする不活化全粒子ワクチン「iEvac-Z」を開発しました。エボラΔVP30ウイルスは、VP30を発現する特殊な細胞の中でしか増殖できないため通常の環境やヒトの体内では増殖できず、バイオセーフティレベル2という比較的取り扱いやすい施設で製造することが可能です(図1;Halfmann et al., PNAS, 2008)。さらに、増殖したウイルス粒子をβ-プロピオラクトンで処理することで感染性を完全に消失させる一方、糖タンパク質(GP)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質(VP40)など複数のウイルス抗原はそのまま保持されるように設計されています。エボラΔVP30ウイルスを基盤とした不活化ワクチンiEvac-Zは、米国ウィスコンシン大学Waisman Biomanufacturingにおいて、治験薬GMP基準に準拠して製造されました。これまでの非臨床試験では、カニクイザルにおいてiEvac-Zの接種が致死的なエボラウイルス感染に対する防御効果を示すことが確認されています(Marzi et al., Science, 2015)。

独自開発したエボラウイルスの遺伝子組換え技術を用いて作製した、エボラウイルスの増殖に必須なVP30遺伝子を欠損させた変異ウイルス。エボラΔVP30ウイルスは、VP30タンパク質を人工的に発現させた特殊な細胞の中でのみ増殖でき、通常の細胞やヒトの体内では増殖できないため、生物学的な封じ込め(バイオコンテインメント)が可能なプラットフォームとなる。
本研究グループは2019年~2022年に、東京大学医科学研究所附属病院において、健康な成人男性を対象とするiEvac-Zの第I相臨床試験を実施しました。これは国内で実施されたエボラワクチンの初めてのヒトへの投与(First in Human試験、注5)です。20~45歳の健常成人男性を対象に、低用量および高用量のワクチンを4週間間隔で2回筋肉内投与しました。その結果、局所反応を中心とした軽度の副反応は認められたものの、ワクチン接種との関連が疑われる重篤な有害事象は確認されませんでした。
免疫学的評価では、エボラウイルスのGPに対する抗体が全被験者で誘導され(図2)、さらにNPやVP40に対する抗体応答も確認されました(図3)。このような抗体応答は、従来の単一抗原ワクチンにはない特徴です。また、一部の被験者では52週後まで抗体の持続が確認されました。


本研究は、安全性を重視した新しいエボラワクチンの実現可能性をヒトで初めて示した成果です。今後はアジュバント(注6)製剤を用いた臨床開発を進めるとともに、実用化に向けた研究を推進する予定です。さらに、本ワクチンプラットフォームを活用した他のフィロウイルス(注7)ワクチンへの展開も期待されます。
本研究は7月29日(米国東部夏時間)、米国科学誌「New England Journal of Medicine」(オンライン版)に公表されました。
なお、本臨床研究は、実施計画書及び患者への同意説明文書等について、東京大学臨床研究審査委員会(CRB3180024)で2019 年10月4日に承認された後、東京大学医科学研究所附属病院長の承認を得た上で実施されました。2019 年10月18 日にjRCTにて公開されjRCT番号(jRCTs031190118)発行後より臨床研究を開始しました。
発表者
東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター
河岡 義裕 特任教授/機構長
兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授
大阪大学
微生物病研究所 分子ウイルス分野
渡辺 登喜子 教授
兼:大阪大学 ワクチン開発拠点 先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)
大阪大学 感染症総合教育研究拠点(CiDER)
研究助成
本研究は、東京大学国際高等研究所新世代感染症センター、大阪大学、国立健康危機管理研究機構国立国際医療研究所、東京大学医科学研究所、米国ウィスコンシン大学が共同で実施し、厚生労働省科学研究費補助金(JP15fk0108040)、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP16fk0108320、JP17fk0108102、JP18fk0108029、JP20fk0108115、JP23fk0108659、JP26fk0108761)、新興・再興感染症研究基盤創生事業(JP20wm0125002)、革新的がん医療実用化研究事業(LEAP)(JP18am001007、JP18am001008)、ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(JP223fa627001、JP223fa627002)、新規モダリティを活用した次世代ワクチン研究開発事業(JP233fa827013)、先端的バイオ研究開発推進事業(AMED-CREST)(JP22gm1610010)、米国国立衛生研究所(Region V “Great Lakes” Regional Center of Excellence、U54 AI 57153)、および武田科学振興財団の支援を受けて実施されました。
用語解説
(注1) 免疫原性
外来物質(抗原)が体内に侵入した際に、免疫系がそれを異物として認識し、抗体の産生や細胞性免疫といった免疫応答を引き起こす性質のこと。
(注2) エボラ出血熱
エボラウイルスの感染によって引き起こされる重篤な感染症。発熱、嘔吐、下痢、出血傾向などの症状を呈し、致死率は流行によって25~90%と非常に高い。2014~2016年の西アフリカでの流行では、28,000名以上の感染者と11,000名以上の死者が報告された。
(注3) ウイルスベクター
目的の遺伝子を標的細胞内に運ぶための「運び屋(ベクター)」として機能する改変ウイルスのこと。
(注4) VP30欠損エボラウイルス(エボラΔVP30)
独自開発したエボラウイルスの遺伝子組換え技術を用いて、エボラウイルスの増殖(転写・複製)に必須な遺伝子であるVP30を人為的に欠損させた変異ウイルス。VP30タンパク質を人工的に発現させた特殊な細胞株の中でのみ増殖でき、通常の細胞やヒトの体内では増殖できないため、生物学的な封じ込め(バイオコンテインメント)が可能なプラットフォームとなる。
(注5) 第I相臨床試験・First in Human試験
第I相臨床試験は、少数の健常人を対象として、試験薬の安全性および体内動態を確認するための試験。特に、ヒトへの投与が世界で初めてとなる試験をFirst in Human試験と呼ぶ。
(注6) アジュバント(免疫増強剤)
ワクチンと同時に投与することで、抗原に対する免疫応答を増強する物質。より少ない抗原量や接種回数で十分な免疫を誘導できるようにする目的で用いられる。
(注7) フィロウイルス
ヒトや霊長類に重篤で致死性の高い出血熱を引き起こす RNA ウイルス。代表的なものにエボラウイルスやマールブルグウイルスがある。
論文情報
Tokiko Watanabe*, Michiko Koga*, Masanori Nojima*, Minako Kono, Yuriko Tomita, Tadashi Maemura, Itsuki Anzai, Yuri Furusawa, Calvin Duong, Yoichiro Kino, Peter J. Halfmann, Fumitaka Nagamura, Hiroshi Yotsuyanagi, and Yoshihiro Kawaoka¶, "iEvac-Z, an Inactivated Ebola Vaccine: Phase 1 Trial in Japan," New England Journal of Medicine: 2026年7月29日, doi:10.1056/NEJMc2518666.
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東京大学国際高等研究所 新世代感染症センター
河岡 義裕(かわおか よしひろ)特任教授/機構長
兼:国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 国際ウイルス感染症研究センター センター長
東京大学 医科学研究所ウイルス感染部門 特任教授
大阪大学 微生物病研究所
渡辺 登喜子(わたなべ ときこ)教授
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)
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東京大学 医科学研究所 プロジェクトコーディネーター室(広報)
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大阪大学 微生物病研究所 企画広報推進室
https://www.biken.osaka-u.ac.jp/
国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局 広報管理部
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