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自己免疫性肺胞蛋白症における自己抗体の病原性メカニズムを解明 自己抗体の「量」ではなく「質」が重症化の鍵を握る 研究成果

掲載日:2026年6月26日

  • 自己免疫性肺胞蛋白症(aPAP)患者由来のGM-CSF自己抗原特異的モノクローナル抗体を解析し、重症化に関わる自己抗体の特徴を明らかにしました。
  • 患者の血液中のGM-CSF自己抗体量は病気の重症度と関連しませんが、本研究により、抗体の「量」ではなく、抗体が認識する部位(エピトープ)と結合の強さ(親和性)という「質」が病原性を決定していることを発見しました。
  • GM-CSF受容体との結合を直接的に阻害する高親和性自己抗体は、ヒト化マウスで病気を再現できることを示しました。
GM-CSF自己抗体の質が自己免疫性肺胞蛋白症の重症度を決定する
 

発表内容

東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの井上毅教授と、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの黒﨑知博特任教授(研究当時)、同大学大学院医学系研究科の二見真史招へい教員らによる研究グループは、自己免疫性肺胞蛋白症(autoimmune pulmonary alveolar proteinosis, aPAP)の重症化に関わる自己抗体の特徴を明らかにしました。

aPAPは、サイトカインGM-CSF(注1)に対する自己抗体を原因とする肺胞マクロファージの機能異常によって肺胞内にサーファクタント(注2)が蓄積し、呼吸不全を呈する稀少肺疾患です。これまでの先行研究ではGM-CSF自己抗体は診断マーカーとしての有用性は示されているものの、「自己抗体量が重症度と十分な相関を示さない」という問題点が挙げられおり、その理由は不明でした。

本研究グループは自己抗体を産生するもとになるGM-CSF特異的B細胞に着目し、様々な重症度の患者由来のGM-CSF特異的B細胞を単離、解析しました(図1)。単一B細胞より約180種類のGM-CSF特異的モノクローナル抗体を作製し、その性質・機能を解析したところ、疾患重症度の高い患者由来のモノクローナル抗体にはより多くの体細胞超突然変異(注3)が蓄積し、GM-CSFに対してより高親和性であることが分かりました(図2)。次にGM-CSF依存的に増殖する細胞株を用いた中和試験とエピトープ解析より、抗体はGM-CSFとの結合部位の違いによって異なる中和能を示すことが分かり、親和性と中和活性の相関が強い抗体群をクラス1抗体、相関がない・または弱い抗体群をクラス2抗体として分類しました(図3)。

クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析を行ったところ、クラス1抗体はGM-CSFとGM-CSF受容体の結合を物理的に阻害するような領域を認識することが分かりました(図4A)。さらに、ヒト化マウスモデルを用いた検証により、高親和性のクラス1抗体はマウスにaPAP病態を誘導することを観測しました(図4B)。

以上の結果は、GM-CSF受容体との結合を直接的に阻害するエピトープを認識する自己抗体に親和性成熟が進展することがaPAPの疾患重症化につながることを示唆しており、GM-CSF自己抗体がaPAP疾患重症化を引き起こす仕組みを世界で初めて実証しました。本成果は、先行研究と比較して自己抗体の「質」が病態を規定することを示した点で新規性があり、今後より正確な重症度評価や病原性自己抗体の作用を回避する治療薬の開発など、新たな診断・治療戦略につながることが期待されます。

図1:研究デザイン
本研究では様々な疾患重症度のaPAP患者の末梢血単核球(PBMC)よりGM-CSF自己抗原特異的B細胞を単離、解析した。単一B細胞よりGM-CSF特異的モノクローナル抗体を作製し、in vitro中和活性、親和性、エピトープ、in vivo病原性といった抗体機能を解析した。
 

2GM-CSFモノクローナル抗体の体細胞超突然変異と親和性
aPAP軽症、重症患者由来のGM-CSFモノクローナル抗体の体細胞超突然変異と親和性。重症患者由来の抗体にはより多くの体細胞超突然変異が蓄積しており、GM-CSFに対してより高い親和性を示した。
 

3GM-CSFモノクローナル抗体のエピトープと中和活性
GM-CSFには主に6つのエピトープが存在する。それぞれのエピトープごとにモノクローナル抗体の親和性(KD)と中和活性(IC50)の分布を解析したところ、AエピトープやBDエピトープ抗体は親和性と中和活性に強い相関を示し、BエピトープやCエピトープ抗体は相関がない、あるいは弱いことが分かった。これらをそれぞれクラス1抗体、クラス2抗体として分類した。
 

4:クラス1抗体のエピトープと病原性
A. GM-CSF/Aエピトープ抗体/BDエピトープ抗体の複合体構造をクライオ電子顕微鏡により解析し、既知のGM-CSF/GM-CSF受容体構造と重ね合わせた。クラス1抗体として分類したAエピトープ抗体、BDエピトープ抗体はいずれもGM-CSF受容体との結合を阻害する領域を認識していることが分かった。赤点線はBDエピトープ抗体とGM-CSF受容体βサブユニットが衝突していることを示している。
B. GM-CSFとGM-CSF受容体をヒト化したマウスモデルを作製し、クラス1抗体を投与するとaPAP病態が誘導された。右図は肺組織のHE染色で、赤矢印はaPAP病態として泡沫状マクロファージが貯留していることを示している。
 
本研究成果は、2026年6月26日付けで、国際科学誌Nature Communicationsに掲載されました。
 
※一部の図は、Biorender.comを使用して作成しました。

発表者

東京大学国際高等研究所新世代感染症センター 分子免疫システム分野
 井上 毅 教授
兼:大阪大学免疫学フロンティア研究センター 招へい教授(研究当時)

大阪大学
免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室
 黒﨑 知博 特任教授(研究当時)

大学院医学系研究科
 二見 真史 招へい教員

研究助成

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP23K07625、JP22H00450、JP22K21354、JP25K02505、JP25K21766)、日本医療研究開発機構(AMED SCARDAワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学国際高等研究所新世代感染症センター))、ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(100日でワクチンを提供可能にする革新的ワクチン評価システムの構築)、大阪難病研究財団、アステラス病態代謝研究会、内藤記念科学振興財団の支援により実施されました。
 

用語解説

(注1)GM-CSF (granulocyte macrophage colony stimulating factor)
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子。免疫応答や造血を調節するサイトカインの一つで、肺胞マクロファージの成熟に必須。

(注2)サーファクタント
肺胞の内側を覆うリン脂質を主成分とする物質で、肺胞の表面張力を保つ役割を持つ。肺胞マクロファージにより分解・処理されるため、aPAPでは肺胞マクロファージの機能不全により肺胞内にサーファクタントが過剰に蓄積する。
 
(注3)体細胞超突然変異
B細胞の抗体遺伝子に生じる高頻度の点突然変異。これにより抗原に対してさまざまな親和性を持つB細胞が産生される。

論文情報

Shinji Futami*, Chie Kawai, Jun-ichi Kishikawa, Masaki Hirose, Hiroshi Kida, Po-hung Wang, Kazuo Yamashita, Fumihiko Ishikawa, Takayuki Kato, Yoshikazu Inoue, Atsushi Kumanogoh, Tomohiro Kurosaki# & Takeshi Inoue#, "Affinity- and epitope-dependent pathogenicity of GM-CSF autoantibodies in patients with autoimmune pulmonary alveolar proteinosis," Nature Communications: 2026年6月26日, doi:10.1038/s41467-026-74717-2.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

お問い合わせ先

<研究内容について>
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター 分子免疫システム分野
教授 井上 毅(いのうえ たけし)
https://inouelab.utopia.u-tokyo.ac.jp/
 
<機関窓口>
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)
https://www.utopia.u-tokyo.ac.jp/contact

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