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UTokyo研究室発グッズ集(第3回)

掲載日:2025年8月5日

UTokyo研究室発グッズ集

  • UTokyo

3

次世代の素材として期待される植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)を使ったUTCC(東京大学コミュニケーションセンター)の「UTokyo Go セルロースナノファイバーボールペン」と「どら焼き」。CNFに関する研究を行ってきた農学生命科学研究科の磯貝明先生に、その研究内容やCNFを利用した商品と、循環型社会実現への期待などについて聞きました。

植物由来の極細繊維から生まれたなめらかボールペンと食感が良いどら焼き

磯貝 明
ISOGAI Akira

東京大学特別教授

磯貝 明
セルロースナノファイバー(CNF)ボールペンの商品画像
UTokyo Go
セルロースナノファイバー(CNF)
ボールペン
1本 ¥380
どら焼きの商品画像
どら焼き
1個 ¥350
4個(箱入り)¥1,500

製紙用パルプの繊維をナノ単位まで解きほぐす

「UTokyo Go セルロースナノファイバーボールペン」と「どら焼き」に使われている、セルロースナノファイバー(CNF)という植物由来の極細繊維。製紙原料のパルプをナノ(10億分の1メートル)レベルまで解きほぐした繊維素材です。ボールペンのインク分散剤に配合すると、速記してもかすれにくく、書き味がなめらかになり、どら焼きの生地に添加すると、食感と保存性が向上する。鉄鋼の5分の1の重量で強度は5倍とも言われるCNFは、環境負荷の少なさからも注目されている次世代の素材です。

このパルプを3ナノメートル(nm)という最小単位まで完全に分離させる「TEMPO酸化法」を開発したのが、農学生命科学研究科の磯貝明先生です。学生時代からセルロースの基礎研究に取り組んできた磯貝先生が、TEMPOという有機化合物を触媒に使った研究を始めたのは1996年のこと。きっかけは、たまたま目にしたオランダの研究グループによる研究論文で、ごく少量のTEMPOを使ってデンプンの化学構造を変換できたという内容でした。デンプンはセルロースと同じ多糖類なので、面白い化学反応が起こるのではと研究を始めたと当時を振り返ります。

「何か役に立つものを作ろうという目的があったわけではなく、学術的な興味から始めた研究でした」

それから約10年後の2006年に、世界で初めてパルプの繊維を完全に解きほぐすことに成功しました。パルプをTEMPOで化学処理すると植物繊維中に無数にあるCNFの表面がイオン化し、CNF同士の結びつきが弱まります。その状態で、ミキサーなどを使って剪断力を加えると、繊維がほぐれ一本ずつのCNFとして取り出せるようになることが分かりました。その功績が評価され、2015年に森林分野のノーベル賞とも言われる「マルクス・ヴァレンベリ賞」を受賞しました。

何か面白いものになるのではと思い、研究成果とともに企業を回った磯貝先生。ボールペンやどら焼きなどの実用化につながったのは、企業が先導的に取り組んでくれた結果だと話します。

製紙用の針葉樹パルプ(左)、TEMPO酸化セルロース(中央)、CNF(右)
製紙用の針葉樹パルプ(左)、パルプをTEMPOで化学処理したTEMPO酸化セルロース(中央)。そのセルロースを水に分散させ、ミキサーなどで解繊処理してできた透明なゲル状のCNF(右)。
透明なゲル状のCNFが入った容器
透明なゲル状のCNFが入った容器の前後に直交偏光板を置くと、CNFが分散しているのが観察できます。

循環型社会実現への期待

CNFは二酸化炭素(CO2)削減に貢献する新素材としても期待されています。

「木は成長するときに二酸化炭素(CO2)を吸収し酸素を放出しますが、成長した木は生命を維持するために酸素を吸収し、CO2を放出するようになります。大気中のCO2削減のためには、植林、育林、伐採のサイクルを回していくことが大事です。日本の国土面積の約66%は森林で、たくさんある間伐材を有効利用するためにもCNFの応用が広がっていけばと思っています」

ボールペンやどら焼きのほかにも、消臭おむつや車の塗料などCNFの実用化事例は拡大していますが、その量はまだ極めて少ないのが現状です。磯貝先生が期待しているのはタイヤへの応用。タイヤに使われているカーボンブラックという微粒子の有力な代替素材に挙がっています。

「応用を広げるためにも、今後も基礎研究を続け、CNFの基礎データをコツコツと積み上げていきます」

買えるところ

(注)*2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの略称
※どら焼きの販売は店頭のみ
※価格は全て税込

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