奪われた祝祭を取り戻せ 情報学徒の「Mayfes Vibe」
1923年を端緒とする東大の春の学園祭、五月祭
。
99回目を迎えた今年、歴史ある祭典が大きな困難に見舞われました。
予定された参政党代表の講演会に対して爆破予告が入り、五月祭常任委員会の判断で1日目の午後の企画が全て中止に。しかし、この事態に「ゆるさんて」と立ち上がり、祝祭を取り戻すべく支援のウェブサイトを突貫で開発した情報学徒たちがいました。
その旗印は「Vibe」です。
(左から)中條麟太郎さん(CHUJO Rintaro) 学際情報学府 博士課程, 畑田裕二(HATADA Yuji) 情報学環 助教, 伴 玲吾さん(BAN Reigo) 情報理工学系研究科 博士課程, 横井総太朗さん(YOKOI Sotaro) 学際情報学府 博士課程
「五月祭を取り戻したいんですけど」
中條麟太郎さん、伴玲吾さん、横井総太朗さんは、人とコンピュータの間のやり取りを考えるHuman-Computer Interaction(HCI)が専門の大学院生。各々起業の経験があり、情報学の考え方やスキルにも共通点が多い同志です。五月祭1日目の5月16日16時41分、3人にSlackで1件のメッセージが届きました。
「五月祭を取り戻したいんですけどなんとかなりませんかね??」
送信者は畑田裕二助教。コロナ禍下の2020年にVR空間の安田講堂前広場で卒業記念イベントを実施したHCI研究者です。その7分後には、横井さんが「Vibe五月祭ですね」とすかさず返信。Vibeはノリや空気感といった意味で、無計画の状態から生成AIを活用して一気にソースコードを仕上げるVibe Codingが界隈では人気だそうです。
学部生の頃にデザインサークルでスイーツの店を出し、作品を見てもらえる喜びを味わった伴さんは、後輩たちが貴重な場を奪われたことに怒りを覚えていました。横井さんは同じサークルの出身。中條さんには実行委員としてがんばる友人がいました。人がいなくなった午後のキャンパスを見て「ゆるさんて」とつぶやいた助教と思いは同じでした。
一瞬で意図を共有した3人は、そこから議論を始めます。五月祭は場所に紐づいたイベントだから空間性を活かそうと主張したのは、コロナ禍の頃に教室混雑度確認アプリ
を開発した伴さん。地図上に参加者が絵を重ねるウェブサイトも頭にありました。会場外からリアルタイムで五月祭を感じるという視点を示したのは、横井さん。留学先のデンマークから参加していたことが効きました。掲示板的なものに政治性を離れた実装をと提案したのは、中條さん。Xでは一部の過激な主張が強調されますが、地図上に重ねて示す形ならフラットな見え方が期待できます。



Mayfes Vibeの画面。
ページ上で「つぶやく」を押すとXに座標と紐づけた投稿が可能。
閲覧者が気になるコメントを選ぶと元のX投稿が表示されます。「赤字」「ありがとう」の絞り込みフィルタは2日目に追加されました。
背中合わせの爆速開発
17時25分には「地図上にツイートをマップして、自分の近くの関連ツイートが浮かんでくる、みたいな融合の仕方を」と方向性を整理。時を同じくして実行委員会が2日目の実施決定を発表。17時34分には開発作業を始めますが、綿密な分担のすり合わせはありませんでした。
「議論で全体像をつかめたので、あとは足りない部分を各自が補うだけ。3人が背中合わせで各々の方向を見ながら一体となって進むような感覚でした」(中條)
五月祭関連のX投稿が地図上に自動で集約・可視化される仕組みを形にしつつ、広報活動も並行で行い、朝4時に一旦就寝。8時30分から改良を進め、会場を歩いて搭載した諸機能をスマホでテスト。多くの関係者が情報を拡散してくれたおかげでPR投稿の表示回数は30万を超え、「Mayfes Vibe」の画面には、赤字を訴えて来店を呼びかけた出展者たちからの感謝の言葉が並びました。
タイムライン式とは違う空間ベースの形式に新しいSNSの可能性を見出した「チーム畑田」は、研究の日常に戻り、今回の試みをまとめる論文に着手しています。題名は「Mayfes Vibe: ソーシャルメディア投稿の地理的マッピングによる祝祭化されたオンライン空間の創出」。5月のVibeから生み出された成果は、9月の学会で発表の予定です。



本来のVibeを取り戻した五月祭2日目の様子(撮影:伴玲吾)。


