播磨の巨大放射光施設の一角で新機軸のX線顕微鏡を研究&開発
学生時代は阪大で半導体のシリコンウェハーの加工技術を研究し、東大では光学素子製造の技術を研磨。
2020年からは播磨の巨大放射光施設SPring-8
にある研究室を主要拠点としているのが、木村隆志先生です。
微細なものを透かして見せる力を持つ電磁波に着目し、新手法によるX線顕微鏡の開発を進めています。
放射光大国の礎を築いた物性研
KIMURA Takashi
物性研究所附属極限コヒーレント光科学研究センター 軌道放射物性研究施設 播磨オフィス 准教授
光速近くまで加速した電子を磁石で曲げると、非常に明るい光(電磁波)が出ます。これが放射光です。もとは素粒子の実験用だった電子加速器が多様な放射光を出せることを活用し、放射光施設が発展しました。装置を間借りする形の第1世代を経て、第2世代では放射光専用の施設が登場。実は1974年に世界初の第2世代施設(SOR-RING)を稼働したのは東大の物性研究所です。ここで育った研究者たちの手で各地に施設が生まれ、日本は放射光大国となりました。
より多様な光を出せる第3世代の筆頭格であるSPring-8には、ビームラインと呼ばれる設備が60ほどあり、多くの研究機関が運用してきました。2009年稼働の東大ビームライン(BL07LSU)では、X線光電子分光法などでの発見が続き、光源の開発も大きく進展しました。アンジュレーターという装置をつけて磁石を増やすことでさまざまな光が生じます。BL07LSUではこの装置が8台もあり、光の蛇行具合を自由かつ高速に制御できます。
SPring-8は2027年に一旦停止し、2029年にSPring-8-IIとして再始動します。2台のアンジュレーターは新たに稼働した放射光施設である仙台のNanoTerasu
に移りましたが、残る6台は健在。私の研究室ではBL07LSUをX線顕微鏡の開発に使っています。
X線は波長が可視光より3~4桁短い電磁波です。アンジュレーターから出た光は広がるため、収束が必須。光学素子の精度を上げて極めて狭い範囲に当てる際に活躍するのは、回転楕円と回転双曲を組み合わせた複雑な鏡です。この分野の第一人者である三村秀和先生の研究室で助教を務めたことが、開発に大きく生きています。


鏡と計算機で精度を高める
ビームを絞ってスキャンする方法やビームを拡大して像を結ぶ方法もありますが、それだと精度が上がりません。私たちのX線顕微鏡は、ビームを試料に当てて出る回析パターンを計算機で処理して重ねて像にするタイコグラフィというもの(ptychoはギリシャ語で「重なり」)。試料の位置を変えて多数のパターンを得て計算し、鏡と計算機の両面から精度を高めるのが狙いです。
微細な対象を透かして三次元で見ることができるのがX線顕微鏡の魅力です。たとえばマウスの細胞では、薄い部分は数ナノメートルで厚い部分は数十ミクロン。厚い部分は電子顕微鏡だと全然見えませんが、X線顕微鏡だとしっかり見えます。また、波長が長いX線を当てて試料にどれだけ吸収されるかを調べると、どの元素がどれほど含まれるかが正確にわかります。
この特徴を活かすのが、農学生命科学研究科の児玉武稔先生(小学校以来の友!)との共同研究です。地球温暖化の実情を知るには海の植物プランクトンの元素循環を見ることが重要ですが、海水には動物プランクトンも大量に含まれます。見たい試料だけ培養すると元素量が変わってしまうし、時間もかかる。X線顕微鏡ならその心配は無用です。
微細構造と物性の関係を高い空間・時間分解能で結びつける新たなサイエンスを目指し、SPring-8を運用する理化学研究所と東大の橋渡し役を務めながら、播磨で研究を進めます。





