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地域に入り込むことで見えてくる、中世京都の民衆史|三枝暁子

掲載日:2026年5月19日

地域に入り込むことで見えてくる、中世京都の民衆史

日本中世史を研究する三枝暁子先生が、史料や情報が豊富に残る京都で注目してきたのが、「西京神人」と呼ばれる商工業者集団です。
史料調査と参与観察を通して探ってきた西京神人の歴史、そして現在も継続している「瑞饋神輿」研究について紹介してもらいます。

中世の商工業者集団、「西京神人」

三枝暁子
MIEDA Akiko
人文社会系研究科 教授

私は、中世の民衆の歴史を研究してきました。院政期から戦国時代にかけての時代です。この時代の民衆の多くは読み書きができなかったため、寺社や公家、武家など権力を持った人たちが残した文字資料からその姿を探ってきました。そうした史料が豊富に残るのが、政治や文化の中心だった京都です。

現在も継続している研究の一つが、京都市上京区にある北野天満宮の史料に見える「西京神人」と呼ばれる、天神信仰と結びついた商工業者集団の歴史です。住民の紹介で、西京神人の川井家に辿り着き、末裔が今も暮らし、室町時代につながる神事を現在まで伝えていることを知り、研究を始めました。

西京神人は中世において北野天満宮領「西京」を拠点に麹業を営み、麹の製造・販売の独占権を得た民衆集団です。やがて特権を失いますが、幕府や将軍と関わりながら生き残りを図りました。近世には町人として暮らしつつも神人としての役割を守り、瑞饋神輿を中心とする「瑞饋祭」を発展させました。

史料調査と参与観察を軸に研究を続けるなかで、2022年に、西京神人に関する新出史料が古書店で販売されていることを知りました。西京神人の神部家に伝来した文書群で、総数は600点に及びます。近世の神人としての身分や権益をめぐる文書、田地支配に関する文書・絵図、明治初期の神仏分離政策や西京神人の由緒にかかわる文書などが含まれています。2023年4月に、文学部日本史学研究室に所属する中世史や近世史専攻の院生たちとともに「神部家文書調査会」を立ち上げ、月1回のペースで史料調査を進めています。

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2024年3月に行われた「神部家文書調査会」の様子。
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三枝先生の著書
『日本中世の民衆世界—西京神人の千年』(岩波新書、2022年)別ウィンドウで開く
「西京神人」の歴史を綴った一冊。下に掲載の瑞饋神輿と里芋の茎の写真は本書に掲載のものです。

地域に入り込み、歴史を復元する

西京神人の研究として、瑞饋神輿と神饌作りの参与観察も行ってきました。瑞饋神輿は、もともと神人が北野天満宮に奉納していた神饌が室町時代の応仁の乱後、神輿の形へと変化したもので、里芋の茎「ずいき」をはじめとした農作物や乾物で飾る全国的にも珍しい神輿へと発展しました。毎年10月1日から5日間行われる瑞饋祭を象徴するもので、西之京瑞饋神輿保存会によって製作されています。保存会のメンバーは30人ほどで、立命館大学文学部の教員だった頃には、毎年9月になると毎日のように保存会を訪ね、「夜なべ」と言われる製作作業に参加し、観察や聞き取りを行っていました。地域を支える人たちの中に身を置くことで、史料の読み方も変わってきました。例えば、「神供を奉納した」というたった一行の記録からも、その背後で行われていた具体的な営みを想像できるようになりました。現在も、祭礼や神饌奉納の準備に立ち会い、地域の方々との交流を続けています。

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毎年、西之京瑞饋神輿保存会が製作している瑞饋神輿。野菜や花、果物などの農作物や海苔などの海産物を使って作られています。
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瑞饋神輿の屋根に使われる里芋の茎「ずいき」。

歴史を動かしてきたのは教科書に登場するような著名な人たちだけではありません。民衆を含む、一人一人が歴史をつくってきた主体です。そういう人々の歴史、可視化されていない歴史を可視化したいと思っています。今後も史料調査で得た知見を 地域の方々と共有しながら、フィールドワークと文献調査の両側から地域の歴史の復元をし、歴史学を社会に拓いていく試みを 学生たちと続けていきたいというのが私の希望です。

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2025年に保存会集会所で、神輿づくりをする西之京瑞饋神輿保存会メンバーたち。
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北野天満宮構内で神饌をつくる、「七保会」(西京神人の末裔の会)の方々。

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