ダイキン工業、吉本興業、クボタといった関西を代表する大企業と産学協創を推進している東大。
「空気」「笑い」「食と水と環境」……と多岐にわたるテーマに大学と企業の知を結集して取り組んでいる共同プロジェクトの現在を紹介します。
空調技術からVR漫才まで——関西と東大の連携実例
空気の価値を問い直す
2018年12月にダイキン工業と東大が開設した「ダイキン東大ラボ」。関西を拠点に空調事業をグローバルに展開するダイキンと東大の持つ幅広い学知を融合させ、「空気の価値化」をビジョンとして掲げ、空気に関する社会課題の解決や人のウェルビーイング向上などにつながる多様な共同研究や人材交流に取り組んでいます。その規模は10年間で100億円を超え、東大の大型産学協創の先駆的プロジェクトとして位置付けられています。
協創開始から7年がたち、いくつかの研究テーマは社会実装を検討するフェーズへと進んでいます。例えば、エアコンなどに使われる加熱・冷却技術のヒートポンプシステムの研究です。冷媒として環境負荷の小さい二酸化炭素(CO2)を使いつつ、高効率で熱を生み出す世界初の革新的技術開発が進んでいます。また、家庭向けエネルギーマネジメントシステムの新規開発も進行中です。太陽光発電、空調・給湯機、蓄電池、電気自動車(EV)充電器などを総合的に制御する最新技術を導入し、交流電源を介さず直流電源でつなぐことで安定して素早い制御を可能にします。
人材交流では、ダイキン社員が東大キャンパスを訪れて先端研究に触れる「LOOK東大」、教員が東大と企業双方に所属する「スプリットアポイントメント」やベンチャー協業など、多面的な接点を設けています。また、企業の海外拠点へ学生派遣を目的とした「グローバルインターンシッププログラム」を立上げ、継続的な人材育成にも貢献しています。



学問×エンタメ
異例の関西企業との連携が、2021年に吉本興業と立ち上げた「笑う東大、学ぶ吉本プロジェクト」。東大の「知」と吉本の「エンターテインメント」の対話から新しい価値を生み出そうという試みです。
このプロジェクトの一環として行われたのが、東大教授と吉本芸人が1対1で対話する「東大吉本対話シリーズ」です。執行役・副学長の佐藤健二先生と作家としても活躍するピースの又吉直樹さんが「言葉力」をテーマに対談し、先端科学技術研究センターの学びのプログラム「LEARN」を主宰する中邑賢龍先生とNON STYLEの石田明さんは「教育と笑い」を題材に語り合いました。第3弾として「サメに魅了された二人」をテーマに行われた対談では、魚類生理学を研究する大気海洋研究所所長の兵藤晋先生とココリコの田中直樹さんが、サメの魅力から地球環境問題まで幅広く取り上げました。
共同研究にも取り組んできました。その一つが、漫才日本一を決める笑いの祭典「M-1グランプリ」に関する研究です。笑いの構造や観客の反応、ネタの構成要素について3人の研究者が学術的に分析し、2022年7月には安田講堂で研究成果報告会を開催しました。
また、バーチャルリアリティ教育研究センターとの共同研究では「VR漫才」にも取り組みました。漫才ステージを仮想空間上で擬似体験することで、プレゼン能力を向上させようという研究です。石田明さんと取り組んだこの共同研究成果は、論文として『日本バーチャルリアリティ学会論文誌
』に掲載されました。学術と笑いを掛け合わせた多様な取り組みは今後も続いていきます。




』(講談社、2023年)。「M-1グランプリを科学する!」の研究をベースにお笑い芸人と研究者の対談等を紹介。「100年後に人は生きていけるのか」から始まった産学協創 ——クボタ東大ラボ
未来から逆算する研究と実装
WARISAWA Shinichi
新領域創成科学研究科教授
地球温暖化や人口増加などによって、食料や水を安定して確保し環境への負荷を抑えながら社会を維持することが、世界共通の課題となっています。こうした状況のなか、東京大学とクボタが2021年12月に立ち上げたのが「クボタ東大ラボ
」。クボタが10年間で100億円を拠出する産学協創で目指すのは、食料生産や水の安定的な供給を将来にわたって持続させることです。
「100年後に人は生きていけるのか、という共通認識からスタートしました」と話すのは、ラボ長を務める割澤伸一先生。「10年後であれば、技術の改良などで何となくカバーできてしまう。それを続けていると大きなスケールで起こっている変化に気づかず、100年後には生きていけなくなるかもしれません。そこで100年先をゴールに見据え、そのときに地球がどうなっているのかを分析しています」
その100年後のシナリオから現在を振り返り、必要な技術開発に取り組み、その成果を世界に行き渡らせるところまで考えたい、と割澤先生。
協創事業の土台にあるのが、「グローカル・ビオループ」という構想。食料や水、環境といった分野を、地域と地球規模の両方で一つの循環として捉え直すという考えです。短期的な増産が自然環境を損ない、結果として将来の生産基盤を弱めてしまう、といった負の連鎖を避けるため、複雑に絡み合う関係を整理し見直そうとしています。
現在進行中の共同研究の一つが農業機械の自動運転技術の開発です。雑草と作物、農地と農道の見分け、季節による景観や色の変化などの判断が農地では求められますが、そうした認識が「ほぼできる」段階に到達し、トラクターへの実装を目指しています。ほかにも、土壌微生物の研究や、次世代個体吸着剤の研究、農作物の収穫予想技術の開発などが並走中。これら個別に進められている研究を結集し、田無キャンパスの農場で検証する予定です。
「一つの農村モデルとして、ドローンで生育を把握したり、種や苗を自動で投入したりといった、未来のあるべき姿を田無で探っていきます。再来年くらいには形にして、見学してもらえるようにしたいです」
キャンパスから社会へ、人材の循環を
将来を担う人材の育成にも取り組んでいます。学部1年から修士までが参加するグローバル・インターンシップ・プログラム
では、タイにあるクボタの拠点で農業体験などを行います。非常に人気が高く、倍率は10倍以上にのぼります。
「将来を担うのは学生たちです。現実を見て、考え、社会に出たときに100年後の地球を支えるプレーヤーになってほしいです」
他にも、生産技術研究所を中心とした小中高生向けのプログラムや、東大とクボタの若手が固定メンバーで議論する「22世紀委員会」も開催しています。2025年からは、クボタの中堅管理職向けリカレント教育も始まり、協創事業に関連する研究をしている教員が大阪で講義を行っています。
現在は、こうした取り組み全体を束ねるビジョンづくりを進めていて、あと1、2年で形にしたいと割澤先生。
「研究し、製品化して終わりではありません。その先に何があるのかというビジョンを発信しなくてはいけない。社会の意見も聞いて、我々の考えに不足している点など対話をしていきたいと考えています」






