生活に支障をきたすほど没頭してしまうゲーム依存
2000年以降に中国や韓国で相次いで報告された、ゲームが引き金となった死亡事例。
80時間以上オンラインゲームをやり続けるなど、ゲーム依存が注目されるきっかけとなりました。
自身もゲームにはまった経験があるという大野志郎先生に、ゲーム依存、リスクが高い人、ポジティブな影響などについて紹介してもらいます。
児童・生徒がリスクにさらされている
社会科学研究所特任准教授
OHNO Shiro
ゲームやインターネット依存について研究してきました。そもそものきっかけは、私が大学生の時に「MMORPG」と呼ばれるジャンルのオンラインゲームにはまったことです。1日10時間くらいプレイしていた時期がありました。ゲームをやめられない状態ではありませんでしたが、周りには留年するなどある程度人生に影響が出ている人がいて、心理学的な側面から調べたいと思いました。
ゲーム依存かどうかの判断に広く用いられている診断基準は2つ。米国精神医学会による精神疾患の診断基準である「DSM-5-TR」の付録に掲載された基準と、世界保健機構(WHO)の「ICD-11」に掲載された基準です。2つの基準の重要な点は「主要性(顕著性)」と「統制不能」。ゲームが生活の主要な部分を占め、生活に支障が出ているのにも関わらず、自分でコントロールできない状態だということです。これらに当てはまると依存症の可能性が高いことになります。
- ゲームに対する制御の困難(例:頻度、強度、継続時間)
- 他の生活上の利益や日常の活動よりもゲームを優先する
- 否定的な結果が生じているにもかかわらず、ゲームを継続、またはエスカレートさせる
上記3項目すべての行動が1年以上続くと、ゲーム障害が疑われます。
診断基準は国によって違うため有病率を単純に計算することはできませんが、複数の論文の中央値をとるとおおよそ5.5%。私たちが日本で行った調査ともおおむね同じ値です。他の依存症と比べて特段高いわけではありません。一番の問題は、依存症リスクにさらされているのが児童・生徒だということ。ゲーム利用者は、家庭用ゲーム機だと小学生、スマホゲームを含めると高校生が一番のボリュームゾーンです。スマホの普及で、親の監視下から逃れていつでもどこでもゲームができるようになった今、学校でも正しい使い方やリスクについて、しっかり時間を割いて教える必要があります。


- 『子どものICT利用に関する調査2023
』 - 社会科学研究所がベネッセ教育総合研究所と共同で行ったICT機器使用に関する調査結果。インターネットの利用やゲームに関する調査も含まれています。対象は小学4年生から高校3年生までのおよそ9000人。
高リスクの人は注意が必要
これまで主に小学生から高校生を対象に、ゲームに関するアンケート調査やヒヤリングなどを行ってきましたが、実際には依存症の心配がないケースがほとんどです。注意しなければならないのは、依存に対して「脆弱」だと考えられている心理的な傾向や性格特性を持つ人たちです。ネットゲームを「デジタルドラッグ」と呼び、コカインやヘロインといった薬物中毒にたとえる専門家もいます。ある一部の人にとってはそれぐらい強いものだという認識です。
治療方法はいくつかありますが、結局のところ立ち直るためには、ゲーム以外の行動を獲得しなくてはなりません。スポーツや音楽、ペットを飼うなど楽しいと思えることでゲームをしたい衝動に対処する必要があります。ゲーム以外にやりたいことがないという状態にならないように、日々いろいろなものに関心を持っておくことが大事です。
一方で、ゲームにはポジティブな影響があることも忘れてはいけません。学生への調査では、多くが「毎日が楽しい」、「ゲームを通して友達ができた」などと回答しました。生活を浸食するより、精神的な健康を支える側面の方が大きいと私は考えていて、分析を進めています。取り組みたいテーマの一つがスマートシティにおける娯楽。スマートシティに関するさまざまな取り組みが行われていますが、ゲームを含む娯楽の情報環境はあまり焦点になっていません。そこを研究していきたいです。
- 大野先生の推しゲー
- 『Clair Obscur: Expedition 33
』(Kepler Interactive/Sandfall Interactive)
「世界的に流行ったRPG。ストーリーメインで進み、オンライン機能がほぼないので、ストーリーが終われば無制限にプレイするリスクが低いという良さも」
- 『逃避型ネット依存の社会心理
』(大野志郎著、勁草書房、2020年) - インターネット依存に関する学術的研究のこれまでや、様々な要因の整理、そして「逃避型」インターネット利用に焦点を当てた一冊。


