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資本主義を問い直す 東京フォーラム2025が開催。深刻な課題に直面する資本主義とその未来を探求

掲載日:2026年2月19日

資本主義は、1989年のベルリンの壁崩壊以来、事実上のグローバル経済システムとして急速な経済成長や技術革新を支える一方、経済格差の拡大や気候危機などの重大な課題を引き起こしています。世界が不確実性に覆われる今、資本主義を問い直し、進化させることで、より良い未来につなげることが急務となっています。
 
このようなテーマのもと、東京フォーラム2025は「資本主義を問い直す:多様性・矛盾・そして未来へ」と題し、11月21日(金)、22日(土)の2日間にわたって安田講堂で開催されました。一般参加者が耳を傾ける中、世界各地から研究者や経営者・起業家などが一堂に会し、資本主義が抱える喫緊の課題や今後の展望などについて議論を深めました。東京フォーラムは、「Shaping the Future (未来を形作る)」を包括的なテーマとして、2019年から毎年東京大学と崔鍾賢学術院(韓国)が共同で開催しています。今回で7回目の開催となりました。



開会の挨拶で、東京大学の藤井総長は、資本主義の課題解決に向けたアプローチとして日本国内のビジネス界で議論されている「共助資本主義」の概念を紹介し、次のように述べました。「ビジネスは社会の一翼を担います。経済的利益は重要ですが、人々やコミュニティ、そして近年とりわけクローズアップされている持続可能性もまた、同様に重視する必要があります。企業、大学、行政、そして市民が『共助』の枠組みにおいて協働することは、有意義な成果を得るためになくてはならないものになっています。その協力関係が社会経済 に信頼性を与え、強固にするのです」

さらに、藤井総長は、高齢化や人口減少、エネルギー問題、経済格差など諸問題の解決における大学の役割に触れ、東京大学の取り組みを紹介しました。「我々は、様々なパートナーとの協力関係を優先的に構築し、産業界、大学、市民社会をつなげる役割を担っています。気候や健康、近年ではAIをめぐる課題を解決するために、起業や非営利団体の立ち上げを目指す東京大学の学生にとって、東京大学が社会と結ぶ協力関係が不可欠となります。学生の多くは自分たちの手で社会をより良い場所にしたいと考えているのです。彼らの強い決意には心から敬意を表します」

また、韓国SKグループのチェ・テウォン会長は開会の挨拶で、資本主義の根本的な欠陥は、財務的な価値   のみを評価することにあり、それが社会の二極化や環境問題を噴出させていると指摘しました。この問題を解決するには、社会価値に基づいた資本主義の構築、つまり社会価値をもっと評価し、社会価値を提供しながら資本主義の課題を解決することを目指すべきだと説きました。また、SKグループが、雇用創出、税金貢献 、環境負荷、CSR活動などに指標を設け、過去10年間にわたって企業活動がもたらす社会的影響 を評価してきたと述べ ました。

 

資本主義を問い直す多様なアプローチ

開会の挨拶に続き、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのマリアンヌ・ベルトラン教授、東京大学大学院経済学研究科の小島武仁教授、ソウル大学校経済学部のキム・ビョンヨン特別教授の3氏が基調講演を行いました。

ベルトラン教授(正式な肩書は、クリス・P・ディアリナス記念経済学教授)は、1970年代後半以降に米国の資本主義がどのように変化してきたのかについて論じ、政府の規制が弱まることで、ビジネス界及び超富裕層の経済的な力が拡大し、それがさらに彼らの政治的な影響力を強めるという悪循環を生じさせたと指摘しました。その結果、上位1%の富裕層が同国の富の4割を所有するという状況に至ったと述べ、その解決に向けては政府への信頼を回復することが不可欠であるが、富の再分配を伴うため容易ではないとの見方を、同教授は示しました。


小島教授は、従来の価格決定メカニズムを採用することで倫理的、法的な懸念が生じる場合には、「マーケットデザイン」の手法が有効だと語りました。マーケットデザインは、学際的な知見と工学的な手法を取り入れて市場の問題を解決するもので、小島教授はゲーム理論を用い、ルールがどのような決定を促し、最終的にどのような資源の配分をもたらすかを予測しています。この手法は、公立高校入試における公平性担保や医師の偏在解消にもつながると説明しました。

キム教授は、資本主義と社会主義の比較や、現状の打開に向けた3つの選択肢(資本主義の修繕、資本主義以外のシステムへの転換、資本主義の作り直し)  を検討しました。その上で、資本主義には課題が山積しているものの、「AI社会主義」など他の制度に転換させるべきではなく、現在の資本主義を変革させることこそが必要だと説きました。また、「健康な文化は健康な資本主義を支える」とし、東アジアの資本主義は共感の要素を内包している点がメリットになると指摘しました。

3氏は基調講演に続き、東京大学大学院経済学研究科・東京カレッジ長の星岳雄教授がモデレーターを務めるプレナリートークセッションに登壇し、活発な議論を繰り広げました。3氏は、純粋な市場原理  に頼った解決法や資本主義以外のシステムへの抜本的な転換 は現実的ではなく、持続可能な資本主義の構築には、制度の刷新や、文化の醸成、国家能力の向上 など、慎重かつ緻密 な改革が必要だという点で一致しました。 



このセッションでは、「脱成長(生産や消費を抑えることで資源の使用量を減少させ、環境負荷を下げる考え方)」についても意見が述べられ、3氏は「脱成長は、資本主義が抱える問題の根本的な解決には至らない」という点で一致しました。ベルトラン教授は、先進国の多くの人々が満ち足りた生活をしている一方、その他の人はみな日々の生活にも困窮しており、グローバルな視点から見れば「脱成長は、憂慮すべき考え方」と述べました。  小島教授も同意した上で、管理された資本主義   (政府が必要に応じて市場に介入するシステム)のメリットに触れ、「限られた資源を有効に活用するという点で、環境保護の観点からも重要な考え方である」と述べました。

キム教授も、「ゼロ成長 は気候変動の課題への取り組みとして有益である」であるとしながらも、「発展途上国にゼロ成長を期待するのは不公平」と強調しました。また、資本主義は、「非常に繊細で壊れやすく、 ダメージを受けやすいシステム。すべての課題を解決するのは困難な制度である」と説明しました。

さらに3氏は、近年著しい成長を遂げた、中国の経済システムについても見解を述べました。キム教授は、「民主主義と市場経済は相互依存の関係にあり、どちらも自由に立脚して互いに支えあう仕組み」であるが、中国経済は「資本主義に社会主義の要素をミックスしたシステム」「権威主義プラス資本主義」であると述べ、その持続可能性に疑問を呈しました。  また、ベルトラン教授は、中国経済は専門外としながらも、「西洋の伝統に身を置く者としては、『消費や住居の選択は自由だが、投票など政治的な自由がなく、国家から強制を受ける』というのは想像すらできません。一体、どのように持続していくのでしょうか」と、発言しました。小島教授は、「新しい技術革新の探求や、さらなる経済発展を促進するには『新しいアイディアを試す自由』が必要ですが、中国はその自由を十分に与えていない」と、専門家 の見解を引用しながら述べました。

締めくくりの議論では、ベルトラン教授と小島教授は、富の再分配を行うには国境を超えて適用されるグローバル税の導入が有効であるという点で一致したものの、その実現にはかなり高いハードルがあると述べました。キム教授は、「現在の資本主義では、今後試練が訪れる。資本主義や民主主義の危機 に対処するためには、我々のライフスタイルを変える必要がある」と結論づけました。

 

パネルディスカッション:「民主主義」「脱成長」「学問と資本主義」「宇宙と資本主義」 

シンポジウムではそのほか、4つのテーマでパネルディスカッションが行われました。
 


パネルディスカッション1は、「民主主義なき繁栄―『近代化論』の21世紀的再検討」をテーマに活発な議論を繰り広げました。近代化論とは、経済発展することにより自然と民主主義が育つと仮定する理論です。しかし、世界の民主主義の現状を見ると、「富が権威主義回帰を防ぐ」という近代化論の仮説との矛盾が生まれています。実際、国際的な監視機関Freedom Houseのデータによると、過去20年間にわたり、世界は顕著な経済発展を達成したのにもかかわらず、民主主義国家の数は減少の一途を辿っているのです。

パネリストの一人、ミシガン州立大学政治学部のエリカ・フランツ准教授は、民主主義が直面する脅威の変遷について次のように説明しました。「過去の民主主義への典型的な脅威は、軍事クーデターでした。しかし、独裁国家に転じた国々が豊かになるにつれ、民主主義を脅かすものは大きく変容し、今日の最大の脅威は、選挙で選ばれた指導者からもたらされています」。さらに、「民主的な選挙で選ばれた為政者が、ゆっくりと少しずつ民主的な制度を崩していき、最後には何も残っていない状況にさせています」と続け、民主主義が危機に瀕している国家として、インド、  マダカスカル、メキシコ、米国を挙げました。
 


パネルディスカッション2は、「米国大学の危機と、グローバルな高等教育の将来:学問と資本主義の関係を再考する」をテーマに議論を展開しました。「未来へのインフラ」とも称される大学を財政的に持続させるためにはどうしたらいいのか、エンダウメント、民間資金・公的資金などの予算源を分析しながら考察したほか、第2次トランプ政権発足後の米国大学の危機とその影響や、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)の世界大学ランキングの役割について語り合いました。

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の三牧聖子教授は、トランプ氏が米大統領に再選された後、ハーバード大学ほか名門大学に対して連邦政府からの助成金を打ち切ると圧力をかけた背景について、大学におけるDEI(多様性、公平性、包摂性)関連の取り組みや、イスラエルのガザ攻撃をめぐる学生の抗議運動に対する同氏の強い不満があったと説明しました。「米国の大学は潤沢な資金を持ち、それが政治的な圧力に対する盾となると考えられてきたのですが、現実には、トランプ政権に対して白旗を上げ始めているのです」と三牧教授は述べ、「米国のソフトパワーの衰退」への懸念を表明しました。ソフトパワーとは、強制的な手段を用いずに、自国の価値観や文化を通して他国に影響を与える方法で 、三牧教授は、ハーバード大学の故ジョセフ・ナイ教授の「大学はソフトパワーの源泉」という言葉を引用しながら、その重要性を説きました。
 


パネルディスカッション3は、「これからの社会変革を編み出す:脱成長とウェルビーイング経済が描く『その先』の社会」 をテーマに掲げました。プレナリートークセッションでは脱成長が発展途上国にもたらす負の影響が指摘されましたが、このパネルでは、際限ない経済成長 の先を見据え、「成長」という概念を再考しました。背景には、人類が地球上で持続的に生存していくために守るべきプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)のうち、気候変動や生物多様性の減少などがその限界を超えてしまった という厳しい現実があります。議論の焦点になったのは、人類が、持続可能な方法で、充実した生活を送れるようにするにはどうしたらいいのかということです。

バルセロナ自治大学環境科学技術研究所(ICTA-UAB)のヨルゴス・カリスICREA教授は、「『ポスト成長』とは、人類がプラネタリー・バウンダリー内の安全な活動領域でウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に満たされた状態)を達成すること」と説明しました。その達成には、人々の基本的ニーズを満たしながら、化石燃料の急進的かつ段階的な廃止を通してエネルギーの転換を行うこと、社会的に不利な立場に置かれる人々からの搾取を根絶することなどが重要だと述べました。また、ポスト成長の実現可能性について、「公共交通や再生可能エネルギー、小型住宅の利用や地産地消などによって、現在と比べわずかなエネルギー消費量で90億人が適正な生活水準を確保できる」という研究結果を紹介しました。  



パネルディスカッション4では、「宇宙資源と資本主義―制度・倫理・科学の視点から」をテーマに、宇宙資源を開発する際の科学的課題や人類への恩恵の可能性のほか、高度な科学技術を持つ一握りの国や組織のみが宇宙を開発・利用することは許されるのか など、倫理的な課題も議論されました。

アリゾナ大学月惑星研究所のエリック・アスフォーグ教授は、科学的観点から宇宙経済の実現可能性について説明し、地球の引力、宇宙までの距離や到達までのエネルギー消費量、人命にかかわる宇宙放射線量が放出される危険な環境、宇宙空間での人間の脆弱性などの課題を克服することが必要であると述べました。

一方、コロラド鉱山大学機械工学科宇宙資源プログラムのディレクターを務める、アンヘル・アブド=マドリード教授 は、開発可能な宇宙資源について説明しました。例えば、宇宙の超真空、低重力環境は光ファイバーや医療用インプラントの製造に適しています。また、宇宙での発電に利用する太陽光などの無形資源や、鉱物、水、酸素、二酸化炭素、土などの有形資源は活用できる可能性が高く、アブド=マドリード氏は、「江戸がどのように東京へ変貌したかを思い出してほしい。江戸はかつて小さな漁村に過ぎませんでしたが、土を使い埋め立てたことで世界最大級の主要都市となった」と、東京の例を挙げながらその重要性を説明しました。
 

 

日韓の学生が若い視点から資本主義の課題に取り組む

また、ビジネスリーダーセッションでは、藤井総長やチェ会長が開会の挨拶で触れた「共助資本主義」「社会価値の評価システム」など、資本主義の改革について議論が活発に行われました。

 

さらに、この東京フォーラムのハイライトの一つであるユースセッションでは、東京大学と韓国のトップ大学に通う学生19名が5つのグループに分かれ、4ヶ月にわたる国際協働プロジェクト の成果を発表し、資本主義の課題解決に向けた戦略を議論しました。

第1グループの東京大学の学生は、発表の冒頭で資本主義を次のように定義しました。「私たちは資本主義の中で生きています。しかし、それが日々の思考へどのくらい深く関与しているのかを、常に認識しているわけではありません。資本主義とは何か。私たちは、『価値が資本に変換され、その資本の量によって成功が決まる』というのが、市場主導のシステムだと定義します。単純な説明に聞こえるかもしれませんが、多くの若者にとって自身の置かれた状況を理解する起点になると、私は考えています」

続いて  、学生が社会人になる際に感じる、熾烈な競争を経なければ高収入で魅力的な就職先を確保できないなどの資本主義のもとでの「不安」と、その解消法について深掘りしました。日本と韓国の二十代の若者にインタビューを敢行し、その結果をもとに、学生が経済的に自立することの意義を考えながら人生で本当にやりたいことを見つける、「A Living Lab for Rethinking Work(仕事を再考するためのリビングラボ)」という取り組みを提案しました。

第2グループは、人間関係、情緒的なつながり、親密な関係性を商品化して利益につなげる「インティマシーキャピタリズム(Intimacy Capitalism)」 を取り上げ、このビジネスモデルが、感情の搾取や血の通った人間関係を商業目的の感情に代替することなどの問題を内包していることを指摘しました。利用者をプラットフォームから感情的に離脱できないようにすることで企業の利益を最大化するこのビジネスモデルが、信頼関係の崩壊を容易に引き起こし、最終的には民主主義の根幹を脅威にさらすと結論づけました 。

このような事態を回避するには、AIを明確な社会ルールで規制し、人間中心の技術革新を実現することが肝要です。高麗大学の学生は、「私たちが問題としているのは、AIの技術革新についてではなく、技術革新が搾取を助長するという問題です。この問題における選択がもたらす影響を最も長く背負うのは、私たち若い世代です。そのため、私たちは『感情豊かな世界』を脆弱にするのではなく、強固にする技術がある未来、それを形作るための議論を重ねることが必要なのです」と語りました。 

ほかの3グループも、「日韓の高齢化と社会的孤立の問題を結びつけた解決策」「SNSやカフェとの協働、eギフトを通じた、エシカル(倫理的)消費やフェアトレードへの理解促進」「若者が資金調達しやすく、資金リスクを軽減できる、スタートアップエコシステム の拡充」について、若い視点から様々な提案を行いました。



最終セッションでは、東京大学の林香里理事・副学長が司会を務め、藤井総長と日韓の学生代表による質疑応答が行われました。その中で学生たちは、「以前は、資本主義を『格差を生み出す悪いシステム』だと捉えていたが、今回のプログラムに参加し、資本主義の良い面、悪い面の両面を認識することができ、理解が深まった」などと感想を述べました。
 


林理事は閉会の挨拶で、「日韓が協働すれば、市場と社会の協調をベースにした経済モデルを提示することが可能です。新しい経済モデルは、富の創造・共有のみならず、学術研究、科学、文化などの公共財を強化するものとなるでしょう。東京フォーラム終了後も、共同研究や新たなパートナーシップ、教育プロジェクトを今後も維持し、産業界、学術界を結集し、倫理的使命感を持ちながら資本主義の未来を形作っていきましょう」と述べ、2日間の議論を締めくくりました。

 

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