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第4回東京大学地域連携シンポジウム 開催報告 学生×地域の連携~学びと実践が拓く地域の未来~

掲載日:2026年3月12日

第4回東京大学地域連携シンポジウム
「学生×地域の連携~学びと実践が拓く地域の未来~」 開催報告

2026年1月28日(水)、東京大学山上会館大会議室にて、第4回東京大学地域連携シンポジウムを開催いたしました。

地域連携シンポジウムは、全学や各部署で展開している地域連携に関する事業間の情報共有の場を設け、同様の課題を有する地域同士の連携を促進することを目的として、毎年開催しています。今回は、「学生×地域の連携~学びと実践が拓く地域の未来~」をテーマに掲げ、学生・自治体職員・教員の視点から学生による地域連携活動について考えました。

行政関係者、学生をはじめ、大学教職員、会社員等多くの方に会場にお越しいただいた他、オンライン配信には遠方からも多くの方にご参加いただきました。

「FS学生から自治体職員へ ~2つの立場から見る地域連携の意義~」
小堀 陽平 鳥取県輝く鳥取創造本部中山間・地域振興局中山間・地域振興課 課長

(小堀 陽平 課長)

学生時代にフィールドスタディ型政策協働プログラム(以下、FSという。)や体験活動プログラム等に参加した経験を契機に総務省に入省。地域連携活動に参加する学生、学生を受け入れる自治体職員双方の立場の経験をもとに学生の地域連携活動について語りました。
学生にとっての地域連携活動の意義は、派遣先地域の関係人口となり、自分の生まれ育った地域以外にも深く知る地域をつくること、「人間修行の場」として「東京から来た学生」という関係を超えた関係性を築き、一人の人間として派遣先地域の住民と関わる経験をすること、地域・地方を表面的に理解するのではなく、地域毎に異なる課題や歴史・文化・地理があるため、「東京と地方」のような二項対立の関係性で語ることはできないと知ることにあると説明しました。
また、行政の立場として行政にはできないが学生だからこそできることを期待しており、具体的にはこれまで地域づくりに関わってこなかった人を巻き込み地域をかき回すことで、学生が地域の「起爆剤」になること、学生は行政にはできない「えこひいき」ができるため、その点を活かして行政ではつくれない人のつながりを生み出すこと、派遣先の関係人口として地域に継続的につながることと説明しました。また最後に自治体側は東大生の知識を活かした斬新な政策提言を期待するのではなく、学生には「視点」を求めるべきだと語りました。
 

「能登は可能性に満ちている ~東大FSプログラム・能登町支援チームの活動から~」
灰谷 貴光 能登町役場復興推進課 主幹

(灰谷 貴光 主幹)

FS受け入れ7年目にあたる2024年1月に能登半島地震が発災しました。その直後からFSの参加学生がInstagramを通じて被災情報や救助情報を発信したことや、参加学生・修了生を中心に発足したFS能登町支援チームの取り組みについて紹介しました。
FS能登町支援チームの学生たちは避難所での炊き出しや被災者との対話を通して当事者意識が醸成されたのではないか、また、2024年9月の奥能登豪雨の際には学生たちが自主的にボランティアツアーを実施したり、豪雨被害を受けた施設の土砂出しを行ったりしたことで、学生たちが地域住民から認められる存在となったのだろうと語りました。ほかにも被災した能登町の酒蔵の日本酒を五月祭で販売し、その収益を能登町や酒蔵の組合に寄付するなど、震災後の活動を通じて生まれた学生たちの当事者意識が「自分たちにできることを考え、正解を探すのではなく、まずはやってみた」という行動につながり、これが震災後の学生たちの行動変容であると語りました。
 

「地域と建築家」
川添 善行 東京大学生産技術研究所 准教授

(川添 善行 准教授)

自身も建築家である川添准教授からは、これまで建築家たちが役所等地域の建築に携わり、開かれた市民社会の形成に貢献してきたこと、21世紀になってからも各地域の建築物はその機能だけでなく、各地でどのように人々が集う場所を作っていくかを考えて設計されており、地域の個性と建築物とは切っても切れない関係であり、地域と建築とは相互補完的な関係であることの紹介がありました。日本は2000年頃から非都市人口が急激に減少しており、その社会構造の再デザインが必要であったこと、地域(空間)をどうデザインしていくかは建築の分野の取り組むべき課題である一方で、建築学を構成する歴史、構造、設備、構法などの分野と、各分野の根本となる形や色彩に関する「専門としての意匠」・各分野を統合する「働きとしての意匠」の「意匠の二重性」について考えた際に、建築学を構成する体系に地域という分野は組み込まれていなかったとの話がありました。そして、地域からどう学ぶかが建築学において重要であるとの視点から、和歌山県加太地域や福井県で行ってきた地域計画プロジェクトの紹介がありました。
加太地域では2014年から様々な取り組みを行ってきた中で、2018年には助教が加太地域に移住し常駐する「地域ラボ」を開設したほか、ラボ開設後には「加太・友ヶ島キャンプ」と題しデザイン系の学生や様々な国からの留学生が一緒になって学生たちが地域に関するテーマについて様々な提案を行うという取り組みを行ってきました。川添准教授は加太地域での経験を通して、このような活動は具体的なモノをつくることが目的ではなく、まちとは「人と人との関係の結ばれ方」ではないかと感じたと語りました。ほかにも、建築学を学ぶ学生が地域に入ることは、これまで学んできた基本を自分なりにどうやって社会に応用していくかを学ぶ機会になるうえ、これまでの建築のやり方が通用しない地域が増える現代においては、専門家よりも専門を知っている学生(若者)の方が地域の建築にとっては効果的なのではないかと語りました。
また、福井県の東尋坊で地域全体の地域計画や施設計画のデザインに携わる中で、こうした活動には高度な専門性が必要である一方、専門家以外にも地域の未来の担い手である若者や学生も活動に関わるべきだと感じたと語りました。ただ、若者や学生は専門家に比べると情報量や経験が不足しており、こうした問題をどう解決するかが「学生がどう地域に参加するか」という点の延長線上にある本質的な問いなのではないかと指摘しました。
 

「他人事を自分事に~当事者性を育む地域連携活動を考える~」
牧野 篤 大正大学地域創生学部 教授(東京大学 名誉教授)

(牧野 篤 教授)
牧野教授と学生が携わってきた東日本大震災被災地での活動や、都内の空き家活用事業を事例に、学生の当事者性を育む地域連携活動についての報告がなされました。牧野教授は、政策や行政の論理にはその合理性がある一方、地域の人々にも生活の合理性があり、そこに訴えかけないと政策はうまく機能しないとし、研究者は自身の研究を通して社会の在り方を考えていくことが問われていると指摘します。そのような意味でFSや体験活動プログラムは単なる学生の体験ではなく、大学の在り方、さらには行政や政策の在り方を問い返すことにもつながり、その帰着点は手を挙げれば誰かが助けてくれるという社会に「信任」をつくることにあり、プログラムにもそのことが込められていると語ります。
また、質的多様性を重視する時代に対応するために行政は標準形・一般型のサービスの提供ではなく多様化するニーズに応えようとしたものの、結果的には住民の行政依存やクレーマー化を促してしまい、住民が孤立していくような社会につながってしまったと指摘します。そこから問題解決を目的とする社会ではなく、問題を横にずらして問題ではなくしていく社会、問題が起こらない社会を目指していくことが重要であるといいます。
さらに、消費者が消費に飽きてきている現代でも、誰かと一緒になって新しいものを作っていくというような関わりの中では個人の欲求を超えて新たな欲求が生まれ、それが新しい人間関係や社会の構想につながっていき、孤立・自己防衛ではなく社会に信任をつくる関係ができていくと指摘します。その基盤が「Compassion」です。「Compassion」は一般的に「共感」などと訳されるものの、実際には他人の悲しみや苦しみを切り取って自分の悲しみや苦しみにできる力の意味であり、Compassionを働かせ、我が事化していくためには周りとの関係性が重要であり、(各人が当事者性を持つことで)次世代に向けて「恩送り」をするような社会になっていくのではないかといいます。ほかにも、楽しいことが起こりそうだと予期しながら(Anticipation)、そのことを実際にやって(Action)、すぐに振り返って次につなげることで(Reflection)、次々に人を巻き込みながら良い関係の中でお互いが刺激しあう「AAR連鎖運動」が生み出され、一人一人がプライドを持って生きていけるのではないかと語りました。この運動を生み出すために牧野教授が採用しているのが、ちょこんとお邪魔して寄り添い伴走する形で巻き込まれて、自分自身が当事者性を持つという「Passive Action Research」で、この方法をもとに人と人との間にきちんと位置付けられる「Be-ing」であることで、人のために「よきこと」をしないではいられなくなる「Do-er」になっていくといいます。このように自分自身がよそ者から当事者になっていくことが重要であり、学生たちはFSや体験活動プログラムからこのような意識の変化を体験し、学生の変化によって住民も変わり良い関係づくり、まちづくりに繋がっていくのではないかと指摘しました。
 

トークセッション

秋山聰副学長・社会連携本部副本部長の進行で、講演者に加えて地域連携活動に携わっている現役の学生も参加し、学生による地域連携活動の意義や課題等について議論しました。
 

飛田 映月 東京大学教養学部2年

  • ウェルネスタウン構想を掲げる和歌山県上富田町のFSに参加し、スポーツセンターの利用率向上のための施策に取り組み、現場の声に向き合いながら、地域の文化や特産品等を結び付け、地域全体の熱量を高める視点を学んだ。また、日本の課題解決のためには海外から見た視点も必要だと感じ、東京大学の協創企業等の海外拠点に学生を受け入れるプログラムUTokyo Global Internship Program(UGIP)にも参加し、受け入れ先のダイキン工業(株)の環境技術を用いてタイのMZ世代向けの製品提案・販促方法を提案した。さらにグリーンエキスポに参加した際に興味を持った北海道神恵内村の地域商社でのインターンの経験を踏まえて、海の資源によって関係人口を創出することを目指し、現在は(株)電通と大学の共創プログラムUTokyo CO-creation Program(UCOP)にも参加している。
  • 様々なプログラムに参加する中で、現地に行ってその場の状況を五感で感じることの大切さと、課題解決のためには学生・自治体・企業など様々な視点を持つことが重要であると学んだ。
その後、以下の議論が交わされました。
  • 地域の課題に興味がないという学生もいるが、身近なものから考えると自分自身に当事者意識が芽生え、実際に地域連携活動に携わってみようと思えるのではないか。
  • 大学側が自治体に対して「学生が関わると良くなる」という無自覚な思い込みを持つことに気を付ける必要があり、学生だからある程度自由に発言できるというような考えを持つと学生という立場を搾取される可能性がある。
  • かつての濱田純一総長が体験活動プログラムを立ち上げた際に想定していたタフさとは引っ張っていく力を指していたが、現在のタフさは社会の中に入り込んで曖昧な状態で耐えられる力のことを指している。
  • 地域連携活動に関わるのは学生ではなく、若者でもいいと思うが、自治体にとっては学生の方が関りしろを見つけやすいと思う。能登町の事例で言えば、学生が地域と深く関わっていく中で徐々に「学生」から「地域の若い衆」に変化していっていると思う。
  • 大学が自治体に対して学生を「受け入れていただく」というスタンスから地域連携活動が始まると、徐々に自治体が大学に依存してしまうケースがある。大学は地元を動かす力の一部にはなるが主力にはならないので、地元の人たちが本気になって動いていくことにどれだけ大学として寄り添っていけるか、学生であればどれだけ学べるかが重要である。
  • 「関係人口」という言葉に落ち着いてしまうと、その先が生まれなくなってしまう可能性があるため、大学として地域連携に取り組むときに「関係人口が増えたから良い」と言ってしまわないように注意しなければならない。
 
    
(トークセッション)

※関連ページ
・フィールドスタディ型政策協働プログラム(FS)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/special-activities/h002.html

・体験活動プログラム
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/special-activities/h19.html
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