東洋文化研究所のパッタジット准教授が三島海雲学術賞を受賞
三島海雲学術賞は、自然科学及び人文科学の研究領域において、創造性に富み、とりわけ優れた研究能力を有する若手研究者(45歳未満)を顕彰し、その研究の発展を支援することを目的とした賞です。
贈呈式は、7月10日に開催されました。



受賞作
パッタジット・タンシンマンコン著『タイ外交史を読み直すー「竹の外交論」からの脱却』(東京大学出版会 2025年3月)

書籍抜粋
タイの外交は、しばしば「風にしなう竹」(バンブー・ディプロマシー)という比喩で語られてきた。歴史の折々に現れる大国の脅威を「風」にたとえ、聡明な指導者がその風向きを読み、巧みにしなうことで、タイは「東南アジアで独立を保つことのできた唯一の国」になったという語りである。具体的には、近世以前には中国という風にしなって朝貢使節を派遣し、19世紀半ばには英仏の風にしなって不平等条約と領土割譲を受け入れつつ植民地化を回避した。第二次世界大戦時には日本の風にしなって同盟を結ぶが、日本の降伏直後には宣戦布告を含む戦時条約の無効を宣言して敗戦国化を免れた。冷戦期には米国の風にしなって共産主義化を回避し、ベトナムが最大の脅威と見なされた1970年代には中国の風にしなって1975年に国交を樹立、1990年代以降は強まる中国の風にしなりつつ、米・日など他の大国との友好関係を維持してきたという歴史観である。
本書の狙いは、タイ外交の叙述を、大風が来ると機械的な反射のようにその風に賢くしなうという「竹」が語る神話から脱却させ、タイ外交を「歴史化」することをことである。それは、実際に都合の悪い、不合理な、偶発的な、意図しない出来事や、国家を単位として語られる外交史の中で埋もれ、忘却され、時に敵視されてきた人々の認識を掘り起こし、不規則なふるまいをする人間性が垣間見えるような「もうひとつ」の外交史を描く試みであった。


